今とこれからを見つめ成長し続ける際コーポレーションこそ、食いしん坊の応援団

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こんなところに「際」の店が

渋谷区道玄坂。百軒店と呼ばれる少々怪しいエリア。ブティックホテルがひしめく谷間には、いくつかの名店も見つけることができる。そこにひと際客を集め輝いている場所がある。
「もつ焼きウッチャン」。煮込みやもつ焼きがおいしいことはもちろん、レモンサワーを注文すると、グラスに入ったシャーベット状の甲類焼酎にレモンを絞り、炭酸水のビンとともに出される。氷が解けて水っぽくならない酒飲みにはたまらないサービスだ。実はこの人気もつ焼き店も、今や直営店が全国に300軒を越えるという、中島武社長率いる際コーポレーションの経営なのだ。

「中島社長に騙されましたよ。すごく美味しくて居心地のいいもつ焼き店を見つけたと思って友達と楽しんでたんです。支払いのとき領収書をもらったら、なんと際コーポレーションと書いてある。まさかあの『際』が、こんなもつ焼き店までこっそり営業してるなんて、やられたなぁと思いました。とか、いわれちゃったんだけど、ぼくはなにも隠していないし、この店のことは会社のウェブサイトや自分のブログにも書いてるんです。
たまにフラッと、黙ってここに行ってみるんだけど、行列ができていたので自分も並んで待っていたら、自分のすぐ前に入った客でモツは売り切れって言われちゃいました。流行ってるのはいいけど、まいったよなあ(笑)」

と、楽しそうに語る中島社長。
餃子から高級中国料理まで、そんな印象が強い際コーポレーションだが、実はイタリア料理、割烹、居酒屋、昨今ではホテルまでを展開。その発展と進化は留まるところを知らない。

韮菜万頭の店からスタートした「際」は、エイジング、つまり時代や場所を飛び越えた異次元空間で客を思いきり心地よくする魔力を駆使して一斉を風靡した。ある日突然、繁華街の真ん中や住宅街の片隅に、漢字や動物の絵が描かれ使い古された壁が現れる。のぞいてみると竹藪や大きな壺などが置いてあり、ここはいったい何なのか何処なのかと、通るたび興味津々だ。しばらくして気鋭の中国料理店だと分ると、非日常を渇望する客が読めない中国語店名の扉に吸い込まれていく。店内もまるで映画の中に観る中国だ。いっぽう、料理を注文する段になると、意外にも分かりやすいメニュー構成、そしてやたらと美味しく食べやすい。重くて甘ったるい印象が強かった当時の中華料理に比して、際コーポレーションの料理は、塩味の輪郭がくっきりし油が軽く香り高い。普段よりも一皿二皿多く食べても胃にもたれない。ぼくの記憶の中にある西麻布の「虎萬元」や、広尾の「胡同四合坊」(現在は閉店)は真にそうだった。

過去を振り返らない中島社長の姿勢

中島社長に当時の話を聞かせていただきたいとお願いすると、、
「今の時代はね。『胡同四合坊』とか『白椀竹快樓』みたいな名前を付けても前を通るお客様の足を止めることはできない。変な名前だなあと素通りされるんですよ。SNSを始めとする情報や評価が溢れすぎて、今のお客様にとっての興味はすでに別のところにあるんです。
新しく出そうと考えている店名のアイデアは『アモーレ アモーレ』とかね。誰もが耳にしたことのあるワード、ビンと来る言葉でこそ入ってみようかなと思うわけです。しかもアモーレという名前なら、ビールや中国酒しか置けなかった旧来の店に、ワインをはじめラムやテキーラなどのスピリッツを置いても決して違和感がないでしょ」

ぼくは、中島社長に過去の成功事例やサクセスストーリを伺いながら、最終的に将来をどのように考えておられるのかについて突っ込んでみようと段取りしていた。ところが中島社長にとって、成功事例など過ぎ去ったことでしかない。そのときに成功したからと、今、同じことをやっても成功できるとは限らない。ご自身の実績にはまったく興味が失せているかのごとく、常にこれからのことばかり、目を輝かせて話される。

「流行らない店というのは、もてない男と同じ。何も手を打たないでその場でじっと待っているだけなんです。もてるためには流行るためには、スタイルや見せ方、提供する料理を替えていかなければならないんです。つまり、どの段階で今の存在に諦めをつけ次の手を打つかの決断こそが、もてる秘訣かなと思いますよ」

