連載:IPO市場の健全な拡大に向けて (17) アプリケーション開発の注意点

9f1b84a0 3658 4755 a78a 11318ccd9c32 camera_alt Sergey Nivens/Shutterstock.com

 アプリケーション開発に関する注意点として、5つのトピックスを議論したい。(作成:南青山FAS株式会社)

【1】一度こけたアプリは、しばらく追わない

 技術系ベンチャーの場合、アプリケーションの開発に際して、事業性調査が不十分であることが往々にしてある。予備的なヒアリングを行った段階では、顧客(候補)の評価がまずまずでも、具体的に詰めていくと、途端にボロが出てくることがある。マーケットが極端に小さい、現場のニーズとズレている、(実は)スタンダードの外国製品が存在している、と理由は色々であるが、その場合、当該アプリケーションは、ボツになる。
 ところがボツになったはずのアプリケーションが突然、似たようなところで、新しいアプリケーションとして復活することがある。技術を商品に応用するコンセプトが同じというパターンであるが、このようなゾンビ・アプリケーションには、注意が必要である。
 技術者(スタートアップ期の技術系ベンチャーでは、経営にも携わっている)は、こだわりがあるからか、あるいはコンセプトの使いまわしが出来る分、楽という判断があるのか、ボツになったアプリケーションの近い領域でリベンジを果たそうとする傾向がある。
 正確な理由はわからないが、とにかくゾンビが浮上してくると、飛びついてしまう傾向は確かに見受けられる。こういう場面では、事業性評価が一層甘くなる。不思議なことに(面白いことに)、ゾンビに飛びつく傾向は“優秀”な研究者の方が、むしろ強い。
 投資家・ベンチャーキャピタルという立場からすると、この悪い流れ(payしないことにリソースをつぎ込む)は断ち切らなければならない。ゾンビは、無視するという方針を徹底することが望ましい。

【2】マネタイズできる技術が豊富であることに浮かれない

 マネタイズ可能と見込まれる(筋の良い)技術をいくつも保有していると自己認識している技術系ベンチャーを考えてみよう。キャッシュフローの源泉となる技術を、数多く保有していることは、素晴らしいことである。
 しかし、リソースに限りがあるベンチャーの場合、全てを平行して、マネタイズすることなどできない。まずは、ある技術要素を取り上げ、リソースを集中投下して、アプリケーション開発を行うことになる。
 初端からアプリケーション開発がうまく行けば良いが、失敗することも多い。そういうとき、気弱になって当該技術を捨て、別の技術に移ろうと迷うことがある。これも注意が必要である。
 最初の技術は成功しないが、次の技術では成功する、と第三者が信じるに足る理由があればよいが、そういった理由はほぼない。単に移動しただけである。こういう起業家は信用しないほうが良い。
 ある程度の執念を持って、事業開発をやらないと、いつになっても、キャッシュは発生しない。また、本当に真剣にビジネスをやっていないと、正確に問題を認識することができないから、当然次の機会に失敗が活かされない。乾坤一擲、やるときは、一心不乱にやらなければならない。
 ベンチャーキャピタルは、そう助言するとともに、精神面での相談にも応じる(メンターになる)ことが望ましい。

【3】スケールアップから逃げない

 モノづくり系ベンチャーであれば、”アプリケーション開発”における大きな山場は、量産化(スケールアップ)である。
 量産化段階の製品は、「実用レベルのサイズ、現実的な使用期間、実際の使用環境下」で、要求される性能を発揮し、顧客のニーズを満たさなければならない。さらに、「コストの許容範囲内で量産化プロセスが確立」できなければビジネスとはならない。
 技術系かつモノづくり系ベンチャーの経営者や研究者は、研究開発タイプであることが少なくない(多い)ため、製造や量産化といったテーマに関しては、意外に疎い場合がある。製造を伴うビジネスの旨味は、量産化でコストを下げて、そこで利益を稼ぐことにあるが、同じ技術で、いくつかのアプリケーションを開発するベンチャーの場合は、量産化プロセスの設計が標準化できると、さらに旨味がでてくる。
 多くの場合、量産化プロセスの設計は、製造パートナーの仕事となるが、だからと言って、ベンチャー側が"我関せず"では、うまくいかない。製造パートナーにとっては、数ある仕事の内の一つに過ぎないから、多少の遅れは、許容できる。他方、毎月の資金繰りに汲々としているベンチャーには、大問題である。したがって、一緒に、プロセス設計を行うべきである。その設計ノウハウがあれば、これがまた、ベンチャーの知的財産になるのである。
 設計ノウハウを蓄積し、それが転用できるアプリケーションを展開していくのが理想である。

