​第15回 リーダーズにオススメ、ハワイ・ホノルルの旬な店2018

ピギー・スモールズ

ハワイには、地元発行の雑誌「ホノルルマガジン」読者の投票で決まるグルメ大賞「ハレ・アイナ」がある。

1984 年スタート、2018 年で第34 回という、それなりに歴史と権威を備えているグルメアワードだ。

オアフ島でのベストレストランは、ハワイを旅行する方ならよくご存じであろう「アラン・ウォンズ」か「ロイズ」が、長きにわたって地位を独占し続けていた。
ところが一昨年あたりに、ついに新星が登場。2018 年のアワードは、チャイナタウンにある「ザ・ピッグ&ザ・レディ」が獲得している。

過去にユーロアジアンとかパシフィックリムと称され、その後、ハワイ・リージョナル・キュイジーンと名称が統一されたハワイ料理がその座を占めていたのに対し、「ザ・ピッグ&ザ・レディ」は、モダンベトナミーと形容される、新感覚のエスニック料理。ハレ・アイナ・アワードの姿を一気に塗り替えることとなった。

この「ザ・ピッグ&ザ・レディ」、筆者は何度となく訪れているものの、チャイナタウンと呼ばれる一角にあり、(今は、チャイナタウンという言葉は使われなくなっているような気がする)以前は少々治安の悪いエリアとして観光客には敬遠されがちだった。現在は決してそんなことはないのだが……。

ところが最近、アラモアナに近いワードエリアに、姉妹店(「ザ・ピッグ&ザ・レディ」のオーナーの兄弟が運営するまさに姉妹店)がオープン。その名を「ピキー・スモールズ」と呼ぶ。

アラモアナから少々空港側(ワイキキと反対側)に位置するワードエリアは、観光客ニーズのアラモアナセンターと比べ、ローカルの遊び場として以前より栄えてきた。
ところが近年、プール付きの超高級コンドミニアムや、Amazon に買収されたセレブなスーパーチェーン「ホール・フーズ」が出店するなど、第二のカハラと言っても過言ではないくらい、モダンでハイソなゾーンとしての発展が著しい。
したがって、「ピキー・スモールズ」は、ショッピングの合間のランチや、海岸沿いを散歩がてらの早めのディナーなど、エリア全体を楽しむ形で利用することができるのだ。

「ピキー・スモールズ」のメニュー、例えば「Not Summer roll」。

春巻を英語にすると、そのままspring roll、生春巻はSummer roll という。

なぜ「Not」なのか――。
生春巻の具材そのままの周りにたくさんのチコリ。
この野菜の上に生春巻のネタを載せて召し上がれ!という趣向だ。

生春巻の皮(ライスペーパー)は、たくさん食べるとお腹いっぱいになってしまうし糖質制限者にも敬遠されがち。
これならヘルシーかつ、いくらでも食べられ生春巻の醍醐味も味わえる。
他にも、日本人好みの野菜のフォーなどもあり、入口に掲げられた日本語メニューを
チェックするだけでもワクワクが止まらないだろう。

Piggy Smalls
1200 Ala Moana Blvd, Honolulu
808-777-3588

XO

前述の「ザ・ピッグ&ザ・レディ」とまではいかないが、こちらもハレ・アイナ・アワードでオープンが話題になった、チャイナタウンのレストラン「セニア」。

モダンハワイ料理のさらなる進化系として、よりアメリカ本土寄りの料理を展開。
場所柄もあり、メニューを比較的安価に構成し連日の賑わいだ。

ところが、オープンして間もない「セニア」から巣立って、新たな店を開いたシェフが登場。
「セニア」のあるチャイナタウン同様、ホノルルではリーズナブルなレストランが集まるカイムキエリア。
「XO」と題された店は、何とも形容のしがたい内装だった。

おそらくは、元々中国料理店……。
なぜかカウンター部分だけモダンにリモデルされている。
ダイニングテーブルにはビニールクロス、しかも上に透明の板が載せてあるタイプ。
調度品や壁の額も以前の店の中華風の名残そのまま。
一刻も早くオープンしたかったのか、料理以外にはこだわらず勝負するつもりなのか、その意図がつかみにくい。

訊けば、この場所でシェフの両親がもともと店を営んでいて、リタイア後に引き継いだとのこと。
そのあたりの事情があってオープンを急いだのだろうか。
そして、元々両親が集めた思い入れのある品々には手を付けられなかったのかもしれない。

