日中の食いしばりで歯並びが悪化
睡眠中の悪癖として、いびきと並んで悪名が高い歯ぎしり。騒音で一緒に寝ている人に迷惑をかけるだけでなく、歯ぎしりを放置すると歯が磨耗したり、詰め物が取れたり、顎関節症や歯周病、首・関節の痛みなどの原因になることが知られている。寝ている間の無意識な行為と思われがちな歯ぎしりだが、最近では起きている間に意識的・無意識に行う歯ぎしりの一種「食いしばり」が注目されている。岡山大学大学院医歯薬総合研究科などの共同研究グループが、日中の食いしばりが歯の健康に及ぼす影響を調べた結果をスイスの学術誌 International Journal of Environmental Research and Public Health(2019; 16: E690)に発表した。
食いしばりは歯に70kg以上の力をかけている
日中の歯ぎしりは覚醒時ブラキシズムと呼ばれ、無意識に行う睡眠時の歯ぎしりと違い、歯を食いしばったり、上下の歯をすり合わせたりする行為を意識的に行っている場合もあるという。食いしばりで歯にかかる力は約720N(ニュートン:およそ73.4kgの重さ)とされる。歯は20gの力が加わり続けると動いてしまうとの報告があり、たとえ弱い力であっても日中の歯ぎしりを長時間継続することは、歯並びに悪い影響を及ぼすと考えられる。
研究グループはこれまでに、日中の歯ぎしりを自覚している人では歯並びが不良であることを明らかにしている。しかし、横断研究※であったため、日中の歯ぎしりが歯並びの悪化を引き起こすかどうかは明らかでなかった。
※特定の集団において、ある一時点での病気・障害の有無とその原因と考えられる事柄の有無を同時に調査し、関連性を検討する研究方法。過去のデータをさかのぼったり、将来にわたっての検討はしない
新入生を3年間にわたって追跡調査
そこで研究グループは今回、岡山大学の新入生を対象に歯科健診とアンケートを実施。3年間にわたって追跡調査し、日中の食いしばりを自覚する学生と自覚しない学生で歯並びへの影響を比較検討した。
3年間に矯正治療を受けた学生、アンケートに不備があった学生、3年後の歯科健診を受診しなかった学生などを除いた238人(男性52.9%)を分析した。その結果、128人(53.8%)で歯並びの悪化である叢生(そうせい:歯がでこぼこに並んだ状態)が認められた。
詳細な分析では、日中の食いしばりを自覚している学生は自覚しない学生よりも歯並びが悪化するリスクが3.63倍に上ることが明らかになった(図)。
図. 日中の食いしばりの有無による歯並びが悪化するリスク
(岡山大学リリースを基に作成)
また、学生をBMI〔肥満指数:体重(kg)÷身長(m)2で算出〕で①痩せ形(BMI 18.5未満)②標準体形(同18.5以上25未満)③肥満(同25以上)−の3タイプに分けて比較した。その結果、標準体形の学生を基準にした場合の歯並びが悪化するリスクは、痩せ形の学生では2.52倍に高まることが分かった。
口の問題だけでなく、全身の健康に役立つ可能性
これらの結果を踏まえ、研究グループは「大学生を対象とした研究によって、日中のくいしばりと痩せ形の体形は歯並びの悪化と関連する可能性があることを世界で初めて明らかにした。日中のくいしばり習慣をやめ、成長期に適正体重を維持することで、歯並び悪化の予防が期待される」と指摘。
その上で、「不良な歯並びは機能的な障害に加え、見た目の悪さなどから心理的ストレスを引き起こすことが懸念される。また、痩せ形の体形は寿命が短いことと関係する。今回の結果は、口の中の問題だけでなく、全身の健康に役立つ発見と考えられ、社会的・公衆衛生的に意義がある」と結論している
(あなたの健康百科編集部)