中目黒駅近く山手通り沿いで、餃子をメインとしていたカジュアルな中国料理店は、突然「藪ノ椿」なるうどん居酒屋に業態変更した。タイガーから可憐な椿への変身だ。九州は五島の細いうどんと関東で広く食べられる武蔵野うどん、二種類をメインに、さまざまな惣菜メニュー、厳選された地酒。こちらもまた、うっかりすると際コーポレーションとは思えない和のテイスト。しかも店名は動物ではなく植物というから、すっかり騙されてしまう。

そして中島社長は、やたらと仕事やアイデアの展開が早い。それも、過去を振り返らないスタイルの一貫なのかもしれない。お話を伺っている最中にも、みるみるうちに何店舗かの新しいアイデアが浮かび上がってくる。どう思う?との質問も来て、筆者もたじたじとなる。
身近な例でいえば、ぼくは社長を個人的に存じているので、直接今回のインタビューを申し込んだ。その10分後には秘書の方からメールが来て日程調整が始まり、半日後には広報の方からも連絡をいただき、インタビュー内容についても打合せが整った。
すべての部署や部門でこのように迅速な動きが実現されるなら、単なるインタビュアーのみならず、関係会社・業者は感激し、ずっと共に仕事をしていきたいと願うだろうし、他社はこのスピード感には追従できないに違いない。

「際」の人材育成や登用も個性的

中島社長の高い経営手腕の一つとして、人材の育成や登用がある。
これだけの店舗数、幅広い料理ジャンルやエリアに渡れば、その一つ一つを入念に対応する時間も難しいに違いない。ところが中島社長は、年齢とか過去に何をやってきたなど紙面上の経歴にこだわらない。人柄を知って納得できればどんど起用する。独立や転職で辞めるスタッフがいても、うまくいかなければいつでも戻って来いよと声をかけ、実際に、他社では自由に働けないとか、経営と調理の両立は得意ではなかったと自覚したなど、様々な理由で「際」に戻ってくるケースも多い。

また育成についても独創的だ。店舗ごとにスタッフを集めての試作会をたびたび開催し、自らもそこに出かけて助言を行うという。そうすることで料理人の技量やモチベーションを確認し、西麻布の「龍眉虎ノ尾」では、そんな中で見込まれた料理人が季節ごとに交代で腕を振るうという。その場に立ちたいという強い気持ちが、さらに料理人のレベルを上げているはずだ。

こんなに素晴らしい人材登用をされていても、今はやはり共に働く人を集めることが一番の悩みとか。
「いい人にここで働きたいって思ってもらうためには、魅力的な店を作らなければなりません。中国料理店をこのままさらに展開していけば十分に儲かるんだけど、それでは働く人に魅力や将来性を感じてもらえないでしょ。なので、今はここに(本社ビル一階)新たに『○□(まるかく)食堂』という店(2018年3月オープン)を作っています。
『まるかく食堂』は、日本全国からすぐれた食材を集め、それを使ってその都度地方色豊かな郷土の味を食堂として提供していきたいと考えています。特に、コンビニやファストフードなどに慣らされてしまった多くのお客様に対し、素材本来の味と本当の美味しさとはなにかを伝えたい。出すぎない素直な味付けで素材の力を伝える尊い役割をモチベーションにして、当社で働いていただきたいと考えています」

いつも応援団の精神で

飲食店のような時代と生きている職種では、過去に成功した手法も今は全く通用しない。そこを振り返ってもすでに価値は見つからない。現在と未来、それだけを考え、お客様にも社員にも伝えて続けていくことが、中島社長の使命。その強靭な意志こそが秘めたるパワーの源である。

大学時代は応援団長まで務められたと伺った。選手には過去の実績もあるかもしれないが、応援団は選手の今をそして将来を願って声を張るのが使命。
すべてのスタッフや各店舗の大勢のファンに至るまで、常に応援団長たる中島社長の立ち位置は、他の誰もが真似のできない不動の場所なのだと痛切に感じた。

際コーポレーション株式会社
https://kiwa-group.co.jp/


【プロフィール】
伊藤章良(食随筆家)
料理やレストランに関するエッセイ・レビューを、雑誌・新聞・ウェブ等に執筆。新規店・有名シェフの店ではなく継続をテーマにした著書『東京百年レストラン』はシリーズ三冊を発刊中。2015年から一年間BSフジ「ニッポン百年食堂」で全国の百年以上続く食堂を60軒レポート。番組への反響が大きく、2017年7月1日より再放送開始。

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