ところが料理が運ばれると周りの環境は見えなくなる。
いや、周りなどどうでもいい感覚。
「セニア」は完全に「洋」だが、「XO」は「亜細亜」にもルーツを感じるコンセプト。
そしてメインデッシュに物足りなさを感じた「セニア」のウップンを晴らすような、豪快極まりない太い皿の数々。
センスや感性というよりも「やっぱりハワイで食べるゴハンはこうじゃなくっちゃ」と、笑いがこみあげてくるぐらいフッ切れた潔さ。

幾層にも重ねてグラタン仕立てに焼いたポテト、サワークリームの酸が効いて、食欲
中枢がさらに刺激される。

圧巻はフライドチキン、見た目以上のコンガリ感・クリスピー感は日本では味わえない。

ソースは日替わりのようで、ぼくが訪れた日はシソランチ。
特にアメリカで人気の高いクリーミーなドレッシングに、しその風味をまとわせている。

「XO」がXO 醤を使っているとするホタテのソテーは、唯一欧米の料理っぽかったのも逆説的で面白い。
XO とは、ブランデー用語で、extra old のこと。ところがこの店は、extra old というよりextraordinary と表現した方がきっとふさわしい。

今、思い出しても、いったい何料理なのか考えがまとまらない。
ヨーロッパやアメリカ本土にはルーツがないことだけは確かだが、そんなカテゴリ分けは必要のない時代の象徴と言えるかもしれない。

XO
3434 Waialae Ave #5, Honolulu
808-732-3838

スシ・イイ

「ハワイでお寿司って、どこがいいですか?」
頻繁に日本人観光客から質問される。
まず、短期滞在中ハワイでわざわざ寿司を食べる必要はないと答える。

移民をオープンに受け入れ様々に進化してきたハワイの料理と同様、この地で、この地の民によって形成された独自のsushi は確かにあるし、意外にもおいしかったりする。

その代表格が、アラモアナセンター近くの「スシ・イイ」だろう。
「スシ・イイ」は「Sushi ii」と綴る。
文字通り日本語の「いい」にかけているに違いない。Hawaii のii からも来ているのだろうか。

にしても、硬派なイメージの鮨の感覚を逸脱したかわいいロゴマークである。

ハワイには物凄くたくさんの寿司店がある。
それこそ日本から来た超高級店「すし匠」や「おのでら」も話題だし、行列で有名な「美登利寿司」までオープンしている。
ずっと昔から日本人の手によってローカルの舌を満足させてきた「柳寿司」のような店も何軒か存在する。

そのいっぽうで、sushi が商売になることに目を付けた中国人や韓国人が営む不思議な店も多い。
ホノルルなど単純に地名が付いている店は、実は日本人経営ではない、という通説も聞いた。

「スシ・イイ」は、そのいずれでもない。
日本人によるものでも、なんちゃってスシでもない。
「sasabune」というロサンゼルスやハワイにあるアメリカ発祥の店でsushi を学びハワイで出店した、純粋に日本がルーツではない、日本を知らない第二世代の寿司店なのだ。

話はそれるが、「sasabune」という店、ハワイではナチスシ(ナチスのスシ)ともいわれ、それは厳格なルールに恐れられている。
職人は日本人なのに店内では日本語のオーダーが禁止である。
しかも、Today's Special の黒板には、一言「Trust me!(私を信じろ)」と、だけ書いてあるのだ。

「スシ・イイ」は、確かにちょうどいい。

メニューには仔羊のステーキやフォアグラもあるし、地場の野菜や近海の魚を使った地産地消の料理もある。
コハダにはちゃんと一流の仕事が施され、サーモンスキンロールやソフトシェルクラブロールも上質。

普通に頼んだネギトロ巻きは、当分日本でも食べないだろうなと思うほど秀逸。

日本の寿司を知らない、でもsushi のレシピや技術はきちんと勉強した日系アメリカ人が、真面目に真剣に取り組んだ第二世代の寿司店。
全く別の料理カテゴリとしても楽しいし、日本の鮨職人が瞠目するだろう輝きもある。

