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第5回 牛肉の本当のおいしさとアメリカの伝統文化を伝える、あの「ロウリーズ・ザ・プライムリプ」が、赤坂に再び登場。

ロウリーズ・ザ・プライムリブの思い出から

最初に海外に行ったのは1980年代のヨーロッパだった。
自分はこのままヨーロッパに魅せられ続けるのだろうなと静かに感じていた。
ところが、80年代後半に親しい友人がアメリカのシカゴに赴任し、その友人宅を訪れて以降、アメリカ本土での生活や旅のスタイルに興味を持ち、しばらくはアメリカ本土を往復するようになった。

ちょうどそのころ封切られた、リドリー・スコット監督のロードムービー「テルマ&ルイーズ」に影響され、アメリカのハイウェイをひたすら走るという一人旅である。映画さながら、ハイウェイのジャンクションに集まる安モーテルに泊まっては、翌早朝から走り出す。

「テルマ&ルイーズ」の舞台はニューメキシコ州。いっぽうぼくはサンフランシスコからロスアンゼルスまで、ほぼ海岸線のみを通るパシフィックコーストハイウェイに魅せられた。ここは、マイケルジャクソンが暮らしたサンタバーバラを始め、いずれの街並みも美しく風光明媚。さすがカリフォルニアである。そんな街々にはスシやイタリア料理などシャレた店も点在していた。それでもぼくは、終着地点のロサンゼルスにて自分へのお疲れ様に決めていたのが、ビバリーヒルズにある「ロウリーズ・ザ・プライムリブ」だった。迫力たっぷりのアメリカンな肉料理や荘厳な英国風の雰囲気はもちろん、こちらで買うことのできた(現在は別会社にて販売)シーズニングスパイス類を、当時交際中だった妻へのお土産にするのもミッションのひとつだった。

そんなロウリーズが日本へ

17年前に日本へロウリーズを導き、さまざまな苦難を乗り越えて、ビバリーヒルズ本店の次に高い売り上げを誇る店に成長させたのが、株式会社ワンダーテーブル 秋元巳智雄社長である。

「弊社(株式会社ワンダーテーブル)前社長の林は、中学生のころから親に連れられロウリーズに行っていて、林のマイ・フェイバリット・レストランだったんです。そして21年前、私は林に連れられビバリーヒルズ本店を訪問しました。林曰く、自分はこの店が好きだ。でも、この店を日本に持っていって成功するかどうかは分からない。もし成功する自信があるなら、店側と交渉をしたいと。私自身もそのとき本当に感激し、今までの日本にはないこのお店をぜひ日本で成功させたいと林に話したんです」

その後、契約までの交渉と物件探しで、オープンまでに3年半を要した。
ビバリーヒルズ本店は、来年で装業80年。秋元社長らが交渉を始める以前、いくつもの日本企業が名乗りを上げたが、いずれもライセンス契約を結ぶには至らなかった。成功にいたったのは、秋元社長、そして林会長が築いた信頼関係と熱意の賜物だったに違いない。秋元社長は続ける。

「ライセンスが取れそうになって物件を探し始めました。ロウリーズからの要望は300坪以上。内心はそれは日本の実情に合わないので200坪ぐらいの店を探そうと思っていたら、ある知人から400坪の物件紹介が入りました。自分の想定の倍のサイズだったものの、ロウリーズを日本で再現するには最適ともいえるすばらしいスペース。一日悩んだ末、林にも伝えて快諾してもらい、次にロウリーズの副社長に物件を見せたところ、一言、大きすぎないか?(笑)」

現地の魅力と味をそのまま再現した日本のロウリーズ

当時のぼくは、ビバリーヒルズにある「ロウリーズ・ザ・プライムリブ」が東京にできるとは、にわかに信じられなかった。そして、オープンしてすぐ、今はなき赤坂の旧店舗を訪れ、さらに驚いた。
ビルの地下というハンディはあるものの、その豪華さ、華麗さ、アメリカらしい豪快さ、すべてが同じ。もう一つ、提供されるメニューについても自分の記憶の中のものと寸分違わない正確さだった。しかも、アメリカの土地、アメリカの肉の現地プライスと比較して、意外なほど押さえられた価格に、心から感謝した。

開店当時の逆風

自分自身の記憶では、ロウリーズと当時の肉業界への大逆風だったBSEは別個のもののように認識していたが、秋元社長曰く、実情はそうではなかった。

「開業一か月後に日本のBSEが発生。日本人が牛肉を食べなくなり、その後三年ぐらいはずっと赤字でした。なにしろ物件がでかすぎましたね。普通の会社だとその規模ではやらないし、3年も続けないと思うんですね。でもそこは、ブランドをじっくり育てるということと、お客様に丁寧に接してくれていたスタッフのためにも、様々なところに頭を下げて続ける努力をしました。実際、少しずつ売り上げは上昇していました。ところがさらに、アメリカのBSEが出たんです。そのときは、アメリカ産牛肉のみがダメだというレッテルでメインの牛肉まで輸入できなくなってしまい、しばらくはオーストラリアの肉を使っていたんです」