【4】公的研究機関からの事業提携話に浮かれない

 研究開発型技術系ベンチャーは、展示会などに自社の技術を適用した製品(プロトタイプ)を出展することで、顧客の開拓(アプリケーションの探索)をすることがある。数打てば当たる方式で、何人かは興味を持ってくれる。彼等あるいは彼女等は、ファイナンシャル・サイドの人間(ベンチャーキャピタル、証券会社、銀行員など)であったり、企業の研究者、あるいは、たまさか展示会を訪れていた公的研究機関(典型的には、独立行政法人○○研究所)の研究者だったりする。
 公的研究機関の研究者は、プロパーであることもあるが、民間企業からの出向者であることもある。その場合は、国の予算を使って、○○研究所を中心(世話人)として民間企業から研究者が集まって何らかの研究が行われるのであり、その研究成果は各企業に持ち帰って事業化できる、というのが一般的パターンである。
 さて、公的研究機関での研究成果の事業化を考えるにおいている研究者が、ベンチャーの技術に興味を持った場合、ベンチャーは諸手を上げて喜んで良いのだろうか? 私見にはなるが、このような場合、ビジネスとなることは少ないと考えている。
 知財の扱いは、(重要であるが)ひとまず、置いておくとして、純粋にビジネスの観点から考えよう。まず、確認しなければならないことは、民間企業が、どういう考えで、研究所に研究者を派遣したのか、ということである。もしお付き合い(監督官庁の顔を立てる)、あるいは、研究者のルーティン的な研修という感覚で派遣させたのであれば、事業化にまで至るのは、難しいだろう。
 一方、派遣された研究者には、これまで事業開発の(成功)経験があり、今回の派遣が、新しい事業を開発する(ための研究)という明確な意識及び企業の期待の下で行われているのであれば、第一段階は通過させてもよいであろう。
 それに加えて、該企業が、新しい技術による新事業の開発に熱心な企業であり、経営者がその活動にコミットしているのか、ということも確認しておく必要がある。
 例えば、該企業の研究所が乗り気でも、事業開発を行うであろう事業部や営業部が、「研究所の道楽には付き合えない」となると、最終的な製品にまでは到達しない。経営陣(技術担当役員)のコミットが確認できればよいが、最低限、事業化・商業化を推進する担当マネジャーを特定して、真剣さを確認できない限り、あまり真剣に付き合うと、時間とコストの浪費に繋がる。
 それは、各種リソースに乏しいベンチャーにとって致命的なことである。上記は、「公的研究機関に民間企業の研究者が派遣されて、そこで得られた技術シーズを元に事業化を進める」というシナリオに限定されないが、同シナリオでは、往々にして、民間企業側の事業化への執着が、希薄な場合があるので注意を要する。

【5】タイミングを外さない

 ベンチャーの保有している技術が適用できるアプリケーション(製品)に、実需(顧客ニーズ)があればあるほど、大企業も既に、顧客ニーズを満たすべくアクションを起こしている。当然ながら、基本設計が済んで、量産化プロセスの設計を検討し始めた段階で、ベンチャーが技術を持ち込んでも、大企業が興味を示してくれる可能性は、まずない。
 例え、優れたパフォーマンスを示す可能性があっても、変更に要する時間とコストを考えると、切り替えるという判断はなされない。このように、タイミングの問題は実に大きい。

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