スタートアップの資金調達・ビジネスマッチングサイト

日本の患者数は世界3位、FAP-ATTRとは

超高齢社会を迎えた日本。社会環境の変化とともに存在感が増している病気がある。その代表格がアルツハイマー病だろう。言うまでもなく、日本で最も認知症の原因となっている病気だ。アルツハイマー病は、アミロイドーシスと呼ばれる病気のグループに属している。最近、このアミロイドーシスの中でも注目されているのがトランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP-ATTR)*である。聞きなれない病名だが、実は、日本は患者数が世界で3番目に多い国なのだ。診断が難しく、治療しなければ10年で死に至ることもある恐ろしい遺伝性の難病だ。先ごろ開催されたAlnylam Japan社主催のメディアセミナーでは、長崎国際大学薬学部アミロイドーシス病態解析学分野教授/副学長で熊本大学名誉教授・熊本大学病院臨床研究部客員教授の安東由喜雄氏が、FAP-ATTRに関するさまざまな研究データを紹介した。

異常な蛋白質が蓄積することで発症

アミロイドーシスは、体内でつくられた分解されにくいアミロイドという異常蛋白質が腎臓、肝臓、神経などに蓄積し、多様な障害を引き起こす病気の総称である。全身のさまざまな臓器にアミロイドが蓄積する「全身性アミロイドーシス」、脳や角膜など特定の臓器にだけ蓄積する「限局性アミロイドーシス」に分類され、「遺伝性」のものと「非遺伝性」のものがある。

問題のFAP-ATTRは、親から受け継いだトランスサイレチン(TTR)という蛋白質を作る遺伝子の異常が原因で(遺伝性)、その異常な遺伝子が作り出すアミロイドが全身のさまざまな部位に蓄積する(全身性)。そのため、症状も手足の痺れ感(末梢神経)、起立性低血圧や排尿障害(自律神経)、うっ血性心不全や不整脈、心肥大(心臓)、吐き気や下痢などの消化管症状(消化管・自律神経)、蛋白尿や浮腫(腎臓)、視力低下(眼)など多岐にわたる。

誰にでも発症する可能性

患者数は全世界で5万人と推計され、日本はポルトガル、スウェーデンに次いで世界で3番目に患者が多い国と考えられている。熊本県と長野県に患者が集中している地域(集積地)があり、最新の調査では日本全国で208人の患者が確認されている。これについて、安東氏は「実際には700~1,000人の患者が存在する可能性がある」と指摘する。多様な症状を示し、特徴的な症状に欠けるため、確定診断されていない隠れた患者がかなりいると考えられるためだ。

FAP-ATTRは進行性の病気で、アミロイドの蓄積が進むと徐々に歩行困難になり、車椅子や寝たきり状態となる。未治療であれば、発症からの平均余命は約10年といわれる。そのため、診断の遅れや見過ごしは深刻な事態を招きかねない。同氏によると、病院を受診してからFAP-ATTRと診断されるまで2~3年かかることが多いという。典型例はこうだ。「長引く足の痺れ」で病院に行くと、"糖尿病性神経障害"と診断される。その後、「頻回の下痢」で苦しむようになると"過敏性大腸炎"、さらに症状が加わり「両手の感覚がおかしい・手足に力が入りにくい」と訴えても別の神経系の病気"慢性炎症性脱髄ポリニューロパチー"とされてしまう。「立ちくらみ、体重減少、繰り返す悪心・嘔吐」などが現れて、ようやくFAP-ATTRが疑われるようになる。

さらに最近、集積地外でも患者の増加傾向が確認されるようになってきた。しかも、親が異常遺伝子を持っていないにもかかわらず、高齢で発症する患者が日本全国に存在することが分かってきた。同氏は「異常遺伝子を親から受け継ぐのではなく、新たな異常が"ゲリラ的"に起こっている」と考えている。つまり、誰にでも遺伝子が異常を来し、発症する可能性があるというのだ。

ノーベル賞技術を応用した治療薬が登場

一方、FAP-ATTRに対する治療も着実に進歩している。今年(2019年)9月には、遺伝子発現抑制(サイレンシング)という細胞内の自然な機構である"RNA干渉(RNAi)"を応用した日本初の治療薬も登場している。RNAiの発見は「10年に1度の画期的な科学の前進」として評価され、2006年には発見した2人の科学者がノーベル生理学・医学賞を受賞している。この新薬について、安東氏は「FAP-ATTRの症状を緩和、あるいは改善しうる治療薬であり、症状に苦しむ患者さんにQOL向上をもたらすものと期待される」と述べている。

なお、FAP-ATTRは、国の「指定難病」である全身性アミロイドーシス(指定難病28)」に含まれ、患者は「難病医療費助成制度」を受けることができる。難病医療費助成制度の概要や、難病指定医、指定医療機関、各都道府県の難病相談支援センターなどについての情報は、難病情報センターのサイトで紹介されている。

※:トランスサイレチン型家族性アミロイドニューロパチーには、「遺伝性ATTR(ATTRv)アミロイドーシス」や「FAP(familial amyloid polyneuropathy)」など、幾つか違う名称がある。指定難病対象疾病名としては「全身性アミロイドーシス(指定難病28)」に含まれる。

(あなたの健康百科編集部)


関連記事

公式Facebookページ

公式Xアカウント