卓球・Tリーグ開幕まで3カ月! 琉球アスティーダの凄腕社長に注目。
卓球新リーグ「Tリーグ」が開幕!
10月24日、いよいよ卓球新リーグ「Tリーグ」が開幕する。
男女ともに4チームずつが参戦してのリーグ戦。
男子が「T.T彩たま(埼玉県)」「木下マイスター東京(東京都)」「岡山リベッツ(岡山県)」「琉球アスティーダ(沖縄県)」、女子が「日本ペイントマレッツ(大阪府大阪市)」「木下アビエル神奈川(神奈川県)」「TOP名古屋(愛知県名古屋市)」「日本生命(仮称、大阪府)」という陣容で、各チームは現在急ピッチで開幕への準備を進めているが、その中で最も「攻め」の姿勢を見せているのが、琉球アスティーダ。
今年3月に就任した早川周作球団社長が、その陣頭指揮を執っている。
◆松下浩二氏との運命的な出会い。
ベンチャー企業の経営支援を中心に、さまざまな事業を展開する早川氏とTリーグの出会いは、今年1月のこと。当時「Tリーグ」の専務理事の職にあった松下浩二氏との出会いがきっかけだった、と早川氏は語る(松下氏は現在Tリーグのチェアマンに就任)。
「それまでの人生で、卓球とは全く縁がありませんでした。それでもTリーグについて話をしていく中で、僕が沖縄に7年住んでいる、という話をしたところ、松下さんから『では、琉球アスティーダをやっていただけないか』というお話をいただきました」
もともと琉球アスティーダは2013年に「沖縄から世界へ!」をスローガンとして設立されたクラブチームで、現在は実業団の1部リーグに所属。Tリーグ参戦というさらなるステップアップを前に、経営基盤の強化が急務となっていた。一方、政治家を目指し衆議院選挙にも出馬したことのある早川氏は、琉球アスティーダを経営することは、沖縄への社会貢献へとつながるものだ、と考えた。
◆沖縄の経済格差の解決策にも。
「松下さんは、卓球というスポーツの魅力を僕にこう語ってくれました。『5歳で始めても、15歳で五輪のメダリストになれる可能性があるし、お金もさほどかからないでチャンスが与えられる。こんなスポーツ、ありますか?』――。この言葉から、大きなインスピレーションを得ました。
そもそも沖縄は貧富の格差が大きな社会問題になっています。平均所得が全国ワーストである一方で、対人口比年収1000万以上の層の比率は高く、全国でも7、8位。7年暮らしてきた中でさまざまな矛盾の形もわかってきました。貧富の差が拡大するだけでなく、それが固定化しているため貧困層が希望を持ちにくい構造になっている。これはなんとかしなければ、と常々考えていた中でのお話でした。
もともとプロスポーツチームへの関心は持っていましたが、沖縄から世界へ羽ばたく選手の育成はもちろん、スポーツ関係の雇用創出だったり、人々の集まるコミュニティーづくりも含めて、プロスポーツチームが沖縄でできることはたくさんあるのではないか、と思ったんです。そこで、その場でお引き受けします、とお伝えしました」
◆スポンサー募集などの活動にも成功。
即断即決、スピード感を重視する早川氏は、まず資金面、選手確保にいち早く動いた。
もともと実業団時代からLCCで唯一黒字経営のピーチ・アビエーションがメインスポンサーになっていたが、それに加えて琉球ダイハツ販売株式会社、琉球銀行、沖縄サントリー株式会社、医療法人社団輔仁会田崎病院、沖縄ファミリーマートをはじめとした地元企業とスポンサー契約を結び、さらにはクラウドファンディングにも成功した。
「5月1日に、100万円を目標にスタートしましたが、早々に達成。1カ月で309万5000円が集まりました。全国からの支援をいただくだけでなく、アスティーダ、Tリーグの認知度アップにもつながったように思います。集まったお金は、ファンクラブ開設やグッズ製作、卓球スクールの展開など沖縄の卓球活性化のために活用する予定です」
◆なぜ外国なのに台湾を重視する?
