山芋が認知症を改善か
日本は、世界に誇る長寿大国であると同時に、認知症大国でもある。高齢者の5人に1人が認知症という時代がすぐそこまで迫っており、現在、原因の究明や新しい治療法の開発が国を挙げて進められている。そんな中、富山大学和漢医薬学総合研究所(富山市)の東田千尋教授らが、山芋に多く含まれる「ジオスゲニン」という成分が健康な人の認知機能を向上させることを証明した。研究の詳細は、10月24日発行の学術誌「Nutrients」(2017;9: E1160)に掲載されている。
3カ月の継続摂取で認知機能が改善
認知症の中で最も多くを占めるアルツハイマー型の原因は、アミロイドβという異常なタンパク質が脳内に蓄積されることによると考えられている。
これまで、認知症対策のアプローチとして、アミロイドβの生成を抑えるような治療薬の研究開発が行われてきた。しかし、いまだ根本的な治療薬の開発には至っていない。その理由について、研究グループは「アミロイドβの蓄積は、認知症を発症する30年程前から始まり、認知症診断時には既に神経回路網の破綻が進んでいる。その時点でアミロイドβの蓄積を阻害したとしても、神経回路網の機能が修復できない限り、認知機能の回復は難しいからではないか」と説明している。
そこで研究グループは、認知機能の改善には、脳内の神経回路網を強化させる必要があると考え、山芋に多く含まれる成分「ジオスゲニン」に着目。2012年にマウスを使った実験を行い、ジオスゲニンがアルツハイマー病を発症させたマウスに対し、脳内のアミロイドβの増加を抑え、運動や感覚などの情報を伝達する脳のシナプスの変性を改善することを突き止めた。
そして今回、研究グループは、前回の研究結果を検証するため、人を対象とした実験を行った。20~81歳の健康な男女28人(平均年齢46.5歳)に、ジオスゲニンを含むヤマイモエキス50mgの入ったカプセルまたは偽薬のいずれかを、1日2粒ずつ3カ月間摂取し続けてもらい、認知機能への影響を調べた。
ジオスゲニン含有ヤマイモエキスまたは偽薬の摂取前後に、認知機能検査と血液検査を行った。認知機能は、アーバンス(RBANS)という神経心理テストで評価した。
その結果、ジオスゲニン含有ヤマイモエキスを摂取すると、偽薬摂取の場合に比べて明らかに認知機能が向上していた。対象者を年齢ごとに分けて分析したところ、47歳以上の人でその効果が特に目立った。
研究グループは「今後、この山芋成分の優れた機能への注目度が高まり、認知症予防に大きく寄与することが期待されます」とコメントしている。