アメリカ発 プライムリブとは

ところで、プライムリブとは何かについて説明しておきたい。
プライムとは、Amazonのプライム会員などでも使われるのと同様で、最上級のという意味。リブは元々肋骨のことで、ひいてはその周辺の骨付きロース肉を指すので、プライムリブとは極上の骨付きロースとなる。またアメリカでは、料理名も意味していて、ロウリーズ以外にもプライムリブと名の付く店は全米にいくつかあるようだ。
それは、ステーキともイギリス伝来のローストビーフとも少し異なる、アメリカ独自の肉料理とするのが一番適切だと思う。ローストビーフと調理法や付け合わせは似ているが、肉をローストする際に使う数種類のシーズニングスパイスや火を通す際の技術が、ロウリーズオリジナルのテイストに仕上げるのだ。

ぼくが何よりも感動したのは、塊から切り分けられた分厚い肉の美しさである。焼肉もステーキでも、日本では牛肉が高価ということもあり、どうしても薄く切って調理する習慣がある。いっぽう、ロウリーズでサービスされた肉を目前にすると、まずはその圧倒的な厚さ大きさに驚愕するだろう。日本のロウリーズでは、日本人に合わせたトウキョウカットや伝統的なローストビーフとしての薄切り肉もメニューにあるが、ここではぜひロウリーズカット以上の分厚い肉と相対してもらいたい。分厚い肉に自分自身でナイフを入れる感触たるや、ヒトが肉食であったことへ喜びが体の芯からこみあげてくるだろう。

また、一見こんなに分厚い肉が簡単にカットできるのかと思いきや、まるでナイフの自重で勝手に動いていくような感覚でスパンと切れる。もう口まで運ぶのが待ち遠しく、もどかしい。ロウリーズのプライムリブは、今まで日本人が経験してきた牛肉料理とは別物。自分で好きな大きさに切って自分の歯や舌で肉質や肉汁を確かめるのである。こんなに楽しくて幸せなことがあろうか。

再び赤坂へ

秋元社長の赤坂への思いは強かった。
「やっと5年目ぐらいから黒字になって、7年目8年目には一つの店舗で年間10億円以上の売り上げを確保できるようになりました。20年30年ずっとこの場所で続けようと思ってたんですが、ビルの建て替えがあるとのことで出ざるを得なくなりました。そこで移転先に恵比寿を選びました。それを機会に考えたのは、日本独自の展開です。食材は世界のロウリーズと比較しても、よりすばらしいものを調達し、日本のお客様のために独自のステーキメニューも作って高額なステーキ用厨房機器を配備しました。パンも自家製。昔は残されるお客様も多かったんですが(笑)、最近はおかわりをいただくようになりました。

恵比寿も実に多くのお客様に愛していただき順調です。でも個人のお客様が多く、旧赤坂時代のお客様の何割かは恵比寿にはお越しいただけない。特に丸の内、日本橋のエグゼクティブは、銀座や六本木もあるのでなかなか恵比寿にまでたどり着かない。やっぱり赤坂だとの思いは深まるばかりでした。そしてついに,再び赤坂にもオープンできる機会を得たんです」

料理と金額は恵比寿と同じ、でも新しい赤坂の「ロウリーズ・ザ・プライムリブ」。訪問して分かるが、ビルの設計段階から企画しないと、この大きなスペースは確保できない。改めて秋元社長の信用と業界での実績の高さにに舌を巻いた、

「大きなスペースをリースするのはビル側のリスクも大きいんです。ロウリーズのブランド姿勢はトレンドに反しているかもしれません。でも、他のビルと同じような商業施設づくりでいいんですかと説得しました。
新しい赤坂店は、オールドアメリカンのイメージをガラリと変えて、日本独自の未来型ロウリーズを作っていこうと考えました。テーブルにはクロスをかけず木目の印象を生かし、照明もそれが映えるよう工夫しました。
東京という街、そして、こういう新築のビルには欧米風の伝統的なデザインは合わない。40~60歳ぐらいの元気な大人に艶っぽく使ってもらえるのが理想です」

艶っぽく・・・。この秋元社長の一言こそが、まさに赤坂に再びオープンした「ロウリーズ・ザ・プライムリブ 赤坂店」の魅力を伝える素敵な言葉だと、強く記憶に刷り込まれた。
最後に、ロウリーズにはすばらしいワインも揃っているのでしょうねと問うと、
「もちろんです。日本で一番たくさんカリフォルニアワインが飲まれているのは当店ですよ」と、秋元社長は相好を崩した。

ロウリーズ・ザ・プライムリブ/Lawry's The Prime Rib
http://www.lawrys.jp/


【プロフィール】
伊藤章良(食随筆家)
料理やレストランに関するエッセイ・レビューを、雑誌・新聞・ウェブ等に執筆。新規店・有名シェフの店ではなく継続をテーマにした著書『東京百年レストラン』はシリーズ三冊を発刊中。2015年から一年間BSフジ「ニッポン百年食堂」で全国の百年以上続く食堂を60軒レポート。番組への反響が大きく、2017年7月1日より再放送開始。


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