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第1波と何が違う?大曲氏が対策呼び掛け

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の新規感染者数が7月29日に国内で初めて1,000人を超え、感染拡大に歯止めがかからない状況が続いている。国立国際医療研究センター病院国際感染症センター長の大曲貴夫氏は、同日、日本肺癌学会が緊急開催した肺がん医療向上委員会ウェブセミナー「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)時代の肺がん診療を考える」で講演。「7月中旬の時点でSARS-CoV-2感染者は全年齢層に広がっており、注目すべきは30歳代や40歳代でも死亡例が確認されていること」と説明。患者を受け入れる病院や感染リスクの高い高齢者が過ごす施設における感染対策が重要であり、「院内感染対策を今一度引き締めるべき時期」と強調した。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査は院内感染、ひいては医療崩壊の防止というリスク管理の手法として重要であり、「感染者の診断に加え、感染防止策として活用するという考えにシフトする必要がある」と指摘した。

幅広い年齢層に感染が拡大、30~40歳代の死亡例も

大曲氏は「COVID-19の最新状況」をテーマに講演。厚生労働省が発表した7月15日時点のSARS-CoV-2感染者発生状況のデータを解析した結果を紹介した。
致死率は全体で4.4%であり、最も高い年代は80歳代以上の28.3%、それに70歳代の14.2%、60歳代の4.7%、50歳代の1.0%が続くと説明。「年齢が高いと重症化率、致死率も高い」と話す一方、「注目すべきは30歳代、40歳代でも死亡例がある」と指摘。30歳代の0.1%(4例)、40歳代の0.4%(14例)で死亡が確認されているとした。

基礎疾患のあるCOVID-19患者と致死率との関係については、中国における4万4,672例のCOVID-19患者を分析した報告によると、心血管疾患がトップで10.5%と説明。2位以下は、糖尿病が7.3%、慢性呼吸器疾患が6.3%、高血圧が6.0%、がんが5.6%で続いていた(図1)。国内のデータは現在解析中だという。

図1.併存疾患別に見たCOVID-19患者の致死率

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(China CDC Weekly 2020; 2: 113-122)

中でもCOVID-19に罹患したがん患者の予後、治療の影響、死亡リスクなどについては「関心が高い」と述べる一方で、「どのがん種の患者で致死率が高いというところまで研究は進んでいないようだ」とした。現時点では、高齢、全身状態(PS)が不良、がん治療を行っている患者で「致死率が高いといえそうだが、それ以上の詳細な情報は分かっていないのが現状だ」とコメントした。

第一波と何が違う? 今の流行状況

一方、感染拡大が深刻化した感染の「第一波」とされる今年2月~4月の流行時期と現在を比べると、「7月15日時点ではSARS-CoV-2感染者は20~30歳代を中心に広がっている。不思議なのは3、4月の時期は20~30歳代の陽性者の割合は低く、どちらかというと40歳代以上が多く、現在の状況とかなり違いがあるといわれる」と大曲氏は述べた。その背景として、第一波の感染拡大期にはCOVID-19の相談・受診の目安は「37.5℃以上の発熱が4日以上続く」と敷居が高かったことで、若年者を中心に軽症者などが診断されていなかった点を挙げた。そのため、第一波と現在の流行状況を「単純に比べるのは難しい」と述べた。

第一波の感染拡大期と現時点での大きな違いを挙げるとすれば、COVID-19患者の治療法がある程度確立してきたことだろう。
同氏によると、肺炎のない患者の治療ゴールは肺炎予防であり、治療薬としてシクレソニド、イベルメクチン、ファビピラビルが用いられているという(図2)

図2.COVID-19患者の治療法

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(大曲貴夫氏の講演資料を基に編集部作成)

肺炎の症状のあるCOVID-19患者ではレムデシビルがほぼ標準治療であり、ナファモスタット、ファビピラビルが使用される。肺炎から重症化する患者には、デキサメタゾンが標準治療として使用される他、関節リウマチなどに使用されるバリシチニブ、トシリズマブ、また肺炎の症状があるまたは高リスク患者には回復期血漿の投与、抗凝固療法などがほぼ標準治療として選択されているとした。その上で同氏は「今後さらに優れた薬が出ることも望まれており、肺炎をどのように予防するかが研究の対象になるのではないか」と述べた。

また流行期において、COVID-19を早期段階で疑う症状の1つとして嗅覚や味覚の障害を挙げ、「これらの症状を訴えた場合は、SARS-CoV-2感染を疑うのはごく自然なこと」と述べた。イタリアの研究報告ではCOVID-19と診断された患者88例の33.9%に嗅覚障害または味覚障害が見られ、18.6%に嗅覚障害および味覚障害のいずれも認められ、COVID-19との関連が明らかになってきているという。

手術前の患者全員にPCR検査を実施、リスク管理に活用

大曲氏はPCR検査の在り方についても触れ、「リスク管理のツールとして重要」との考えを示した。「診断目的のPCRと感染防止で用いるPCRの意義は恐らく異なる。COVID-19は無症状でも他人に感染させてしまう疾患だ。SARS-CoV-2陽性者は術後の感染症リスクが高く、医療者の曝露の問題などを考慮した場合にPCR検査はそのリスクが高い患者どうかを見分ける有効な手立てになる。分娩や内視鏡手術の前に患者に対しPCR検査を実施することは、(自覚症状がない人からの感染を未然に防ぎ、医療崩壊に陥るのを防止する点で)現在の流行期では十分行う理由がある」との見解を述べた。
その上で、「当センターでは手術患者全例に術前のPCR検査を受けてもらっている。かなりの数の患者に検査を行っても陽性と判定されるのは1~2例にすぎないが、COVID-19は無症状でも他人に感染させる可能性があるため必要性があると考えている。ただし、いつまで実施するかについては議論の余地があるのではないか」と述べた。

(小沼紀子)

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