眼鏡で新型コロナ感染を抑制!?
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界に拡大する過程で、飛沫・接触感染に加え眼の粘膜を介した感染経路が指摘されている。中国では近視の割合が高く、眼鏡の装用は一般的だが、昨年(2019年)12月に武漢市でCOVID-19が発生以降も眼鏡を着用したCOVID-19入院患者はほとんどいないという。同国Second Affiliated Hospital of Nanchang UniversityのYiping Wei氏らは、眼鏡装用とCOVID-19の関連性をコホート研究で検討。一般集団に比べ眼鏡を着用した人は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染への感受性への低い可能性があるとの結果をJAMA Ophthalmol(2020年9月16日オンライン版)に報告した。
病歴聴取時に眼鏡着用関連を詳細に聞き取り
近年の報告によると、中国における近視の有病率は人口の80%以上に上り、眼鏡は幅広い年齢層で着用されているという。それにもかかわらず、昨年12月に武漢市でCOVID-19が流行して以降、眼鏡を装用したCOVID-19入院患者はほとんどいないとされる。
そこでWei氏らは、COVID-19入院患者の既往歴の1つとして眼鏡着用の有無を調べ、眼鏡着用とCOVID-19の関連性を検討した。
対象は、今年1月27日~3月13日にSuizhou Zengdu HospitalでCOVID-19の治療を受けた全入院患者276例〔男性56.2%、年齢中央値51歳(範囲41~58歳)〕。
COVID-19治療に際し、医師は病歴を聴取する中で視力、眼鏡を着用する理由、1日当たりの着用時間、コンタクトレンズ併用および屈折矯正手術(レーシック)の有無なども聞き取った。なお毎日8時間以上、眼鏡を着用した者を長時間着用者と定義し、ヒトとの接触時には眼鏡を着用していたと見なした。
一般集団における近視の有病率として、同国の州教育機関と保健省が実施した7~22歳の学生が対象の身体および健康状態に関する1985年の調査データを用い、記述統計により研究サンプルを特性化した。
近視の割合5.8% vs. 31.5%
COVID-19患者の大半が中等症と診断され、重症は5.1%だった。主な症状は発熱(82.2%)、咳嗽(79.0%)、疲労感(51.1%)で、基礎疾患を有する患者(31.9%)のうち高血圧が最も多かった(17.0%)。 全体の10.9%が近視または老視により眼鏡を着用し、コンタクトレンズ併用例および屈折矯正手術例はいなかった。長時間眼鏡着用の16例全例が近視であった(5.8%、年齢中央値33歳)。
1985年の調査データでは学生の近視(≠眼鏡着用者)は31.5%に見られた。いずれも今年の時点で42~57歳に達しており、今回の対象の年齢中央値に近い。
Wei氏らは「1985年における一般集団に比べ、長時間眼鏡を着用したCOVID-19入院患者では近視の割合が少ない」と指摘。今回の結果は、日常的な眼鏡着用とSARS-CoV-2感染に対する感受性低下との関連を示唆するものだと述べている。また「眼の粘膜を介する感染経路に鑑み、頻回の手洗い、眼に対する接触の回避といった予防法に注力すべき」とも。
ただし、少数のサンプルを用いた単一施設の研究であり、対照が現在の一般集団における近視の有病率ではないなどの限界がある。そのため同氏らは、眼鏡の着用によるSARS-CoV-2感染への感受性低下の要因について、さらなる研究の実施を要するとしている。
(田上玲子)