長生きの秘訣はゆっくりでも身体を動かすこと
長時間座ったままの姿勢でいることは健康と寿命に悪影響を及ぼす一方、身体活動が良い影響を及ぼすことは、これまでの研究で繰り返し示されている。しかし、どの程度の身体活動を行えば死亡リスクが低下するかは正確に分かっていない。ノルウェー・スポーツ科学大学のUlf Ekelund氏らは、身体活動および坐位時間(座っている時間)と全死亡(全ての死因による死亡)の関連を検討した研究の分析を行い、その結果をBMJ(2019; 366: l14570)に発表した。同氏らによると、中高年では身体活動の強度にかかわらず、早期死亡リスクの低下と関連することが示されたという。
健康維持に必要な活動量を検討
今回、分析の対象とされたのは、医学論文のデータベースに2018年7月までに登録された518件の論文のうち、加速度計を使って身体活動と全死亡との関連を評価した8件。
加速度計とは、身体に装着して起きている時間の身体活動量と強度を測定する装置で、装着時間1分当たりのカウント数(cpm)で活動量を求めることができる。Ekelund氏らは、①活動量の多さ、②身体活動の強度(低強度:ゆっくりとしたウォーキング、料理・皿洗いといった軽い家事など、中強度:速足のウォーキング、掃除機がけ、芝刈りなど、高強度:ジョギング、重い物の運搬、穴掘りなど)別の時間の長さ、③坐位時間の長さーで4つのグループに分け、早期死亡との関連を検討した。
8件の研究から、40歳以上の3万6,383人(平均年齢62.6歳、女性72.8%)のデータを組み入れた。5.8年間の追跡期間中に2,149人(5.9%)が死亡していた。
身体活動と死亡リスク低下に用量依存関係
検討の結果、活動強度にかかわらず身体活動と死亡リスク低下は関連していることが分かった。活動量または活動時間が最も少ない(短い)第1グループを100とした場合の他のグループの死亡リスクは、以下の通り。
■全身体活動(活動量で分類)
第1グループ:100(参照値)、第2グループ:48、第3グループ:34、第4グループ:27
■低強度の身体活動 (活動時間で分類)
第1グループ:100、第2グループ:60、第3グループ:44、第4グループ:38
■中~高強度の身体活動(活動時間で分類)
第1グループ:100、第2グループ:64、第3グループ:55、第4グループ:52
一方、坐位時間の長さは死亡リスクの上昇と関連していた。1日の坐位時間が9.5時間以上になると死亡リスクは著しく上昇した。
■坐位時間
第1グループ:100、第2グループ:128、第3グループ:171、第4グループ:263
加速度計は低強度活動の評価に有用
共同研究者でスウェーデン・カロリンスカ研究所のMaria Hagströmer氏は「今回の結果は、現在勧奨されている"中強度の運動を週150分"という基準の妥当性を示している」と述べている。また、同研究所のIng-Mari Dohrn氏は「加速度計の大きな利点として、自己評価による報告が困難な、家事や買い物などの低強度活動についても情報を得られることが挙げられる。今回の解析では、低強度運動を1日5時間以上行うことにより死亡リスクが急激に低下していた」と考察。
一方、ドイツ・Ulm UniversityのJochen Klenk氏とニュージーランド・University of AucklandのNgaire Kerse氏は、同誌の付随論評(2019; 366: l5051)で「坐位時間を減らし、強度を問わず身体活動を増やす方法を考案すれば、健康を大幅に改善し死亡リスクを低減することができるだろう」と指摘している。
(あなたの健康百科編集部)