選手としては、世界ランク最高5位の丹羽孝希、松平兄弟の兄・松平賢二や昨年から所属する台湾選手の福原愛選手の夫でもある江宏傑に加えて、台湾トップ2の陳建安、荘智淵も獲得した。
「沖縄を中心としてアジア地図を眺めてみると、アジア諸国、特に台湾との近さに気づきます。実際、沖縄から東京は飛行機で約2時間半かかりますが、台北はわずか約1時間。東京からお客さんを呼ぶよりも、台湾からのインバウンドを真剣に考えていい。
実際、経済面でも、沖縄のゼネコン会社が台湾の開発を手がけることが多かったりと、台湾と沖縄は切っても切れない仲にあります。ならば、この地の利を活かさない手はありません。そういった方針も、台湾の選手を重点的に獲得することにつながりました」
◆YouTubeも卓球教室も巻き込んで。
異色のメンバーも加わった。YouTubeで有名選手との対戦動画や技術動画を流している “ぐっちぃ”こと山口隆一さんも加入したのだ。
「加入については、リーグ内で反対の声もありました。でも、彼が登場する『WRM-TV』のチャンネル登録者数は9万8000人。彼の力でチームやリーグの知名度をアップさせることが必要だと考えました。
それに、競技レベルはトップ級とまではいきませんが、彼は卓球をなによりも愛していますし、彼のような選手がプロになれるというのも、夢があっていいじゃないですか」
選手たちは、試合だけでなく、全国各地で開催予定の卓球教室に積極的に派遣していきたい、とも考えている。
「卓球は生涯スポーツとして40代以上の方々にも幅広く親しまれていますが、そういった方々は自分のプレー向上には関心があるけど、卓球の試合を“観る”ことへの興味はさほどではありません。そこで、東京や大阪をはじめ、全国各地で開かれる卓球教室選手を派遣して、そこで選手たちに触れてもらう機会を積極的に作っていきたいと思っています。
あるいは、卓球教室の参加者に、アスティーダのタオルやボトル、Tシャツなどのグッズを使ってもらう。そうすることでチームや選手への関心を引き出し、サポーターになってもらえたらいいですよね」
◆まずは体育館での観戦環境を整えたい。
“観る”環境作りについても、課題は明確だ。
「将来的には本格的なアリーナでの開催を目指していきたいですが、Tリーグ初年度は、宜野湾市立体育館と、豊見城市民体育館での開催が決まっています。体育館で開催する時は、これまでは入り口で靴を脱ぎ、持参したスリッパで館内に入る、ということが標準だったようですが、これではお客様は集まりません。ここはどうしても変えていきたい。
5月の実業団の試合では、清掃などのコストはかかってしまいましたが、観客が土足で入れるようにしました。これからも靴を脱ぐことなく入場でき、飲食も自由にできるような形を作っていきたい。
また、2階席だけでなく、仮設であってもアリーナ席を作り、真剣勝負の臨場感を味わってほしい。NBAやプロ野球、Bリーグがさまざま取り組んでいるような、チアリーディングであったり、ブレイクタイムでのビンゴゲームであったり、試合だけではないエンターテインメント要素もしっかり準備して、皆さんに楽しんでいただきたいですね」
◆バスケもサッカーも一緒に!
沖縄にはBリーグの琉球ゴールデンキングスや、Jリーグ(J3)のFC琉球など他スポーツのプロチームもあるが、FC琉球とはJ/T両リーグ初の連携協定を締結済み。キングスとも協力体制を組んでいく。
「今やプロチーム同士、お客さんを取り合うのではなく、共生していく時代になってきています。いわゆるWIN-WINの関係を目指していくことで、沖縄全体のスポーツ振興を進めていきます。
お昼はバスケ、夜は卓球、土曜は卓球、日曜はJリーグといったような共通チケットにもチャレンジしていきたいですね。
とにかく僕は、『やらないことが一番のリスク』という考え方でここまでやってきました。この魅力ある卓球というスポーツ、アスティーダというチームをどれだけ多くの人々に観てもらえるか。これからもリーグの先頭に立っていろいろな仕掛けをしていきます」
◆将来は総合型地域スポーツクラブへ。
卓球だけでなく、トライアスロンチームも結成した。アドバイザーにデュアスロン日本チャンピオンのエース栗原正明氏を迎え、またバイクのメカニックとして塩田幸男氏のサポートを得て、本格的に活動を開始している。将来的には、総合型地域スポーツクラブとしての活動も視野に入れているようだ。
早川氏は「まだ発表できないけど……」と断りながら、他にも夢が膨らむさまざまな構想を話してくれた。
それらがすべて実現したら。
間違いなく琉球アスティーダは、Tリーグは、面白くなる。
http://number.bunshun.jp/articles/-/831414
※この記事は文芸春秋社より転載許可をいただき掲載しております
text by 瀬尾泰信(Number編集部)
photograph by Ryukyu Asteeda