連載:IPO市場の健全な拡大に向けて (3) マネタイズ・プラットフォーム

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 日本においてIPO市場を健全に拡大させるには、技術系ベンチャーが継続的に誕生し、健全な成長を遂げるというルートが確立されることが望ましい。そのルートを確立するためには、大企業がベンチャーとうまく付き合うことが必須である。大企業とベンチャーの協業を成功させることが、IPO市場の健全な拡大につながる一つのカギと考えている。(作成:南青山FAS株式会社)

顧客ニーズの正確な把握が重要

 20世紀初頭の米国企業は、革新的な技術を外部に求め、自社内では斬新的な応用研究に勤しんでいた。21世紀のオープンイノベーションは単に、振り子が、昔の位置に戻っただけという見方もある(振り子は、常に振れるものである)。
 どちらにしても、短期的な収益に目が移っていた米国の経営者にとって、基礎研究を行わずに成果を上げていた日本の“製品開発システム”(日本モデル)が眩しく見えたのは、確かであろう。米国は、基礎研究を行わず、米国発の技術シードを商品化するだけの日本を、技術のただ乗り(フリーライド)と批判した。
 おそらくこの時、米国企業は「顧客ニーズの徹底的に正確な把握」が、技術のマネタイズにおいて最も重要であることを正しく認識していなかった、と思われる。もともと、生産技術に長けていた日本企業にとって、日本型R&D(応用研究)成功の鍵は、まさに顧客との緊密な関係にあった。世界的な優良企業として著名な米3Mも、新しい研究開発モデルとして、住友3Mの研究開発システムを参考にしている。
 日本、特に自動車業界では、自動車メーカーと一体となって製品開発を行う。このスタイル-簡単に言ってしまえば、顧客(より厳密には、先進的なユーザー)と長期的な関係を構築し、顧客ニーズを正確に満たす-は、極めて優れた応用研究(あるいは技術のマネタイズ)のスタイルであることに、米国企業も気が付いた。
 この日本モデルはクローズモデルであり、暗黙知を創造することには長けているが、形式知をつくるには時間がかかり過ぎる。ITを活用することで日本モデルをオープン化して、スピード重視に作り変えたものが、ドイツ主導のインダストリー4.0である。
 日本の素晴らしかったところは、技術のマネタイズには、顧客ニーズを徹底的に正確に把握することが最も重要であることを正しく認識していたことであった。ゆえに、リーンモデル(リーン・スタートアップ・モデル)やインダストリー4.0なんて、手垢がついて見える。既視感たっぷりで、何を今さら・・・と思える。実は、オープンイノベーションですら、日本企業にとっては、今さらであった。外部から技術シーズを持ち込むという意味でのオープン性に関しては先進的であったからである。しかし、価値の源泉が技術からデータに移行している時代では、全く別物と考えた方が良い。射程とスピードが全く異なるからである。
 リーンモデルで重要なことは、誰よりも早く顧客ニーズを理解することにある。インダストリー4.0は、誰とでも組める柔軟性(オプション価値)を提供する。本テーマに即して言えば、日本モデルで、ベンチャーとの協業に向かない。本質部分では適合するにもかかわらず、クローズでゆっくりと暗黙知を構築する方向に、特化して発展してきたため、時代の変化に取り残される可能性がある。
 では日本企業が目指すべき新しいモデルは、どのようなものか。答えの前に、少し歴史を振り返って見たい。

プラットフォーム・モデル

 10年ほど前まで、多くの水平分業型IT関連産業で採用されていたプラットフォーム・モデルは、ある技術・製品を業界標準(デファクト・スタンダード)に仕立てて、多数の外部企業もしくはユーザーを巻き込んで”プラットフォーム”を形成させるというビジネス・モデルであった。ここで言うプラットフォームとは、業界標準たる技術(基準技術)と融合することで顧客に価値を与えるような基盤・技術である。
 この時代のプラットフォーム・モデルを語るとき、インテルを引き合いに出すのが一番分かりやすい。インテルのCPUが標準であり、それを前提にパソコンが作られる。プラットフォームは、独占的な利益を、その中心企業(リーダー)に与えてくれる。プラットフォーム・モデルの真髄は、ロックイン(囲い込みというより、羽交い絞め)である。
 必ずしも技術的に特段優れているわけではないが、「視覚的にあるいは使い方に慣れてしまったので、今さら変更は好まない」という場合、すなわちユーザーの心理的スイッチング・コストが高い場合、ロックインが発生する。また、過去の資産を使い続けたい場合にも、ロックインが発生する。ロックインが強い場合、周りの企業も安心して、基準技術をベースとした製品を作る。こうして、雪達磨式に強固なケイレツが形成されて、コスト的に誰も覆すことが出来なくなってしまう。
 しかし、価値をもたらす源泉が技術からデータに移行したことを契機に、特定技術による羽交い絞めを元々嫌っていたユーザーが主導する形で、このプラットフォーム・モデルは、ひっくり返ってしまった。

マネタイズ・プラットフォーム

 日本企業が目指すべき新しいモデルの一形態は、マネタイズ・プラットフォームであると考えられる。マネタイズ・プラットフォームとは、技術プラットフォーム+技術インターフェース+技術マネジメントである。多くの日本企業は、既に顧客との長期的な関係が構築されている。社内の技術プラットフォームも完成していると考えられる。つまり、ベンチャーとの協業に成功するための条件(マネタイズ・プラットフォームがワークする条件)は、以下の3つと考えられる。なお、技術プラットフォームとは『ある期間にわたって一群の製品を産み出すことを可能とする技術群。あるいは、高品質な製品群を継続的に大量生産可能な生産・製造技術群。』と定義している。

   ①技術インターフェースが存在すること
   ②技術マネジメントに優れていること
   ③ 外部とのコミュニケーション能力に優れていること

 ①技術インターフェースは、外部から導入した技術を他の技術と融合するための技術を指している。ソフトウェアの分野で言えば、ミドルウェアに相当する。外部導入技術と(例えば)社内技術と組み合わせて新しい価値を創造するための技術である。言わずもがな、技術インターフェースは、その守備範囲が広いほど、価値は高い。
 ②技術プラットフォームや技術インターフェースと異なり、技術マネジメントは人に関する要素である。技術プラットフォームと技術シードをうまく融合させて、顧客のスペック(性能と価格)を時間内に満たすように、社内外のリソースをマネージすることが技術マネジメントである。大企業でも技術マネジメントに長けたマネジャーの存在は希少と思われる。
 ③コミニュケーションは、協業を成功させるためには、常に大切な要素である。ここで言及している外部とのコミュニケーションとは、技術シーズを有しているベンチャーとのコミュニケーションということである。対等な目線でベンチャーに接し、お互いに利益をもたらすように考え、行動する。そして、ベンチャーに要求する項目を早い段階で明確にして、提示し、契約書に盛り込むことが重要である。

 残念ながら、②と③はソフト的スキルであり、日本企業が苦手としてきた分野ではある。


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