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ビジネス交渉の戦略①~レベルに合わせた提携交渉

(写真=Pressmaster/Shutterstock)

企業提携(アライアンス)は、複数の企業が共同で事業を行なうことです。各当事者が資金、技術、人材等の経営資源を提供し合って、既存事業の拡大や新規事業の立ち上げを目指します。双方の目指すゴールが同じであり、それぞれが役割分担できていればよいのですが、双方の思いにズレが生じたり、途中で状況が変わってしまい、トラブルになることもよくあります。

最近では、大企業とベンチャー企業が提携するケースも増えているようですが、ボタンの掛け違えによるトラブルが日常茶飯事のようです。

松田修一、早稲田大学名誉教授は、次のようにコメントしています。

“日本においてベンチャー企業の成功事例が少ない要因の1つに、大企業等の事業会社とベンチャー企業との連携が不足している実態があります。特に、リスクが高く、ビジネスが軌道に乗るまでに時間がかかる研究開発型ベンチャー企業と事業会社との連携は圧倒的に不足している状況です。”

原典)
経産省ベンチャー・大企業連携手引書の中身 (東洋経済オンライン 2017/5/24)
http://toyokeizai.net/articles/-/172868

大企業にとっても、ベンチャー企業との提携は、イノベーションを実現するために重要です。そのため、双方に価値あるWin-Winの提携関係が望まれています。

今回は、ビジネス交渉の戦略として、企業提携をテーマとして、提携交渉でよくあるトラブル事例と対応策の例をご紹介します。

企業提携には、次のような形態があります。

①技術提携、②生産提携、③資本提携、④販売提携など

これらは、いずれも、それぞれの経営資源を活用して、共通の目標に対して、価値とリスクを共有し、役割分担を行なう企業提携の形態です。このような企業間の提携には、次のような3段階のレベルがあります。

条件や範囲を限定して、一時的に組む提携関係をSpot Partner(一時的提携)と呼びます。次に、条件や範囲を広げ、安定的に組む提携関係をStable Partner(安定的提携)と呼びます。

そして、中長期的に組み、協働して価値を創造する提携関係をStrategic Partner(戦略的提携)と呼びます。

私が以前、メーカーで担当していた部品・デバイスの事業分野では、完成品メーカーと部品・デバイスメーカーが、カタログレベルの技術仕様に基づき、自社の製品の設計や仕様とマッチングを評価し、QDCS(Quality:品質、Delivery:納期、Cost:価格、Service:
サービス)の条件が合致して部品・デバイスの採用が合意された場合が、Sport Partnerになります。

一方、特定の製品を複数年の契約で安定的に取引したり、双方が協議して合意した技術仕様を組み込んだ製品の採用が合意される場合が、Stable Partnerになります。この段階は、Spot Partnerより一歩踏み込んだ提携関係です。

次のStrategic Partnerは、更に、お互いに一歩踏み込んだ提携関係になります。例えば、お互いの先端技術を共有し、新しい技術や製品を生み出すため共同研究開発や人、物、金等の経営資源を注ぎ込んで、協働で合弁会社のような事業会社を設立するレベルの提携関係になります。

航空業界では、航空機メーカーと部品メーカーとの戦略的提携をRRSP(Risk and Revenue Sharing Partner)と呼びます。リスクと収入をシェア―する関係という定義は、戦略的提携の本質を言い得ています。

提携関係の段階が上がると共に、双方の関係が強くなり、成功した時の価値が高くなります。一方、その反面、トラブルが発生したり、双方の認識にズレがあった場合のリスクも高くなります。

このような提携関係を目指した交渉で、よくあるトラブル事例をご紹介します。

<Case:お互いの目指すゴールが異なっていたことがわからなかった!>

日本A社と海外B社は、継続的な提携関係を目指して交渉を始めていました。両社はスポ
ット取引の関係はありましたが、継続的な提携関係を目指す交渉は初めてでした。お互い
に交渉者が、“Win-Winの関係を目指して”と言いながら条件を交渉し、スムーズに交渉
が進んでいました。ところが、具体的に提携契約書の条件になって初めて、両社が目指す
ゴールに大きなズレが生じていることがわかり、交渉が頓挫してしまいました。

A社は、スポット取引から、複数年の継続な取引関係に移行することを希望していました。
一方、B社は、合弁事業が可能な提携候補を探しており、A社がその第1候補でした。

A社は、安定的提携をゴールと考えていましたが、B社は、戦略的提携をゴールと考えて
いました。お互いに、Win-Winの関係を目指してアプローチしたのですが、具体的な条件
に落とさず、抽象的なイメージだけで交渉を進めたため、提携契約書の条文を詰める段階
になって初めて、お互いの認識に大きなズレがあることに気がついたのです。

事後にわかったことですが、A社は、海外企業との合弁事業のような戦略的提携の経験が
なく、その事を不安に思っていました。そのため、一定期間の安定的提携の実績を積んで
から、その結果を検証したうえで、次の段階に入るか否かを選択したいと考えていました。

一方、B社は、既に、別の日本企業とすでに戦略的提携を目指して安定的提携の段階でし
たが、その企業が経営環境の悪化から、戦略的提携に移行する方針を変え、その代わりと
して、戦略的提携を確約してくれる相手と契約したいと考えていました。

結局、この事例では、双方の合意点が見出せず、提携交渉は決裂しました。

戦略的提携を目指すことが正解でも不正解でもなく、Win-Win関係のゴールでもありません。しかし、お互いが目指すゴールが同じでないことは大きな問題です。この事例は、お互いの目指すゴールが異なることがわからず、それを乗り越えるオプションを見出せなかったことが原因の交渉決裂でした。他にも、交渉の途中で、強力なライバルが現れる、トップの方針が変わる等、状況が急激に変化することによる交渉決裂もよくあります。