間違いなく、ここハワイで醸成された固有の文化だと思う。

小さな店なので紹介は控えていたが、最近店を拡張して客席が広くなった。
日本語のメニューはないけれど日本語は通じる。

Sushi ii
Samsung Plaza 655 Keeaumoku St Ste 109 Honolulu
808-942-5350

鉄板焼き・ファーマー


元々その場所には日本のダイエーが出店、現在はドン・キホーテとなって、現地の日本人にも大変親しまれているスーパーマーケットだ。

アラモアナセンターから徒歩10 分ぐらいだろうか。「Don Quijote」と綴るスペイン語なので、ハワイローカルにも、ドン・クイ・ジョーテとして親しまれている。


そんなドンキのすぐ脇の道沿いに「Tae's Teppanyaki」という店があった。
鉄板焼と名乗っても、パフォーマンスが売り物の高級店ではなく、テイクアウト主体の

安価な食堂。
元々店主は高名なハワイの日本料理店で料理人をしていて、奥様の名前を店名にし、オリジナルのステーキロールを展開した。

このステーキロール、極めてシンプルながら、誰もやらなかったし気づかなかった、今まで食べたことのない瞠目の美味しさ。

薄切りの上質な牛肉を鉄板で焼き、千切りにしたポテトに巻いてロール状にし、ザクザクっと切って出来上がり。
それをポン酢に付けて食べる。
元々、ぼくたちは牛肉をポン酢で食べる民族だ。
肉の脂と火が乗り移って少々しんなりしたポテトの千切り(大根のツマかと思えるほど細く刻んである)と合わせ、ぽん酢の入った小さな容器に浸す。

「ウマイ、うますぎる。日本で誰か作ってくれ!!」
毎回食べるたびに叫んでいた。

加えて、スパイシー、ワサビなどのソースを好みでチョイスでき、ポン酢と共に味変し
ながらあっという間に完食だ。

ぼくは「タエズ」を知って以来、滞在中一度はここでステーキロールを食す。
それが習慣となって十数年……。
あるとき、ドンキの帰りに何気なく見た「タエズ」がタイ料理店に代わっているではないか!

しばし茫然とし、現地でフードライターをやっているアメリカ人の友人たちに情報を求めた。
すると、先ごろ別の場所にて新たな登場を遂げたよと教えてくれた。

そこは、アラモアナセンター内。
フードコートの、白木屋という日系の店が入っていた一角に新規オープンした。
まことに天晴れな復活劇といえよう。

白木屋のあった場所といえば、ハワイリピーターなら誰でも迷わず行けるはず。
センターの一階にあるマカイ・フードコートとは一線を画する、少々暗めの大人なテイスト。
バーも併設され、そこに他で購入した皿を持ち込むことも可能らしい。

「タエズ」の新しい店は「鉄板焼き・ファーマー」。
店名・経営者等の細かい内容には調べがついていないが、メニューを観れば確かに、オリジナル・ステーキロールとある。

いや、しかし。
そこで一瞬目が止まる。

――とんでもなく高いのだ!!

「タエズ」のころの1.5 倍以上か……。
でも、めげずに唯一無二の料理を注文し、オープンキッチンで調理しているところを見て安心する。
全く同じだ!
以前はグリーンサラダとマカロニサラダをチョイスできた記憶があったが、それはなくなった
一方、スバイシー、ワサビなど追加ソースは一種類しか選択できなかったが、全品セルフで取りそろえることが可能だ。

新たな店でのステーキロールは、日本円で1500 円を越える。

でも、やっぱりぼくはここに来るだろう。朝は10 時から焼き始めるので(店舗は9 時半オープン)、遅めの朝食にも悪くない。最後の日にここで購入して飛行機に乗るというのもオツなものだ。

あまりにうれしかったぼくは、レジの女性スタッフに「タエズ」愛をいろいろと語ってしまったが、過去を知らない新店舗の面々には、全く意に介されなかったのが唯一の寂しさだ。

Teppanyaki Farmer
1450 Ala Moana Boulevard, Honolulu



【プロフィール】
伊藤章良(食随筆家)
料理やレストランに関するエッセイ・レビューを、雑誌・新聞・ウェブ等に執筆。新規店・有名シェフの店ではなく継続をテーマにした著書『東京百年レストラン』はシリーズ三冊を発刊中。2015年から一年間BSフジ「ニッポン百年食堂」で全国の百年以上続く食堂を60軒レポート。番組への反響が大きく、2017年7月1日より再放送開始。

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