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​第21回  健全な企業体として外食産業を担う存在になる。株式会社TAKE FIVE 遠山和輝社長

朝ドラ「まんぷく」と焼肉「まんぷく」

NHKの連続テレビ小説、通称朝ドラ。2019年3月現在「まんぷく」が放送されている。日清食品の創業者、安藤百福夫人の視点から百福の半生を描いた、NHK大阪放送局らしい作品である。朝ドラはNHKの東京と大阪局が交互に制作するが、「ちりとてちん」や「カーネーション」など、大阪局の方が面白いのは通説で、今回の「まんぷく」も非常によくできている。

ドラマのタイトルでもある「まんぷく」は、安藤百福を想定した役柄の立花萬平が発明する、世界初の即席麺「チキンラーメン」の番組上の名前だが、そこには立花萬平、ヒロイン福子を合わせて「まんぷく」となる伏線が張られている。と、そんな話をしていたら、焼肉店「十々」や「まんぷく」、イタリア料理「RED PEPPER」等を国内外で運営する株式会社TAKE FIVE社長、遠山和輝さんは語り始めた。

「うちで展開している焼肉店『まんぷく』は、勝どきで祖母が創業した店がベースとなっているんですが、そのときは『満福苑』という名で漢字でした。祖母の名前は満子、満子に福が来るようにと付けられたそうです。実は弊社TAKE FIVEも母の名前がタケコだったので英語に当てはめてみました。ファイブとしたのは、5大陸すべてに出店したいとの目標も表しています」

最初は表参道の地中海料理からスタート

広尾にある株式会社TAKE FIVEのオフィス。とても美しくかっこいい空間で、デザインとかプランニングを生業にしているイメージ。そして遠山社長も、ファッションやIT系社長といっても過言ではない佇まい。一方、店名や社名のいわれを伺うと、そこに見える親や血すじを敬う気持ちは、株式会社TAKE FIVEに通う温かみの源泉が、ここにあるのかもしれないと最初に感じた。

「もともと、独立や起業志向の強い家系で、いったん商社に就職したものの一年余りで退職し、すぐに飲食店を始めました。当初は学生時代に手伝っていた母の焼肉店への反動もあり、洋食系でスタート。地中海料理というのでしょうか、フランス・イタリア・スペインが混在する構成です。当時ニンニクを主体に料理する店が少なかったので、ニンニクを食べさせたいと思いました。

スタート時はちゃんとシェフがいて、ぼくはアシスタントみたいな形で始めたのですが、シェフが辞めてしまい自分がやることに。

私どもの洋食系では定番となっている『ラザニア』は、ぼくが大好きな店の看板メニューだった『ナスとトマトのチーズ焼き』をやろうと思って用意していた柳川鍋を使ってラザニアを作ってみたのが最初です」

名物「ラザニア ボロネーゼ」の誕生秘話はそんなところにあったのだ。

もう一品、イタリアの地元のおいしさを提供する「クーイタリアーノ」にある「スパゲッティ レモンクリーム」についても聞いてみた。

「ニンニクを食べさせたいと思いつつも、実はイタリア料理ってそんなにニンニクを使っていないことも分かってきたので、もっとリアルなイタリアに寄せようと、具材はまったく入らないシチリアの『スパゲッティ レモンクリーム』を作りました。レモンは南イタリアでもよく食べられる名産品ですし。

私たちグループのコンセプト『楽しい日常』の中にあるマニアックなこだわりでしょうか。この乾麺は、一般的なパスタの倍以上するグラニャーノ特産の太い特殊な品。しかも茹で時間もかかりますが、レモンとの相性がよくイタリア本場にも近い。

何か特別な料理があるからそれを目指して行くタイプの店づくりは苦手で、ふらっと入れるんだけど、ちゃんと練られたメニューや隠し玉が見つかる、そんな店づくりが好きですね」

焼肉店「まんぷく」への展開

焼肉店をご自身のルーツに持ちながらも、地中海料理でスタートした遠山社長。
その判断や才覚が、後々生きてくることになる。

「表参道一号店の後、恵比寿にも出店し、洋食の方は順調でした。
やがて、叔父が実質上経営をしていた焼肉店『まんぷく』自由が丘店を買い取り、自分が運営をしていくことになりました。

同時に海外展開の足掛かりとしてアメリカを考えました。でも、ベースにあるのは単純にアメリカに行きたかったんですよ。現場にいると海外に行けない。かといって休もうとも思わない。では仕事を作らなきゃ。堂々とアメリカに行くにはアメリカに出店するしかないとの結論ですね。

アメリカ進出も、まず人の目安がついていて、というかアメリカでやりたいスタッフがいたからこそできました。常に考えるのは、人が中心。継続的にやれる人たちと組もうと。

アメリカは当時意外と知らなくて、ロサンゼルスを歩いて回ろうと思っていたぐらい。イタリア料理となるとシェフの技術が必要ですが、焼肉なら自分で乗り込んでオープンに向けできる限りやってみようとしました。まずはイエローページを開いて電話をかけまくる。英語のコミュニケーション力もつけたかったんです。一から自分でやるのが好きなので。今はもう、なかなかできないことですが」

BSE禍で考えたこと

当時「まんぷく」は、自由ケ丘一店舗のみで他は海外だったが、バブル崩壊後、ご親戚が持っていた西麻布の「十々」「胡同」を買い取った。その直後にBSE禍に見舞われ、7年間は低迷したという。


