世界の5人に1人にCOVID-19重症化リスク
英・London School of Hygiene and Tropical MedicineのAndrew Clark氏らは、世界疾病負担研究(GBD)2017および国連世界人口推計2020年版のデータを用いて新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化危険因子となる基礎疾患(心血管疾患、慢性腎臓病、糖尿病、慢性呼吸器疾患など)の有病率を解析。世界全体ではこれらの基礎疾患を1つ以上有する人は17億人(22.4%)で、COVID-19重症化リスクを保有する割合は5人に1人に上るとの推計結果をLancet Glob Health(2020年6月15日オンライン版)に発表した。
70歳以上では66%超がリスク保有
今回Clark氏らは、GBD2017と国連世界人口推計2020年版のデータに加え、世界保健機関(WHO)と英国および米国の公衆衛生当局が発表したガイドラインでCOVID-19重症化危険因子と指摘されている慢性疾患のリストを用い、COVID-19重症化危険因子を有する人口を世界と188カ国・地域において年齢別および性別に解析した。
その結果、世界全体でCOVID-19重症化危険因子を1つ以上有する人は17億人〔95%不確実性区間(UI)10億~24億人〕、世界人口の22.4%(同15~28%)と推計された。
この割合は20歳未満では5%未満だが、就労可能年齢(15~64歳)では23%、70歳以上では66%超に及んだ。国・地域別でも、アフリカの16.3%から欧州の30.9%まで幅があった(図)。
図. 地域別に見たCOVID-19重症化危険因子を有する割合
また、入院が必要になるCOVID-19重症化の高リスク群は、世界全体で3億4,900万人(95%UI 1億8,600万~7億8,700万人)、4.5%(同3~9%)と推計された。
この割合は、20歳未満では1%未満だが70歳以上では約20%、女性の3%に比べて男性では2倍の6%になり、70歳以上の男性では25%超に上昇した。
高齢者、HIV/AIDS、糖尿病が多い国でリスク上昇
重症化危険因子を有する割合が最も高い国・地域は、高齢化が進んだ国(日本、プエルトリコ、欧州諸国など)、HIV感染率/AIDS有病率が高いアフリカ諸国(エスワティニ、レソトなど)、糖尿病の有病率が高い小島しょ国(フィジー、モーリシャスなど)であった。
日本については、COVID-19重症化危険因子を1つ以上有する割合は33.4%、入院が必要になる高リスク群の割合は5.9%と推計された。
Clark氏らは今回の推計を、「社会的距離の確保を強化した方がよい人や、将来ワクチンが使用可能になった場合に優先的に接種すべき人の把握に役立ててほしい」と結論。ただし、アフリカに関する結果には注意が必要であり、「アフリカ諸国は若年人口が多いため、重症化危険因子を有する割合は他のどの国・地域よりも低いが、重症例の死亡率はどの国・地域よりはるかに高くなる可能性がある」と警告している。
米・Columbia University Mailman School of Public HealthのNina Schwalbe氏らは同誌の付随論評(2020年6月15日オンライン版)で「Clark氏らが指摘するように、COVID-19対策は画一的な取り組みから高リスク群に的を絞った対策へ切り替える時期に来ている」と指摘。さらに「COVID-19重症化リスクの社会的決定要因の重要性を考えれば、そのような対策を取る際には①COVID-19に関する情報発信・伝達を早急に改善する②社会的弱者が緩和ケアを含む医療サービスを受けやすくする③緩和戦略に対処するための経済援助を行う―などの対応が必要だ」と述べている。
遺伝学的要因が重症化に関与か
今回の研究では日本における潜在的なCOVID-19重症化リスクは高いことが示されたが、実際にはCOVID-19による致死率は欧米と比べて低い。その要因として、マスク着用率と手指衛生遵守率の高さ、過去の類似ウイルス流行による潜在的獲得免疫の可能性、BCG接種、国民皆保険制度を基盤とする医療システムと医療水準などが指摘されている。さらにヒト白血球抗原(HLA)を含むさまざまな多型による免疫反応の違いが重症化に関与している可能性が推測される。
こうした中、慶應義塾大学内科学教室教授の金井隆典氏らは多施設異分野の専門家から成るコロナ制圧タスクフォース研究チームを発足した。同氏は「われわれは日本人COVID-19患者の遺伝子を解析し、日本人特有のCOVID-19重症化関連遺伝子を明らかにすることでCOVID-19診断時に重症化を予測して医療崩壊を防止すること、遺伝学的知見に基づいた有効な新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)粘膜免疫ワクチンを開発することを目指している」と述べている。
(太田敦子)