お母さんは自分のために救急車を呼ばない~早めの対応が明暗を分ける!背中の痛み15分で救急車を~
ジェンダー間の平等が多様な分野で唱えられているが、医療へのアプローチにおける不平等は依然として存在する。虚血性心疾患は世界の男女の主要な死因の1つであるが、その管理における男女間格差の存在が明らかにされた。2019年3月にスペイン・マラガで開催された欧州心臓病学会(European Society of Cardiology; ESC)の欧州急性心血管治療協会2019で発表された、急性冠症候群に関するポーランドの研究(Polish Registry of Acute Coronary Syndromes; PL-ACS)では、女性は夫や父親、兄弟に心臓発作症状が出た場合には救急車を呼ぶが、自身のために呼ぶのは遅れるとの結果が報告された。
研究を行ったGąsior氏は、「多くの女性が家事や育児を任されている。その責任は、心臓発作の兆候を感じた場合であっても、女性が救急車を呼ぶまでの時間を遅らせている原因になっている。」と強調した。
さらに、登録コーディネーターのGierlotka氏は、「一方で、男性は必要時に即座の対応を受けている。このことを女性はしっかりと認識し、自分自身に目を向けケアをするべきだ」とメッセージを加えた。
早期の治療開始が良好な予後に不可欠
ST上昇型急性心筋梗塞(STEMI)は冠動脈による心臓への血液供給がブロックされる深刻な心筋梗塞で、より早い処置が望まれる。心筋への速やかな血流の復元により、心筋の細胞死やそれによる心不全発症が低下し、死亡リスクが減少する。そのためガイドラインでは、救急車で心電図検査を行い、診断から90分以内に冠動脈にステント処置を行うことを推奨している1)。
今回、PL-ACSの対象となったのは、STEMI患者7,582例。そのうちガイドラインの推奨する時間内に治療を受けたのは45%で、時間内の治療を受けられることに関係する因子には、男性という性別が含まれていた。
またPL-ACSでは、治療開始が推奨時間内外のいずれであっても、院内死亡率に差はなかった。しかし、時間内に治療を開始した患者では、左室駆出率が40%以下となる可能性が低かった。つまり、血液を送り出す心臓の機能が回復し、心不全となるリスクがより低く抑えられていた。
背中や肩の痛みなど 従来と異なる痛みのパターンにも注意
救急車で取った心電図検査結果が心臓病センターへ転送されていた患者の割合は、全体の40%。この数値は、男性では年齢に限らず40%近辺を推移する一方で、女性では年齢の上昇とともに増加していた。54歳以下の女性では34%だった一方、75歳以上の女性では45%であった。
これらの結果を受け、Gąsior氏は「女性が男性に比べて、推奨時間内に治療を受けられない理由の1つに、彼女達が症状を感じてから救急車を呼ぶまでに時間がかかることが考えられる。特に、より若い女性でこの傾向は高い。さらに、心電図検査結果の心血管センターへの転送は迅速な治療に不可欠であるにもかかわらず、若い女性では転送割合が低いことも示された」と述べている。
また、Gierlotka氏は「若い女性であっても心臓発作を起こしうる。このことは医療者や一般市民に広く認識されるべきだ。女性では疾患の兆候や症状が従来とは異なるパターンであることが多いため、医療援助の誘導を遅らせる一因となっている」と考察した。
心臓発作の症状として最もよく知られているのが、胸痛と左腕の痛みだ。しかし、女性では背中や肩や胃痛を感じることがしばしばある。「もしも、あなたが胸、喉、首、背中、胃や肩に15分以上続く痛みを感じたなら、救急車を呼んでほしい」と筆者らは訴えている。
1)4Ibanez B, James S, Agewall S, et al. 2017 ESC Guidelines for the management of acute myocardial infarction in patients presenting with ST-segment elevation. Eur Heart J. 2018;39:119-177. doi: 10.1093/eurheartj/ehx393.
(あなたの健康百科編集部)