組織にとって「叱る」の意味は?

A3fb5248 4759 4133 9762 5eba5fa63865 camera_alt Flamingo Images/Shutterstock.com

 昨年はスポーツ業界で、パワハラの暴露を目にすることが多かった。昔は熱血指導という名の暴力が横行していたが、時代とともに許されなくなった。暴力やパワハラは許されるものではない。ビジネスの世界でも、同じである。
 そういう環境に対するオーバーリアクションなのか、バイオレンスなレベルではなくとも、とにかく今の上司は叱らない、という印象がある。ちなみに、今でも昭和レベルで上司が叱っている業界も存在する。映画やドラマなどの撮影現場がそれである。もっとも、トップである監督が叱ることはない。アシスタントのチーフに該当するポジションが、怒鳴っている。
 上司が部下に叱れない環境が所与なら、ポイントは叱り方になる。叱り方は難しい。
 ただし、次のような部下に対する叱り方は難しくない。厳しく叱らなければ本人のためにならない:①平気で嘘をつく、②恒常的に時間を守れない、③頑張っている人の足を引っ張る。
 まずは、ダメな叱り方を列挙する。ダメという意味合いには、「組織上ダメ」という意味と、「有能な人材をリテンションする上でダメ」という2つの意味がある。

ダメな叱り方

(1)情報格差に依拠して否定する

 組織内でポジションが上がれば自然に、多様で大量な情報が上がってくる。その情報格差をベースに、上司が部下を否定して、結果として叱るというのは、相当性質が悪い。上司の主張をひっくり返すことが難しいからである。上司もそれを分かって、部下に対して叱責していることがほとんどである。それは、上司のスキル不足であるし、そんなことを続けていては、議論する文化は全く失われる。上意下達を強制しているようなものである。
 サブタイプとして、情報格差を常に保持するために、情報開示(回付)をしてないように見える部下を「抱え込む癖があるよね」と叱るパターンもある。
 主に、「有能な人材をリテンションする上でダメ」である。

(2)経験に依拠して否定する

 これは古典芸能に近いが、自分の経験で判断して、部下を否定して、結果として叱るパターンも組織は白けさせる。今時、そんな上司いるのか・・・と思うかもしれないが、生存している。例えばシステム開発会社では、年齢のためエンジニアは難しいというベテランが、QAの管理をしていたりする。そういうベテランは、自分の過去の経験でしか判断しない。会社は処遇に困って配置しているわけで、おとなしくしていればいいのに、本人は元気百倍であるから、現場のエンジニアにとっては迷惑な話である。
 主に「組織上ダメ」である。

(3)オリジナリティを否定する

 オリジナリティ不要の場面でオリジナリティを発揮することは、迷惑以外の何物でもない。勘違いした部下(多くの場合は、若い部下)が方向違いのオリジナリティを発揮してしまうことも、確かにある。しかしオリジナリティが必要な場面は、日本企業でも、昔に比べれば多くなっている。ケースによっては、クライアントのために、オリジナリティを発揮すべき時もある。
 それでも、上司がリスクを嫌って、「これは、何も考えず、フォーマットに従って粛々と作業を進めれば良い」あるいは「収支と勤務時間を枠に収めることが第一」という指示を出し続けるのであれば、オリジナリティに溢れる人材は、(民間企業から官庁への出向等も含めて)他の職場に機会を探すだろう。
 さらに言うと、上司がオリジナリティを発揮することができないが故に、部下のオリジナリティを否定するのであれば、人材育成という意味でも、問題が大きい。
 「組織上ダメ」であり、「有能な人材をリテンションする上でダメ」である。

(4)強みを否定する

 今の職場は昔に比べて競争が激しいから、組織内での生き残り・勝ち残りには、独自のポジションを構築することが有用である。スピーディーとか、細かいところまでチェックが行き届くとか、フットワークが軽いとか。芸能界におけるキャラ争奪のように、ポジション争いが熾烈である。
 それを分かっていて-つまり、上司が部下を抑圧する目的で-ポジションを脅かすような叱り方をするのは、望ましくない。「そんなに急がなくても良かったのに・・・」あるいは「そんなに急ぐような案件じゃないんだよね・・・」、「そんなに時間かけてどうするの? これはざっとでいいんだよ」等々。部下からすると、先に言ってくれという話である。
 場合によっては(クライアント目線からは)、部下の行動が正しいこともある。そうなると、シコリは相当残る。
 主に、「組織上ダメ」である。

(5)会社(ファーム)の方針

 最近は、ドラマでもよく出てくるワードである。これは仕方ないのでは?と思う方も多いだろう。それは一理ある。問題は、本当にそうか、という点である。忖度好きの日本型組織で、その一言は強力だし、思考停止させるには十分なワードである。組織が思考停止すると、財務部門でも製造部門でも検査部門でも、不正をしても不感症になってしまう。有無を言わさない形で叱るというのは、かなり危険だし、良い上司とは言えない。
 主に「組織上ダメ」である。

(6)実は、トラウマなんだよ

 北風と太陽で言うと、太陽パターンであるが、抑え込む力は強い。泣き落としに近いし、承服しないことが難しい。「実は、昔・・・という失敗をして大変だったんだ。それがトラウマで、・・・は・・・することに決まっているんだ。」手の込んだパターンだと、少年時代にまで遡ってトラウマを開陳する人間もいる(これは、例外とまでは言えないパターンである)。
 もちろん上司は、トラウマを持ち出すと承服しないことが難しいということを分かって使っている。言うことを聞かなさそうな部下(ほとんどの場合、若い部下)に対して、こういうテクニカルな叱り方をするのは、上司に対する信頼感を棄損させる行為であることを、上司は自覚した方が良い。
 主に、「有能な人材をリテンションする上でダメ」である。

では、どう叱るか

 そもそも、叱るという行為は「行動を修正」である。組織において、上司が部下の行動を修正するために行う行為である。否定するのではなく、複数の選択肢を提示するというのが基本である。
 経験に裏打ちされた引き出しの多さが上司の持ち味のはずである。豊富な情報量や経験は、否定に使うのではなく、多くの選択肢を提示することに使えばよい。本来、それが上司に要求されている仕事であろう。
 否定が全くダメなわけではないが、「明石家さんま」スタイルであり、ハードルはかなり高い。もし、否定から入るのであれば、誰もが納得するくらいのオプションを一発提示することが必要になるからだ。
 また、叱るという行為が行動修正を超えて否定になれば、思考停止を誘発し、組織に重大なダメージを与えることになる。従って、否定から入るスタイルを採用するならば、組織を思考停止状態にさせないことにも留意しなければならない。そのためには、常日頃から部下の長所を引き出すような行動を採っている必要がある。

まとめ

 経営はシンプルであるが難しい。叱り方も同じで、基本はシンプルであるが、実行は難しい。抑え込むために叱るというのがワーストシナリオである。ベストシナリオは、複数の選択肢を示した上で、望ましい方向に誘導することである。
 若手時代に、当時の上司から経験することがなかったであろう叱り方を、今の上司世代に要求するのは酷であるが、それを理由の部下を叱れない、というのであれば、上司・部下のどちらにとっても不幸であろう。

 円滑な組織運営の一助になれば、幸いである。

南青山リーダーズ株式会社 編集部

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