連載:IPO市場の健全な拡大に向けて (2) 大企業とベンチャーの付き合い方

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 「大」企業からみて、技術系ベンチャーとのアライアンスは、魅力的であろうか。「大」企業にとって、そのアライアンスが真に魅力的であれば、多くの場合(ベンチャー企業の)買収という結末に至るだろう。そこで「大」企業の立場から、「技術のマネタイズを通じた価値創造」を考えてみよう。 技術のマネタイズについてはこちら
 「価値の創造」を、ここでは単純に『企業(パートナーである「大」企業とベンチャー企業の両方を含む)が、(フリー)キャッシュフローを増やすこと』と定義しよう。(フリー)キャッシュフローを増やすには、売上を増やして、各種コストを減らせばよい(もちろん、言うは易し…である)。
 この定義に従えば、「技術のマネタイズ」を通じて価値を創造することは、企業が「新しい技術を活用して、売上を増加させる、and/orコストを減少させること」と表現できるだろう。

【技術のマネタイズを通じた価値の創造】

 コストの削減は、生産技術・製造技術を向上・改良させることで、歩留まり率を上げたり、製造のプロセス数を低減させたり、原材料の無駄を減らしたり、環境への負荷を減らしたり(例えば、環境負荷を低減するために別途設置する装置を減らすことで、初期導入費用や運転費用を減らしたり)することで達成される。
 一方、売上の増加は、価格競争の回避と需要喚起に分けるとわかりやすいだろう。価格競争に巻き込まれない(ような付加価値を顧客に提供する)とは、競合他社の製品に比べて高い性能-例えば、耐久性、画質・音質、強度、メンテナンスフリーあるいは、軽薄短小等-を、技術を通じて実現することで、価格競争に巻き込まれることなく、売上・利益を確保する、ことを意味している。
 需要を喚起するとは、技術で新しい価値 (例えば、いつでもどこでも話せるという、全く新しい価値をもたらした携帯電話、簡単便利かつ美味しいという新しい価値をもたらしたインスタント食品等) を創造して、顧客に価値を提供することである。敢えて分類を試みれば、「コストを削減する」はincorporative、「価格競争に巻き込まれない」はinventive、「需要を喚起する」はinnovativeな経営活動ということになるだろう。

【Not Invented Here? No Way!】

 つい最近まで、多くの日本企業において、新しい技術(知的財産)の出身地は自社内部であった。
 米国では、少し早く、外部に依存する(自前主義にこだわらない)傾向が強まっている。米国では、ベンチャーですら、NRDO=No Research, Develop Onlyと呼ばれる「研究を行わず、開発だけを行う」企業が存在する。トレンドを歴史的にとらえると、外部から内部に、そしてまた外部と変遷しているが、その理由は、

  *規制緩和(合弁事業に対する独占禁止法の適用基準が緩和された)
  *R&Dコストの上昇(全て自前主義では費用負担が重い)
  *競合の激化(何よりスピードが要求される時代には、自前主義は、必ずしも最善策ではない)
  *知識の不足(全ての分野の研究者を揃えておくことは不可能)
  *企業が「経営の短期指向(注1)」を強めた

など多岐に渡る。

【大企業とベンチャーのアライアンス構築は、日本にとって重要な戦略である】

 米国では、ベンチャーとのアライアンス及び、それに続くM&Aが、大企業にとって有効な経営戦略(成長戦略)となっている。米国企業は、成長戦略に技術系ベンチャーを積極的かつ巧みに組み込んでいる。日本も同じ道を辿る可能性は高い。プアなロジックを展開しても、精緻なロジックを展開しても同じ結論に達するだろう。
 プアなロジックは、「(批判は多いが)フロントランナーである米国で起こった変化は、日本でも現実となることが多い」というものである。選択と集中、株主価値の重視、持ち株会社の解禁、キャッシュフロー経営、コーポレートガバナンスへの関心、ファンドによるバイアウト・企業再生、LLC解禁・・・など近年の動向だけでも枚挙に暇がない。企業内の研究開発制度にしても、米国で1960年代に黄金期を迎えたリニアモデルを採用して、日本でも中央研究所を設置したのであった。
 精緻なロジックとしては、「マネタイズ・プラットフォーム(各種インターフェースを含む技術プラットフォーム)が発達している日本企業は、外部企業(技術系ベンチャー)とのアライアンスによる価値創造に向いている」という論理である。
 いずれにしても、大企業と技術系ベンチャーのアライアンスによって新たな価値を創造することは、日本の企業にとっても重要な戦略となりうるであろう。

【ライセンシングとアライアンスの優劣比較1】

 ここまでの議論は、いわゆる“make or buy”のbuyをアライアンスに限定していた。しかし、buyには、技術のライセンシングも含まれる。大学や公的研究機関から、直接企業に技術を導出するアプローチと、いったんベンチャー企業を設立した後に、アライアンスを構築するアプローチとでは、どのような差異(優劣)があるだろうか。
 新しい技術を導入(ライセンシング)して、製品開発を行うといっても、一般に、当該技術(単体)だけで事足りるわけではない。“のり代”とでも言うべき付帯技術を含めて導入する必要がある。しかし技術を導入する企業にしてみれば、当該技術は不案内であるから、何が「のり代技術」なのかわからない。他方、知らない技術を一切合財導入しても、余計に混乱するだけである。従って、時間とコストを勘案すると、“のり代部分を繋ぐ技術者”の存在は意外と大きい。ここに、ライセンス・インよりも、アライアンスが好ましい一つの理由がある。もっとも、アライアンスが成立するには、相方のベンチャーがある程度自立している必要がある。ある程度は会社の体を成していないと、大企業(特に事務方)は相手をしてくれない。
 ベンチャーキャピタルなどの外部投資家が、ある程度の資金を提供してくれないと、アライアンスがスタートしないということになる(その場合は、次善の策として、ライセンシングを選択せざるを得ない)。

【ライセンシングとアライアンスの優劣比較2】

 ライセンシングとアライアンスの優劣を左右する重要ファクターとして、時間軸とコミットメントの違いがある。時間軸とは、いわゆる鼠の時間と象の時間である。技術シーズをビジネスに育成するまでに要求されるスピーディーな時間と大企業のゆっくりとした時間では、スケールが大きく異なる。技術を大企業の中で育成する時間は、ベンチャーという組織の中で育成する時間に比べて、長くならざる(無駄な時間を浪費せざる)を得ない。
 またベンチャーは、虎の子の技術シーズに全てのリソースをつぎ込んで、フルコミットメントで業務を行う。しかし、一般的な大企業では、海のモノとも山のモノともわからない“種”に大きなリソースは割かない。
 従って、ある程度の形が見えるまで外部(つまりベンチャー企業)で、技術をビジネスの卵くらいまで育成した後、(事業化予算をもっている)「大」企業の事業部、あるいは営業部とアライアンスを組むことで、技術のマネタイズが成功する可能性は高まると考えられるのである。

注1 1980年代、負債比率を増加させた米企業は、利払いにセンシティブになったため、短期経営思考を強めたといわれる。また、機関投資家が大株主として4半期ベースで市場をアウトパフォームすることを求めたことも、短期経営に拍車をかけた、と認識されている。なお、後者はM&Aの誘因ともなっている。
 米国でも短期経営の見直し(長期投資の促進)は重要なテーマであり、米証券取引委員会(SEC)における2019年重点活動テーマに掲げられている。四半期決算や業績予想開示の在り方について、活発な議論が行われるであろう。

南青山リーダーズ株式会社 編集部

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