食物アレルギー根治の鍵を解明
経口免疫療法(OIT)は食物アレルギーに対して有用な治療法だ。しかし、OITの初期段階において脱感作の誘導から免疫寛容の獲得に至るまでの正確なメカニズムは解明されていない。千葉大学大学院医学研究院イノベーション医学准教授の倉島陽介氏らは、食物アレルギーのOITモデルマウスを用いた実験で、アレルギーの根治につながるOITの作用機序の一端を解明したとMucosal Immunol(2020年12月10日オンライン版)に発表した。
悪玉マスト細胞が善玉へ変化
これまで、OITの施行により①ヒスタミンを誘発しアレルギーを発症させるマスト細胞の応答が低下する②アレルギーを抑制する制御性T細胞が増加する―ことが知られている。しかし、両者がどのように関連するかは明らかでない。そこで、倉島氏らの研究グループは、独自に食物アレルギーモデルマウスを作製、マスト細胞の低応答化と制御性T細胞増加の関連を検討する実験を行った。
その結果、OITを施行したマウス群ではマスト細胞が低応答状態になるだけでなく、制御性T細胞を増やすインターロイキン(IL)-2やアレルギー症状を抑えるIL-10を産生、アレルギーを起こす悪玉細胞からアレルギー反応を抑える善玉細胞へと性質が変化していることが分かった。
また、OIT施行中にモデルマウスの身体からマスト細胞を除去したところ、制御性T細胞が減少すると同時に、制御性T細胞のアレルギーを抑える性質が低下した。
さらに、in vitro実験でOITを模倣したところ、アレルギーの抑制物質を放出するように変化した善玉マスト細胞の作製に成功した。
細胞スイッチ機構の解明でアレルギー治療の精度向上へ
以上の結果から、OITによるアレルギー治療成功の鍵は、アレルギーを起こすマスト細胞がアレルギー物質を放出しないように低応答化させるだけでなく、マスト細胞自身がアレルギーを抑える細胞へと機能を転換させるメカニズムが重要であることが分かった。
倉島氏らは「今後、アレルギー発症に関与する悪玉細胞を善玉細胞へと効率的に切り替えるスイッチ機構を解明、応用することで切り替え促進薬の開発が期待できる。さらに、スイッチ機構を制御し悪玉細胞から善玉細胞への切り替えが安定的に行えるようになれば、食物アレルギー治療の精度向上にも貢献できる」と展望している。
(渡邊由貴)