ドライアイ自覚症状の悪化は抑うつリスク
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延に伴い、テレワークによる作業環境の変化やパソコンのモニターを長時間見続けるVDT作業によるドライアイが増加している。順天堂大学大学院眼科学教授の村上晶氏らの研究グループは、独自に開発したiPhone用アプリケーションによるクラウド型大規模臨床研究を実施。その結果、ドライアイの自覚症状が重症化するほど抑うつ症状を併発することが分かったと、Ocul Surf(2020; 18: 312-319)に発表した。
iPhoneアプリでドライアイ指数を算出
ドライアイの自覚症状がある人では、幾つかの生活習慣(喫煙、コンタクトレンズ装用など)が危険因子となることが分かっている(Ophthalmology 2019;126:766-768)。さらにドライアイとうつ病は、ホルモン、代謝、神経学的不均衡などの共通した危険因子を持つことから、多くの人に併発している可能性が考えられる。
そこで村上氏らは、ドライアイの自覚症状を観察することで抑うつ症状の有無が予測できると考え、順天堂大学眼科が開発したiPhone用アプリケーション「ドライアイリズム」を用いてインターネット上でクラウド型大規模臨床研究を実施した。ドライアイリズムは、12項目から成るドライアイ疾患特異的問診票Ocular Surface Disease Index(OSDI)からドライアイ指数を算出し、ドライアイの自覚症状と生活習慣をアプリケーション上で表示することができる。
研究では、ドライアイリズムを対象期間内にダウンロードした国内のユーザー(ダウンロード数:1万8,891回、収集した個別医療データ:2万1,394)のうち、①基本情報(年齢、性など)②病歴(高血圧、糖尿病、血液疾患、脳疾患、心疾患、腎疾患、肝疾患、悪性腫瘍、呼吸器疾患、花粉症、精神疾患、眼手術歴など)③生活習慣(コーヒー摂取量、コンタクトレンズ装用の有無、点眼薬使用の有無、モニターを見る時間、睡眠時間、喫煙、飲水量など)④OSDI⑤自己評価式抑うつ性尺度であるSelf-rating Depression Scale(SDS)-などに回答した4,454人を対象とした。
OSDI総合スコア(100点満点)を算出し、正常(0~12点)、軽症(13~22点)、中等症(23~32点)、重症(33~100点)に分類し、13点以上を「ドライアイ症状あり」と定義した。SDSスコアは40点以上を「抑うつ症状あり」とした。対象のドライアイの自覚症状と①~③などとの関連および、ドライアイの自覚症状と抑うつ症状の関連を解析した。
ドライアイ重症度を指標に抑うつ症状の早期予防を
解析の結果、対象4,454人のうち74.0%(3,294人)にドライアイ症状、73.4%(3,271人)に抑うつ症状が認められた。「ドライアイ症状あり」かつ「抑うつ症状あり」は78.8%(2,596/3,294人)であった。
また、ドライアイの自覚症状が重症化するほど抑うつ症状も悪化する傾向にあり(図)、さらにOSDI総合スコア正常に対し、重症では抑うつ症状を併発するリスクが3.29倍(オッズ比3.29,95%CI 2.70~4.00)であった。
図. ドライアイの自覚症状と抑うつ症状の関連
(The Ocular Surface 2020; 18: 312-319)
これらの結果から、スマートフォンアプリを用いてドライアイの自覚症状をモニタリングすることで抑うつ症状の有無を把握することができ、抑うつ症状に対する早期予防や効果的な介入につながることが期待される。村上氏は「今後、人工知能を用いた個別のドライアイやうつ病の発症予測アルゴリズムを創出し、スマートフォンアプリを用いた個別化医療や先制医療に資することが可能となる」と展望した。
(内田 浩)