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​連載:IPO市場の健全な拡大に向けて  (1)技術のマネタイズ

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 19世紀には、「科学に、まだフロンティアは残されているのか?」という疑問が呈されていた。しかし、20世紀に入るとすぐに、相対論と量子力学が“発見”され、振り返ってみると20世紀は科学の世紀と呼ばれるに至った。科学を源流とする研究開発によって新たな技術がマネタイズされ、新しい価値が生み出された時代であった。同時にその影(地球環境の破壊や核兵器あるいは、遺伝子組み替え作物など)が批判されることにもなった。
 後世の歴史家たちが21世紀をどのような時代と呼ぶかはわからないが、以前にも増して激しい競争の時代となることは間違いない。そのような時代において、日本が競争に勝ち抜くためには、少なくとも技術のマネタイズにおいて他国に長じる必要があると考えられる。(作成:南青山FAS株式会社)

技術のマネタイズ

 技術のマネタイズを、『技術によって生じる差異を価値の源泉として、顧客から選ばれるサービスや商品を作ること』と定義しよう。企業視点では、技術をマネタイズするルートは、5つ存在する。

  ①  社内のR&D投資、R&Dマネジメントを通じてマネタイズを行う
  ②  技術を導入(買収)する(ライセンスイン)ことで、マネタイズを行う
  ③  大企業同士のナレッジを融合してマネタイズを行う(コンソーシアム)
  ④  (ベンチャー)企業に投資することでマネタイズを行う
  ⑤  (ベンチャー)企業を買収することでマネタイズを行う

 社内のR&Dのみで、新しい価値の創造が難しくなりつつあることは、既に認識されつつある。ライセンスインで大きな事業が作れる業種は、製薬業にほぼ限定される。コンソーシアムは、同床異夢に終わることが多い。消去法という側面もあるが、「ベンチャー投資とそれに続く買収」というルートには、大きな期待が寄せられている。

価値創造探求のプチ振り返り

 情報のグローバリゼーションはインターネットによってもたらされたことに、異論を挟む余地は無いであろう。1996年になると、日本でもインターネットが、産業界の視野に入ってきた。シンクタンクが電子マネーと戯れていた時代である。まだ、平成バブルの後遺症があちこちに残っており、閉塞感が漂っていた。
 1998年、外為法が改正され、グローバリゼーションという言葉が、日本で現実的なインパクトを持ち始めた。ネッティング、プーリング、CMSなどが実現可能となり、B2Bあるいは電子商取引市場(当時は、そう呼ばれていた)も注目され初め、意識もビジネスもグローバルにならざるを得なくなった。数年後、ITバブル・ネットバブルが発生し、そして弾けた。
グローバリゼーション、そして、各種バブル崩壊後の産業再生・新たな価値創造に対応するため、商法の大改正が続々と行われた。始まりは、1999年に解禁された株式交換制度である。このスキームは、特定条件下とはいえ、スクイーズアウトを可能とした点で画期的であった。続いて、2000年には、会社分割制度が制定された。ただし、税制改正が対応したのが2001年であったため、会社分割が本格的に使用され始めたのは、2002年からである。
 その後、商法は会社法に改正され、証券取引法は金融商品取引法に改正された。法令改正に伴って税制も大きく変わり、組織再編成税制として体系化されるに至った(それらのストーリーは、別パートで振り返る)。
 現代はこの様に、グローバル化、規制緩和、そして変革がスパイラルに作用している時代である。各種規制で守られていた時代は、のどかであった。銀行、通信、鉄道・運輸、電力・ガス等のユーティリティ・サービス業といった規制業種では、利益が確保されていた(コスト+適正利潤=売価)。競争は限定されており、経営陣の主要な業務は、内部管理であった。このような理由から、これら規制業種のトップは、人事畑や労務畑から選ばれることが多かった。労働組合の対応が重要な業務だったのである。毎年右肩上がりで経済が成長する時代には、それに合わせて新卒の採用が行われ、社員が膨れ上がる結果、子会社を作りあるいは戦略無き多角化を行い、それを余剰人員の受け皿としていた。
 いつの時代も、企業が競争に勝ち残る手法は、数少ないのであるが、そのような長閑な時代では、資産効率もキャッシュフロー経営も関係なかった。少なくとも、釈迦力になって、価値を作り出す必要は無かった。保有資産(その多くは土地)の価値が自動的に増大する含み資産の経営を行っていれば良い時代に、知的資産は、大きな意味をなさなかった。
 日本企業はこれまで、新しい技術に対応する場合、護送船団方式に由来するコンソーシアムで対応してきた。(旧)通商産業省の音頭で、業界の主要企業が集結し、新しい技術を開発した後、事業化は各企業が行うというパターンである。これからも、その傾向が続く可能性は否定できない。しかし、激しさを増す競争環境の中、そういった対応・取り組みだけでは、決して十分とはいえないだろう。

ベンチャー投資という技術のマネタイズ

 そのような問題意識の中、日本でも、ベンチャー企業への投資が話題になって久しい。特に、独立行政法人化した大学の技術をベースにした、いわゆる大学発ベンチャーに注目が集まったことは、旧聞に属する。しかし、技術のマネタイズを通じた新しい価値の創造を、(大学発を抜きにしても)技術系ベンチャー(の株式公開)だけに期待することは、いささか非現実的であった。
 米国を例に取ると、すぐさま反論が出来そうである。確かに米国を見れば、インテル、ヒューレット・パッカード、マイクロソフト、サン・マイクロシステム、デル、シスコ・システムズ、オラクル、アマゾン、イーベイ、グーグル、アムジェン、ジェネンティック、フェースブックといった、ため息がでるような綺羅星の如きハイテク・ベンチャーが、価値創造に多大な貢献をしている。
 しかし、こういった企業は例外的な存在と考えたほうが良い。米国ですら、ハイテク・ベンチャーが次から次へと大企業の仲間入りをして、経済の屋台骨を支えているというわけではない。既存の大企業であるIBM、コーニング、ジョンソン&ジョンソン、P&G等は、ベンチャー企業とのアライアンスあるいはM&Aを通じて、高い利益成長を実現してきた。同様に、かつてはベンチャーであったインテル、マイクロソフト、シスコ等も、活発にM&A and/orベンチャー投資を行っている。つまり米国企業は、技術系ベンチャー企業をうまく活用することで、すばやく価値(株主価値)を創造していると考えられる。広大な国土を有する米国の道路は、一車線ではないのである。
 J&J、シスコ、インテルをはじめ、M&Aが得意な企業は、アライアンスも巧いことが知られているが、日本が手本としている米国でも、技術のマネタイズによる価値創造の大半は、大企業とベンチャーの協同作業によって生み出されていると考えられる。その一つの証左として、米国においては、(ハイテク)ベンチャー企業のexitは、IPOではなくM&Aが主流である。

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