ストレス対処力アップに森林浴
日本では、就労者におけるメンタルヘルスの不調が大きな問題となっている。筑波大学大学院人間総合科学研究科産業精神医学・宇宙医学グループ准教授の笹原信一朗氏らは、つくば市の就労者を対象に実施した調査データを用いて、森林浴や緑地散歩の習慣とストレスへの対処力との関連を解析。その結果、頻繁に森林散策や緑地散歩をする人ほどストレスにうまく対処できることが明らかになったと、Public Health in Practice(2021年1月3日オンライン版)に発表した。
つくば市の就労者6,466人を解析
メンタルヘルスの不調は未然の予防が重要と考えられており、ストレスへの対処力向上につながる生活習慣に関し多くの研究が行われている。中でも、数時間の森林浴にリフレッシュ効果があることが数多く報告され、森林浴への関心が世界的にも高まりつつある。しかし、就労者が習慣的に森林浴を行うことがストレス対処力に及ぼす影響は明らかでない。
そこで笹原氏らは、自身が委員長を務める筑波研究学園都市交流協議会労働衛生専門委員会が2017年に実施した無記名自記式ウェブ調査のデータを利用し、森林浴や緑地散歩の習慣とストレス対処力との関連を検討した。
対象は、20~59歳のつくば市の就労者6,466人(男性3,965人、女性2,501人、平均年齢42.7歳)。森林散策についてはハイキング、自然観察、山歩き、山中でのキャンプなどの頻度を、緑地散歩については都市公園などの緑地に行く頻度を尋ねた。ストレス対処力は、日本語版SOC(Sense of Coherence)尺度を用いて測定した。
ストレス対処力は森林散策で1.30~3.06倍、緑地散歩で1.78~2.69倍
その結果、森林散策の頻度は、週1回以上が2.4%、月1~3回が11.8%、年1~数回が41.8%、ほとんどしないが44.1%だった。緑地散歩の頻度はそれぞれ16.9%、30.3%、28.7%、24.0%だった。
解析の結果、森林散策をほとんどしない人に対し、頻度が多い人ほどストレスへの対処力が高かった(オッズ比1.30~3.06)。緑地散歩でも同様に、頻度が多い人ほどストレスへの対処力が高かった(同1.78~2.69)。この傾向は、年齢、最終学歴、世帯収入、婚姻状況、居住地、運動や喫煙などの生活習慣による影響を調整後も一貫して認められた。
笹原氏らは「森林や緑地など自然と触れ合う習慣が、就労者のストレス対処力を高める可能性がある。今後も研究を重ね、森林浴習慣がもたらす長期的な効果について明らかにすることが重要だ」との考えを示している。
(比企野綾子)