あなたの下痢、本当にストレス性?
新学期や社会人生活がスタートして2カ月、何かと精神的な緊張を強いられた新入生や新社会人の中には、下痢に悩まされた方も少なくないだろう。下痢の多くは、環境の変化に慣れるにつれ、徐々にストレスが減ることで、症状も治まってくる。しかし、便に血が混じる、一時的に治まっても再発を繰り返す場合には要注意。思わぬ難病「潰瘍性大腸炎」が隠れているかもしれないからだ。 潰瘍性大腸炎の患者数は男女とも20歳ごろから急激に増加し、30~39歳ごろにピークを迎える。つまり、新社会人としての第一歩を踏み出す時期に発症する人が多いのが特徴で、就活を乗り切りやっと手に入れた生活が脅かされでもしたら大変だ。まずは正しい知識を得て、備えることが重要だ。 先ごろ開催された記者説明会(主催:ファイザー株式会社)で、潰瘍性大腸炎治療のエキスパートによる最新の情報が紹介された。ここでは、医療法人錦秀会インフュージョンクリニック(大阪市)院長の伊藤裕章氏の講演「潰瘍性大腸炎診療の歩み」から、万が一に備えるために知っておくべきポイントを整理してみたい。
ポイント1:ストレスが原因の過敏性腸症候群との違いを知ろう
潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に炎症が起こり、びらん(えぐれたような状態)や潰瘍(さらに深くえぐれた状態)ができる原因不明の病気である。主な症状は「ゼリー状の粘液や血液が混ざった粘血便と下痢」で、他にも腹部の不快感、腹痛などがある。伊藤氏によると、ストレスによって起こる過敏性腸症候群でも同じような下痢症状が出るものの、便には血液が混ざらないので、このことが両者を見分けるポイントになるという。残念ながら、現時点で潰瘍性大腸炎を完全に治す方法はないが、治療により症状が治まった"寛解"状態に導くことは可能で、この状態を維持することで、普段通りに日常生活を送ることができる。しかし、多くの人は再び症状に苦しむ(再燃)ようになり、この状態(寛解と再燃)を繰り返す。できるだけ長く寛解を維持することに治療の重点が置かれるため、患者は長期の治療と療養を余儀なくされる。
ポイント2:治療は専門医が望ましい
2015年に厚生労働省(厚労省)主導で行われた全国調査で、日本の潰瘍性大腸炎患者数は約22万人と推計された。伊藤氏によると、この数は2014年10月時点の「胃がん18万人、大腸がん26万人、慢性腎不全30万人」に匹敵するほどで、より身近な病気となりつつある。また、厚労省は難病患者への医療提供体制について「診断後は、より身近な医療機関で適切な治療を受ける」ことが望ましいとしている。このような背景から、専門医ではない一般の開業医が潰瘍性大腸炎の治療に当たる機会は確実に増えているという。しかし、同氏は「治療は専門医が行うことが望ましい」と考えている。たとえ消化器病医であっても、専門領域が細分化されており、潰瘍性大腸炎の治療に精通しているとは限らないこと、また近年、治療が急速に進歩し選択肢が増えており、適切な治療法の選択が難しくなったことがその理由だという。
ポイント3:生物学的製剤ってどんな薬?
伊藤氏によると、ステロイドは炎症を抑えるのに効果的で、今なお潰瘍性大腸炎の治療において重要だが、多様な副作用や、長く使用した場合に依存性になる危険性が高いなどの懸念が有るという。一方手術には、年齢によっては死亡の危険があり、女性が不妊になる確率が極めて高いなどの問題がある。では、どのような治療が望ましいのか。この問いの答えとして同氏は、3種類の生物学的製剤を挙げる。いずれも薬剤の研究の急速な進歩を背景に、2010年以降に潰瘍性大腸炎の治療に使われるようになった薬で、炎症を引き起こす"悪玉サイトカイン"の1つTNF-αの働きを抑える。サイトカインとは、細胞から分泌される生理活性蛋白質の総称で、細胞間の相互作用に関与し、周囲の細胞にさまざまな影響を及ぼす。さらに、昨年(2018年)7月には、リンパ球(白血球の1種)の表面にあるα4β7インテグリンという蛋白質の働きを邪魔して炎症を抑える、新しいタイプの生物学的製剤も使われるようになっている。
ポイント4:チーム医療ってどういうもの?
潰瘍性大腸炎は若年層に多く発症し、治療が長期にわたるため、患者は病気を抱えた状態で就業や結婚など多くのライフイベントを迎えることになる。したがって、治療だけでなく、社会的・精神的なサポートも必要になる。治療に当たる医師と看護師や薬剤師などのスタッフが患者の情報を共有し、一丸となって患者をサポートしていくのがチーム医療である。潰瘍性大腸炎患者を555人(2018年12月24日現在)診療している伊藤氏の施設でも、看護師、薬剤師から病気に関する知識を与える「患者教育」、カウンセラーによる「心理カウンセリング」など、率先してチーム医療に取り組んでいるという。
※潰瘍性大腸炎についてさらに知りたい方には、情報サイト"UC Tomorrow"へのアクセスをお勧めしたい。このサイトは、伊藤氏が監修を務めており、潰瘍性大腸炎に関するさまざまな情報はもとより、医師に聞きたいことを事前にチェックできる「相談シート」や治療段階別のコンテンツなども用意されている
(あなたの健康百科編集部)