痩せ過ぎは寿命を縮める!?
日本人の平均寿命は、男性80.98歳、女性87.14歳(2016年)であり、世界的にも長寿を誇る。そんな長生きの日本人が、さらに寿命を延ばすためのポイントは何か。東北大学大学院歯学研究科の相田潤准教授らは、このほど日英共同研究を実施し、日本人の平均寿命をさらに伸ばす上で最も改善の余地があるのは、痩せ過ぎからの脱却であることを明らかにした。研究の詳細は、1月18日発行の医学誌「Gerontology」(電子版)に掲載されている。
痩せ過ぎ、家族や友人とのつながり、喫煙が関連
世界的に高齢化が進む中、高齢者に着目した寿命に関する国際的な比較研究は、これまであまり行われていなかった。また、数少ない研究は欧米人を対象としたものが中心で、長寿を誇る日本人を含めたものはほとんどない。
そこで今回、研究グループは、日本と英国の高齢者を対象に、生存期間の差が生じる要因について検討した。
分析の対象となったのは、日本と英国のそれぞれで実施された65歳以上の高齢者を追跡した2研究。英国で行われた試験の参加者は、女性3,083人(平均年齢74.7歳)、男性2,468人(平均年齢73.7歳)だった。一方、日本の試験の参加者は、女性6,882人(平均年齢73.4歳)、男性6,294人(平均年齢72.5歳)だった。最長9.4年の追跡期間中に、英国の女性31.3%、男性38.6%が死亡した。日本では女性19.3%、男性31.3%が死亡した。
追跡開始時点の健康状態や年齢差などを調整した上で両国の生存期間の差を算出したところ、女性では日本人の方が、英国人よりも318.8日長寿であることが分かった。男性の場合は、日本人が英国人より131.6日長生きだった。
家族とのつながりを婚姻状態から調べたところ、日本人男性は、英国人男性に比べて結婚している率が高く、家族とのつながりがより強いと考えられた。このことが、日本人男性が英国人男性よりも生存期間が105.4日間長いことにつながっていた。その一方で、日本人男性は友人と会う機会がほとんどないという人が多く、友人とのつながりは英国人男性の方が強かった。これは、英国人男性と比較した、日本人男性の45.4日間の生存期間の短縮につながっていると考えられた。
研究グループは「地域のサロンや趣味の会、スポーツの会などを通して、人と人とのつながりを増やすことが健康に結びつく。そのため、人々の交流が生まれるようなコミュニティ作りへの取り組みが重要だ」とコメントした。
また、英国では現在喫煙習慣のある女性が13.1%、男性が12.0%と、喫煙率は男女同等だったが、日本では女性2.5%、男性24.0%と男性で高かった。英国人女性よりも日本人女性の喫煙率が低いことが、日本人女性の197.7日の長寿につながっていた。反対に、男性では、英国人に比べて日本人の喫煙率が高いことが、日本人男性の46.6日間の生存期間の短縮につながっていた。
研究グループは「喫煙が有害であることは広く知られている。日本人男性の喫煙率が英国人男性程度に下がれば、また英国人女性の喫煙率が日本人女性程度に下がれば、生存期間の改善に大きく寄与するだろう」としている。
体格では、英国人女性の1.7%、同男性の0.8%が低体重(BMI18.5未満)だった。それに対し、日本人は男女とも痩せ過ぎが多く、女性8.8%、男性7.5%が低体重だった。体重は重過ぎても軽過ぎても死亡率が高くなると言われているが、特に高齢者では、若い人に比べて低体重の影響を受けやすい。日本人に痩せ過ぎが多いことが影響してか、低体重は、英国人に比べて日本人の女性で129.0日、男性で212.2日の生存期間の短縮を招いた。
さらなる長寿の達成に必要なこととして、研究グループは、次の3点を挙げた。①日本人男性で友人とのつながりを、英国人男性で家族とのつながりを、それぞれ増やすこと②日本人男性と英国人女性で喫煙を減らすこと③日本人男女のやせ過ぎを改善すること―。
これらについて、研究グループは「一方の国で実現できることは、他方の国でも実現が不可能ではない」とし、比較的改善しやすいことを強調。今回の研究について、「より健康的な社会の実現のために何が必要かを示した点で、非常に意義があった」と評価した。