脳の活動度が強いと睡眠がより必要に
疲労を十分に回復するのに必要な睡眠時間は、その日どれだけ長く起きていたかではなく、起きている間の脳の活動強度によって決まる可能性があるという。英・University College LondonのJason Rihel氏らがNeuron (2019年8月23日オンライン版)に報告した。
2つの体内システムが睡眠を調節している
Rihel氏は「睡眠は、『サーカディアンリズム(概日リズム)』と『ホメオスタシス(恒常性維持)』という2つの体内システムによって調節されている」と説明する。
サーカディアンリズムは、いわゆる体内時計のことで、脳波やホルモン分泌など生物の生命活動を24時間周期で刻むものとして知られており、脳内でこのリズムが生まれることも分かっている。
一方、ホメオスタシスとは環境が変化しても体内の状態を一定に保とうとする働きのことで、例えば気温の変動に合わせた体温の調節、血圧や血糖値の調節などが知られているが、詳細は不明だ。
ゼブラフィッシュは脳の活動度が高まると長く眠る
そこでRihel氏らの研究グループは、ゼブラフィッシュ(成長が早く、卵~稚魚期は透明なので臓器などの観察が容易な魚)の稚魚を使った実験で、恒常的な睡眠の調節と脳の活動の関係を検討した。ゼブラフィッシュの稚魚にカフェインなどのさまざまな薬物で刺激を与え、脳の活動の増加を促進したところ、薬物により脳の活動上昇が見られたゼブラフィッシュは、薬物の刺激を与えられなかったときと比べ長く眠った。
次に研究グループは、刺激を与えた後の睡眠(回復睡眠)時と通常の夜間睡眠時で、ゼブラフィッシュの脳の働きの違いを調べた。すると、ヒトの視床下部に当たる領域において、ガラニンという脳シグナル伝達分子が、通常の夜間睡眠中と比べ回復睡眠中に特に活発に働いていることを発見した。
さらに、若いゼブラフィッシュの成魚を一晩中覚醒させる実験を行ったところ、翌日ゼブラフィッシュは通常よりも長く眠り、負荷を与えた後の睡眠時にはガラニンの活性が増加することが確認された。
睡眠障害の理解や治療薬開発に役立つ可能性
これらの結果から、Rihel氏らは「脳の活動が活発化することで睡眠の必要性が高まる可能性が示唆された。ガラニンを伝達するニューロンが、どのように脳をを活性化させるかについてはさらなる研究が必要だが、飢餓状態や交配期など特定の条件下において、脳の活動を最小限に抑えることで睡眠の必要性を制限できるかもしれない。また、今回の知見は、ガラニンをターゲットにすることで睡眠障害の理解や治療薬の開発に役立つ可能性がある」としている。
(あなたの健康百科編集部)