連載:IPO市場の健全な拡大に向けて  (0)大企業とのエコシステム構築

387af303 f85b 46bd 9cbc 896fc746b528 camera_alt Keisuke_N/Shutterstock.com

 近年は、人材不足がバズワードやIPOの重要テーマになっている。就職市場も空前の売り手市場であるが、以前にも同じような状況はあった。平成バブルの只中では、採用数の下限があった。また、理系出身者の文系就職が“流行った”頃でもある。銀行や総合商社に、こぞって、理系の学生が群がっていた。製造業を嫌っていた理由は、様々であった。

 ・ 単純に金銭的なこと (銀行や総合商社の給与水準は高い)
 ・ 職場環境への不満 (工場では、作業着+ヘルメット+安全靴着用であり、カッコ悪い。
   また工場は都会にはないから、遊び場も少ない)
 ・ 人との出会いがない (専門領域の人以外と接触する機会がなく、閉塞感を感じる)
 ・ 一生同じ事の繰り返し
 ・ 徒弟制度への不満 (注1)

など数え上げればきりが無い。
 もちろん、製造業への就職希望者が、少なかったわけではない。いつもボルトやナットをポケットに忍ばせているような友人がいたが、彼などは、まさに自動車メーカーで働くことが天職であった。この友人のような人間は、昇進や給与にそれほど大きく執着することはないであろう。
 どう考えても価値を生み出していないように見える、社内ポリティクスの塊のような事務系社員が、技術屋よりも高い給料を貰っているのは、経済合理性に合わないように見える。しかし、技術屋や研究者にとって、自分の好きな研究がやれると言うことは、極めて居心地のよいものであった。海外の企業や国立の研究機関と共同研究を行う、海外の大学に技術留学する、日本の研究機関に派遣される、国内他企業とのジョイントベンチャーで、新しい研究を行う、といった役得もあった。

昔はうまく回っていた

 製造業は、そういった特殊な役得で技術屋を満足させておいて、事務系社員には退屈な仕事の代わりに高い給料を払う、というシステムを確立していた。企業は、それで結構、うまく回っていた。研究者は、(ある程度)好き勝手に研究を行って、必ずしも十分な成果を出していなかったが、企業側は、それを研究者のガス抜きと考えていたところがある。右肩上がりで経済が成長していた頃は、何でもありの世界であった。当時は、まず優秀な研究者(世間が優秀と認めるような研究者)を囲い込むことが、何より重要だったのである。
 日本を代表するメーカーのR&Dのトップを務めた研究者達(いわずもがな理学博士号あるいは工学博士号取得者)に話を聞いても、研究開発費の要求・配分など、極めていい加減であった。もともと、要求した額で、成果が出せるなんて、本人も考えていない!しかし、そうしないと、研究がスタートしない。嘘も方便である。そもそも成果が100%でるような研究はあり得ないのだから。企業としても、国やNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)から資金をもらって研究費に充当すればよかったのだ。
 企業は、大学に比べて実験器具等のレベルは最新の機器であるし、面倒な学生の相手をする必要もない。大学に残るよりも、ずっとよい環境である。従って、出世や給与には、比較的無頓着でいられた。自分の好きなことをやれるのだから、食べるのに困らない金額さえもらえれば、十分であると考えても不思議はない。

