連載:IPO市場の健全な拡大に向けて (4) マネタイズ・プラットフォームのメリット1
ひとまず立ち止まって「マネタイズプラットフォーム」のメリットを3回に分けて、説明したい。(作成:南青山FAS株式会社)
そもそも、なぜプラットフォームが重要なのか。
大企業において、マネタイズプラットフォームが整備されていれば、新しい事業機会が確認された時、現実的な時間内で顧客のニーズに応える、あるいは競合他社に先駆けて、市場に製品を投入することが可能になると見込まれる。なぜなら、自社にどのような資源(技術資産、研究員、テクニシャン)が存在し、どのような経験・ノウハウが存在するかを適切に把握することで、商品が市場投入されるまでの時間をある程度正確に予測することができるようになるからである。この“経験・ノウハウ”は、「失敗から学んだ事例」を含み、周辺技術(トラブルシューティング用の知見・知識)あるいは「のり代技術(インターフェース技術)」として蓄積されるべき知的財産が含まれる。製造業であれば、低コスト化技術及びスケールアップ用の技術も含まれる。
また自社だけでは、顧客のニーズに応えられない場合、どの技術が自社内に欠けていて、どのような技術を取り入れればよいかを、すばやく認識する助けになる。その場合、技術を社外で探索しベンチャー企業とアライアンスを組むことで、可及的速やかに技術上の問題が解決されると期待できる。
このケースでも重要なことは、事業機会を捉えて商品化するまでの時間が、ある程度予測できるだろうということである。一旦、プラットフォームを構築し運用することによって、情報や知見が継続的に蓄積されていく。顧客からの評価が向上し、自社にとっても経営が効率化され、利益率が向上するため、極めて重要な仕組みであると考えられる。
ここで言及している事業機会とは、企業の技術企画セクションが予測した機会ではなく、あくまで顧客からのニーズが集積したものである。研究結果が事業に結びつかないという嘆きは多いが、そもそも顧客が存在しなければ事業にならないのは、当然である。このような嘆きの根底には次のような曲解が含まれているケースが多々ある。
「なぜ、こんな先端的な―他社では容易に真似の出来ない高度な―技術がありながら、事業化されないのだ!」
実際のところ、技術が先端的であるか(あるいはそう見えるか)否かは、ビジネス上、大きな問題ではない。継続的なキャッシュフローが発生すれば十分である。例えば、米3Mにおけるコア技術の源流は、塗布・研磨材技術であるが、そこから接着技術、テープ技術へと技術が派生していき、最終製品としては、医療用器具にまで発展している。コア技術に要求される一つの大きな特性は、先端的であることよりも、プラットフォーム性である。強い企業のコア技術は、プラットフォームを構成するため短期間に新製品あるいはサービスを次々に上市することが可能である。変化の激しい今の時代に、このスピードは貴重な武器になる。
冒頭タイトルにダイレクトに答えると、プラットフォームはスピードをもたらすからである。
スピードで振り切る戦略が有効なケース
世の常で、先乗り戦略の有効性にも、相反する意見-つまり、先乗りは成功よりも失敗が多い=後発者が、しばしば先発者を駆逐する、先発者が優位である、が存在する。成功・失敗を論じている文献は、厳密に言うと、それぞれその対象がズレている―つまり、対象企業が大企業であったり、ベンチャーであったり、製品がコモディティであったりハイテク製品であったりする―が、ここでの議論においては、ほぼコンパラであると考えてよい。
現実的には、(事業基盤が既に確立した大企業が新規事業を始めた場合であって、同じ大企業である)後発者に出し抜かれる理由は、ほとんどが、より低コストでの製造を可能にする製造・生産技術にある。ここさえ押さえておければ、先発でも後発でも勝てると考えてよいだろう。
ネットワークの外部性・バンドワゴン効果が最も顕著である電気通信ネットワークを用いた製品やサービスでは、生産技術の重要性は低い。つまり、電気通信ネットワークを用いた製品やサービスを展開する事業では、先発者が優位であるという主張は、納得性が高い。
やや陳腐なロジックであるが、電気通信ネットワークを用いた製品やサービスを展開する代表的な事業者であるネットベンチャーでは、先発者が有利という結論に達する。もちろん、後発者よりもゆっくりしたスピードで走っていては、すぐに追い抜かれる。もちろん、事業の成否は、「如何にパッケージを創り上げるか」にかかっている。どのような価値を顧客に提供できるかを考えて(設計)、どのようなパートナー(大企業)とアライアンスを組むかが重要である。パッケージには、販売チャネルや、アフターサービス・サポート体制も含まれる。
結論は、スピーディーにパッケージを作り上げることが、事業の成否を分けるということである。これは、大企業でもベンチャーでも変わらない。ベンチャーに関して言うならば、スピードをもたらしてくれるマネタイズプラットフォームを整備している大企業と組むことで、事業の成功確度が向上すると考えられる。
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