このような提携交渉のトラブルを軽減し、双方に価値あるWin-Winに成り得る交渉を進めるためには、どうすれが良いのでしょうか。

交渉前から交渉中のプロセスにおいて、有効な方法の一例をご紹介します。

① 交渉前に、十分調査し、仮説を立てる

“交渉は準備8割!”と言われるほど、事前の準備が重要です。相手の会社は勿論、相手の交渉者や過去の提携事例などを事前に十分に調査し、相手の会社が、提携で何を目指しているのか、どのレベルの提携を選択したいのか、なぜ我社なのかなどの問いに仮説を立てて、複数のオプションを準備しておく必要があります。

交渉準備の方法論として、研究されたフレームワークがあります。次回は、その方法論を詳しくご紹介します。

② 交渉中に、相手のコンテキスをできるだけ引出す

しかし、如何に十分な準備をしたとしても、想定外の事態は起こり得ます。そのため、交渉中に、相手の隠された「コンテキスト」を引出すことが重要です。交渉中に表現される発言や情報の内容をコンテンツと呼びます。一方、背景、前後関係、文脈などを「コンテキスト」と呼びます。「コンテキスト」はコンテンツと異なり、交渉中に表現されにくいという特徴があります。

しかし、相手の「コンテキスト」を知ることは非常に重要であり、適切な質問やこちらの条件提示に対する相手の反応や表情から引き出すことができます。また、相手が上級の交渉者であれば、意図的に自分達の「コンテキスト」を提示して共有し、こちらの「コンテキスト」を引出すアプローチをしてくることもあります。

「コンテキスト」を引出すことにより、事前の仮説ではわからなかった相手の背景にある“様々ななぜ”を理解でき、次の展開に繋がる交渉ができるのです。

③ 交渉中の相手の急な変化に、冷静に対応する

交渉中に、交渉相手が最初に提示した条件を急に変えたり、思いも寄らない無理難題を出してくること十分あり得ます。その場合は、感情的に反応したり、そのまま流さず、意図的に「ブレイク」を取る方法が有効です。「ブレイク」を取ることにより、自分達も冷静になれますが、その間、相手も冷静になれるのです。仮に、相手も思わず感情的に強く発言し過ぎたとしても、その場で自分から訂正するのは難しいことですが、適切な「ブレイク」を取れば、リカバリーできる可能性があります。

交渉中は冷静であることが重要であり、自分も相手も冷静にするためには、意図的な「ブレイク」は有効な方法の一つです。

今回ご紹介した方法を、お互いに価値ある提携関係を実現するための交渉に活用してください。

<本事例のポイント>

企業提携(アライアンス)は、事業戦略として重要である。その提携のパターンには、Spot Partner(一時的提携)とStable Partner(安定的提携)とStrategic Partner(戦略的提携)の3段階がある。それぞれに特徴があり、その特徴と相手との関係をよく理解して交渉に臨むことが重要である。

“交渉は準備8割!”と言われるほど、事前の準備が重要である。相手の会社は勿論、相手の交渉者や過去の事例など、十分に調査する必要がある。特に、相手の会社が、提携で何を目指しているのか、どのレベルの提携を選択したいのか、なぜ我社なのかなどの問いに仮説を立てて準備することが重要である。

交渉中には、相手の「コンテキスト」を引出すことが重要である。「コンテキスト」は、背景、前後関係、文脈などの意味だが、交渉中に表現されにくいという特徴がある。しかし、適切な質問などにより、引き出すことは可能であり、相手の「コンテキスト」を知ることは重要である。

交渉が頓挫したり、交渉中に相手が急に変化することはよくある。その場合は、感情的に反応したり、そのまま流さず、意図的に「ブレイク」を取る方法が有効である。「ブレイク」により、自分も相手も冷静になれるからである。

一色 正彦

<執筆担当>
全体監修、交渉学関連
<交渉学との関わり>
欧州で海外企業との技術提携交渉に苦労している時に、英国人より交渉戦略のアドバイスを受け、交渉学の存在を知る。その後、国内外のビジネス交渉に活用すると共に、東京大学(先端科学技術研究センター)と慶應義塾大学(グローバルセキュリティ研究所)の研究に参加し、その成果を用いて、交渉学の研究と学生・社会人に対する教育と人材育成を行なっている。

<アカデミック・バッグラウンド>
大阪外国語大学(現大阪大学)外国語学部卒、東京大学先端科学技術研究センター先端知財人材次世代指導者育成プログラム修了
<ビジネス・バックグラウンド>
パナソニック(株)海外事業部門(主任)、法務部門(課長)、教育事業部門(部長)を経て独立。大学で教育・研究を行なうと共に、企業へのアドバイス(提携、知財、交渉戦略、人材育成)とベンチャー企業の育成・支援を行なっている。金沢工業大学(K.I.T.)大学院客員教授(イノベーションマネジメント研究科)、東京大学大学院非常勤講師(工学系研究科)、慶應義塾大学大学院非常勤講師(ビジネススクール)、関西大学外部評価委員会委員(大学教育再生加速プログラム)、(株)LeapOne取締役(共同創設者)、合同会社IT教育研究所役員(共同創設者)

主な著書:「法務・知財パーソンのための契約交渉のセオリー」(共著、レクシスネキシス・ジャパン)、「ビジュアル解説交渉学入門」、「日経文庫 知財マネジメント入門」(共著、日本経済新聞出版社)、「MOTテキスト・シリーズ 知的財産と技術経営」(共著、丸善)、「新・特許戦略ハンドブック」(共著、商事法務)など。