激烈な競争が研究にも影響を与えた

 しかし、毎年5%を越えるような経済成長を記録できるような時代ではなくなった。残念ながら研究活動にもROICが要求される窮屈な時代である(そのアプローチがうまくいっているとは思えないが)。経営者は未だ、念仏の様に選択と集中を唱えている。これでは、自分のやっている研究が、事業部ごと売却されてしまう危険性だってある。これでは、研究者も黙っていられない。反乱は、当然起こる。かつては、黙って飲みこんだ特許権料支払いに関する不平等契約だって、文句を言いたくなる。話が違うじゃないか、と。
 経営者は、R&D戦略の過去の過ちを清算しなければならなくなっている。金銭的なインセンティブを与える代わりに、厳しく成果を求めずに、自由にやらせた研究活動を、成果を求める研究活動に変えなければならなくなった。今までの様に、勝手な研究ができないのなら、研究者が、他の何か=多くは、金銭を求めるのは当然である。それを、どうするか。知財戦略以前に解決しなければならない問題である(ただし、金銭面では、大きく改善された:注2)。
 解決策として、一般には、「成果」に基づく報酬体系が導入される。しかし、何をもって、成果とするかは難しい。特許の件数や論文引用数といった指標で、評価するのは問題なしとは言えない。
 そこで、提案したい。成果項目の中に、技術系ベンチャーとの共同研究開発契約の締結、という項目を取り入れることを。

知財時代における研究者の評価

 技術系ベンチャーとの共同研究開発契約を通じて、研究者の技術プロデューサーとしての力量、技術マネジメントの力量といったものが、十分に鍛えられる筈である。
 技術のマネタイズを通じて価値創造を行うためには、アライアンスが重要な鍵を握る。このアライアンスを成功させるためには、まず、パートナー企業の発掘・選定が大事であるが、それに続く、アライアンス・マネジメントも大事な作業である。パートナー企業を発掘する仲介者(例えば、ハイテク専門の投資銀行)も、ビジネス的観点から、成功確率の高いパートナー企業を選んでベンチャーとマッチングさせたいと考える(特に、仲介者の報酬が、アライアンスの“成功報酬”であれば、確実にそうなる)。つまり、アライアンス・マネジメントに優れている企業を選ぶようになる。

事例による補足

 アライアンス・マネジメントに優れた企業R社は、同業他者と比べてもパートナーシップの構築に積極的である。R社は、同社とパートナー関係を結ぶベンチャー企業の発掘、該企業との交渉及び育成に特化した、独立組織を有している。この組織で特筆すべきことは、協働作業を管理する“アライアンス・ディレクター”というポジションが存在することである。他には、ビジネスアナリスト、事業機会の価値分析を行う情報マネジャー、交渉担当者、弁護士などが在籍している。
 アライアンスで、マネジメントに優れた企業を選択するロジックは、M&Aのターゲティングで、M&Aマインドが高い企業(例外なくM&Aの経験が豊富で、かつては失敗もあったが、成功体験も豊富でマネジメントがM&Aに前向きな企業)を選択するのと同じである。
 こうなると、いい案件(つまり、優れた技術系ベンチャー)は、特定の企業に集中してしまう可能性がある。つまり、アライアンス・マネジメントに優れた特定の企業だけが、知財時代の成功の素を独占する結果になりかねないのである。
 そもそも、MOTに限らず、大量生産を前提としたプログラムで、プロを養成することは難しいが、MOTを初めとする研修に費用と時間をかけるよりは、企業にとって、遥かに大きな「成果」をもたらすと思われる。ベンチャーとの共同研究開発契約を実践の場として、アライアンス・マネジメント力を向上することは、研究開発型企業にとって喫緊の課題と思われる。

南青山リーダーズ株式会社 編集部

(注1) 社歴の古い企業の研究所の中には、一部、絶対服従の世界が存在していた。そういった企業では、伝承されてきたアプローチしか認めないためrevolutionalな成果は期待できない、と敬遠されていた。

(注2) 金銭面では、大幅な改善が成された。平成16年に改正された特許法の第35条では、企業と発明者が協議し、発明者の意見を聴取した上で定めた発明対価を尊重することになった。
 平成27年改正では、「相当の対価」の文言は、「相当の金銭その他の経済上の利益」(「相当の利益」)に変更された。企業戦略に応じて柔軟なインセンティブ施策を講じることを可能とするとともに、発明者の利益を守るため、金銭に限定せず金銭以外の経済上の利益を与えることを可能にするためである。

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