身体的距離は1mで感染に予防効果
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大防止策として、身体的距離の確保、マスクおよび目を防護するアイシールドの着用が有効とされている。カナダ・McMaster UniversityのDerek K. Chu氏らは、これらの感染防止策の有効性を検討するシステマチックレビューとメタ解析を実施。人との距離を1m以上空けることで新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染リスクが82%低下すると、Lancet (2020年6月1日オンライン版)に発表した。
コロナウイルスの感染予防研究44件で検討
SARS-CoV-2は濃厚接触を介してヒトからヒトに伝播し、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を来すこともある。感染防止策として身体的距離の確保、マスク、アイシールドの着用が導入されている。 Chu氏らは、各種コロナウイルスに感染した患者をケアする際に、感染リスクを低下させる身体的距離を定量的に評価する目的でシステマチックレビューとメタ解析を行った。
フェースマスクにはサージカルマスク、N95を含み、眼を保護するものとしてバイザー、フェースシールド、ゴーグルなどとした。 2020年3月26日までのMEDLINE、 PubMed、Embase、COVID-19 Open Research Dataset Challenge、世界保健機関(WHO)による21件の標準的医学電子データベース、COVID-19の特異的データベースなどに加えて、5月3日までのLancet、JAMA、N Engl J MedのCOVID-19 Resource Centreや、bioRxivなどの査読前論文のオンライン・アーカイブから、SARS-CoV-2、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、βコロナウイルスに関する論文を検索した。サウジアラビア、韓国、中国、米国などの16カ国における医療施設および非医療施設での観察研究172件を抽出(ランダム化比較試験は存在せず)。2万5,697例を対象とした比較研究44件についてメタ解析を行った。
距離が長くなるにつれ防止効果は高まる
解析の結果、感染を防ぐ身体的距離は、1m未満に比べ1m以上でSARS-CoV-2感染リスクの有意な低下が認められた〔解析対象1万736例、調整後オッズ比(aOR)0.18、95%CI 0.09~0.38%、リスク差(RD)−10.2%、95%CI 11.5〜−7.5%、中等度の確実性〕。さらに身体的距離が離れるにつれて感染防止効果は高まることが分かった〔1m延長するごとの相対リスク(RR)の低下2.02、交互作用のP=0.041、中等度の確実性〕。
フェースマスクについても着用することで感染リスクが有意に低下(解析対象2,647例、aOR 0.15、95%CI 0.07〜0.34、RD −14.3%、95%CI −15.9〜−10.7%、低い確実性)。使い捨てのサージカルマスクと比べ、N95および同等のマスクを着用した場合、感染リスクの低下はより顕著であった。なお、サージカルマスクおよび再生可能な12~16層のコットンマスクを用いた場合の事後確率(posterior probability)は95%未満であった(交互作用のP=0.090、低い確実性)。
眼の保護と感染リスクの低下についても有意な関連が認められた(解析対象3,713例、aOR 0.22、95%CI 0.12〜0.39、RD−10.6%、95%CI −12.5〜−7.7%、低い確実性)。
暫定的な指針策定の根拠にも
COVID-19のパンデミック下で治療薬、ワクチン、その他の感染防止対策に関する新たなエビデンスが生み出されつつある。
今回の結果を踏まえ、Chu氏らは「われわれが行ったシステマチックレビューとメタ解析から、SARS-CoV-2感染に対する防止策として、単純かつ実効可能な3つの方法を提示できた」と述べている。また、RCTでの検証が必要であると断った上で、システマチックレビューとメタ解析の結果に基づいて暫定的な指針を提示できる可能性があるとしている。
(田上玲子)