「やはり大変でした。70%ぐらい売り上げはダウンしました。洋食系と海外だけで細々とやっていかざるを得ない決断を迫られる瞬間もありました。でも、ようやく禍が過ぎ去る兆しが見えたとき、各店舗の地域の方々に絞って積極的なキャンペーンを打ちました。それが功を奏し、牛肉に渇望していたお客さんが一機にあふれ出て、その時以降で定着をしていただきました。

なにごとも機を見る力が大切ですね。それこそが経営者としての判断なのかもしれません。

10店舗程度いい店を持って、こぢんまりした会社にしたいとの独立当初のプランは、収益もよく雑誌にも取り上げられて、当時のぼくには、やり切った感があったんです。でもBSEがきて大変な苦労をし、一からやりなおすべきと考えを改めました。今の時代に合わせて、洋食形態も焼肉も新しい姿を開発し、もう一段広げることを目指そうと思ったんです」

きちんと経営学を学び、正しい経営をする

BSE禍の試練から、飲食店の経営を考え直すことになった遠山社長。

より高く深い経営者目線での取組みをスタートさせた。

「ずっと飲食店で働き詰めだった母のためにも、自分の人生を飲食店のオヤジで終わってはいけないと、企業としての形を作り始めました。もはや飲食業ではなく外食産業という、社会インフラに不可欠な一つの産業を担う訳で、経営を勉強し、本もよく読み、一つ一つ実践していきました。

お腹を満たすだけではなく、少なからず意味を持つ飲食店を連続させていきたい。日々進化する食文化が根底に流れているお店にしたい。まず、そう考えました。

自分が管理できる範囲では、ずっと言い続けていればいいんですが、だんだん大きくなると、それを体系的に実行していくに、ブランド力を持ち、スタッフが働く意味を感じ、お客様に喜んでいただける事業体にしていかなければなりません。

一発ポンと当てるのは、死に物狂いでがんばればできるでしょう。でもBSEのように頑張りだけではかなわない、運命に抗えないことも起こります。

継続は、そのお店が目指そうとしている、提供したいと思うものがはっきり見えないと、どの時代も難しいんです。そして、うちの一店舗一店舗が長く続くのは、企業力をつければ、大変なこともみんなで分け合えるからなんです」

これからの展開とアイデア

最後に、遠山社長のこれからを伺った。

「将来を考えると、経営より事業の方が中心になってくるので、経営は任せて事業に参画するつもりです。経営者として、ずっと右脳を押さえ左脳でやってきたので、右脳を使うこと、そろそろやりたいですね。


基本は食いしん坊からスタートしてます。自分が他のレストランに行って足りないなと感じる点が発想のベース。それを自分の店でやればいいんです。

アメリカで展開する居酒屋が好評を博していて、それを東京にも欲しい。でも当然ですが、そのまま持ってきても受け入れられるとは思えない。そこからが工夫、右脳をフル回転させるところです。和食はずっとやりたかったし、焼肉、洋食、和食。最終的には三つ柱を作り、個性的な店がそれぞれにあればいいなと考えています。

例えば当社の焼肉の場合は、大きな流れで見ると変わらないものなんです。地域に愛していただき順調に推移しているので、逆に変える必要はないとも思います。重要なのは、キムチとかナムルとかサラダとかがきちんとおいしいかどうかですよ。逆に洋食は、国民食じゃないので常に情報収集をやっていかないと。

海外戦略では、日本のイタリアンがおいしいとアジアで認識を得ているので、2019年シンガポールにイタリアンを出店します。個人店は何軒か出てますが企業体でいくところは少ないだけに、企業としての総合力や優位性を生かしたいです。

アメリカでは、ロサンゼルスしかなかった焼肉「manpuku」を、テキサスのダラスへの出店を計画しています。

来期(2019年4月)から事業部門に軸足を置くと決めましたが、最終的には、人が育つ企業がやりたいです。当社の社員を見て、たくさん話していると、人が育ては企業は確実に強くなっていくことを実感します」

筆者は、外食産業経営者の皆さんを取材させていただき、オフィスにも何度もうかがった。そんな中、今回の株式会社TAKE FIVEは、もっとも「会社」らしい会社だという気づきが随所にあった。すなわち、遠山社長が真摯に向きあうビジネスの姿勢が、「会社」にピタリ重なったということだ。

経営・事業・組織・・・、会社のトップでありながら、ご自身を一つのコマとしてその中に置くことも自在にできる。そんな柔軟性こそが、TAKE FIVEそれぞれの店舗が持つ企業力だと感じた。

株式会社テイクファイブ
【住所】東京都渋谷区広尾一丁目10番5号 テック広尾ビル1F
【TEL】 03-5791-5355(代表)
【URL】http://www.take-5.co.jp/

【プロフィール】
伊藤章良(食随筆家)
料理やレストランに関するエッセイ・レビューを、雑誌・新聞・ウェブ等に執筆。新規店・有名シェフの店ではなく継続をテーマにした著書『東京百年レストラン』はシリーズ三冊を発刊中。2015年から一年間BSフジ「ニッポン百年食堂」で全国の百年以上続く食堂を60軒レポート。番組への反響が大きく、2017年7月1日より再放送開始。

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