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​経営コンサルタント×ベンチャーキャピタリスト×インキュベータから見た、 コンサルタントがベンチャーで苦戦している込み入った事情

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 独立コンサルタント業を営んでいると、インハウス・アドバイザーという形でベンチャー企業に入ることが多い。さらに言うと、そういった企業には、経営コンサルタント出身者(典型的には、①日本の大企業→②アイビーリーグのMBA→③経営コンサルタント→④グローバル企業を経験)が働いているケースが少なくない。役職別に言うと、CEOは比較的少なく、COOあるいはCMOという役職が比較的多い。
 意外にも彼らが、ベンチャーで活躍できていないケースが散見される。なぜなのかを、ケース別に少し考察したい。

[1]CEOに就任するケース

[1]-1 途中まで、うまく行くパターン

 創業者から経営権を禅譲されて、経営コンサルタント出身者がCEOになり、途中までうまくいくケースの代表的パターンは、以下のようなパターンである。
 従来ビジネスにかけている「市場の穴」を見つけ、そこを衝いて、業界内でのポジションを高める。その時点で、しばしばニッチトップになっている。市場分析能力に優れていて、アクションプランをスピーディーに作る能力がある経営コンサルタントには、ここまでは、得意分野である。この後、ニッチトップを脱し、メインストリームで勝負して、事業を拡大させられれば、成功であるが、そこには至らない。なぜだろうか?
 基本的に、経営コンサルタントはお行儀が良い人が多く、コンサバ発想である。リスクをとって攻めるよりも、失点を抑えて、渋めに勝利することを得意とする人が多数派である。彼らを野球の打者で例えると、3割は普通に打てる。4割打ってもおかしくない位の能力を持っている。しかし、事業を大きく成長させられるホームランバッターではない。そこで、ベンチャー側(創業者)とコンサルタント側の双方に誤算が生まれる。
 事業拡大が進まないうちに、タイムアップになる。いろいろ見えすぎる(見えないものが見える、というのが経営コンサルタントのウリの一つである)ため、ビジネスモデルの賞味期限切れにも敏感である。そうなると、事業売却・企業売却という方向に走るか、あるいは一身上の都合上、退職することになる。
 創業者は、経営コンサルタントにホームランバッターを期待しているのか否かを、明確に伝えるようにした方が良いだろう。

[1]-2 最初からうまく行かないパターン

 実際は、途中までうまく行けば上出来で、最初からうまく行かないケースは多い。なぜだろうか?
 経営コンサルタントは、クライアントの組織作りを手伝うことも多いため、従業員のマネジメントや教育にも長けていると思われがちである。残念なことに、経営コンサルタントは、マネジメントが苦手である。正確に言うと、情のマネジメントができない。
 米国は、労働者の流動性が高いことを前提に、ビジネス周りが設計されている。ジョブ・ディスクリプションや雇用契約内容は詳細である。日本のように、事後協議で決めていくという形態はとらない。退職金で報いることは意味がないから、ホワイトカラーに対しては、給料高めでアーリー・リタイア多めという制度設計がなされている。職場の同僚は、チームメートかもしれないが、ファミリーではない。ゆえに、情のマネジメントは、あまり必要ない。米国発祥の経営コンサルタントが得意とするテンプレートには、情のマネジメントは含まれていない。
 情のマネジメントができな過ぎて、経営コンサルタントが役員を務める日本の職場では、周りが全員辞めてしまい、一人にさせられて、結局退職というケースも結構ある。手が込んだケースだと、創業者がリタイヤして禅譲の形を採った上で、全員退職するというパターンもある。

 (意外にも?)情のマネジメントで動いているベンチャーは多い。そこに経営コンサルタントが降りて行っても良い結果は生まれないであろう。

[2]役職がCOOやCMOというケース

 ベンチャーのCOOは、既存事業の売上拡大を担当することが多い。その場合、CEOは新しい事業を作ることに専念している。資金調達、人材採用場合によっては、M&Aに時間をとられていることも多い。
 またベンチャーだとCMOという役職は、すでにCOO職を誰かが担っているために、代わりに付けられる肩書であることが、ままある。どちらにしても、マーケティングをずっとやってきたコンサルタントが、マーケティング・スキルを発揮して、既存事業を伸ばすことを期待されている。

 大手コンサルティング・ファームでマーケティングをやってきたコンサルタントのクライアントは、大手企業である。調査をして、分析をして、レバーを動かす方向を決めることが仕事である。それをそのままベンチャーに当てはめても、ワークしない。ベンチャーでは、むしろ、新しいレバーを作るような役割を担わなければならない。これは、ホームランバッターに他ならない。
 創業者は、経営コンサルタントにホームランバッターを期待しているのか否かを、CEOのときよりも、さらに明確に伝えた方が良いだろう。

そもそも論

 優秀であることは間違いないし、その「ネームバリュー」から箔付けを含めて、経営コンサルタント出身者をボードメンバーに迎えたいベンチャー経営者は多い。逆説的ではあるが、初期のベンチャーに入社してくれるようなビジネスパーソンは、経営コンサルタントくらいという、変な理由から、経営コンサルタントがボードメンバーということもある。経営コンサルタントは潰しがきくし、数年ベンチャーにいても、それはそれで経験知・誇れる職歴になるという事情からである。
 そういった事情もあるため、経営コンサルタントがベンチャーに入社しても、うまくいかないケースが発生しているように思える。
 ベンチャーで同じ役職を担っていた人間を採用することがベストである。しかし、彼らは希少種である。希少種が入りたくなるような、あるいは、一緒に仕事をしたくなるような創業者がいるベンチャーは極めて有望である。経営の世界では昔から、出世の条件として「ジジイ殺し」があげられていた。これからは「若手殺し」に条件が変わるかもしれない。
 いずれにしても、創業者の人柄は、ベンチャー成功には欠かせないピースである。

南青山リーダーズ株式会社 編集部

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