連載:IPO市場の健全な拡大に向けて (15) スクリーニングにおける心の中の思考プロセス

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 前回は医薬品とソフトウェアという産業セクターに対して、スクリーニング基準を当てはめ検証した。今回は、実際の企業に当てはめて検証する。ただし、ベンチャー企業の説明について本質的な部分に係わらないところは、守秘義務上、変更を加えている。
 投資可である案件は、ほとんどの場合、どのようなフレームワークで検討しても投資可能と判断される。このため、ここでは、ベンチャーキャピタル(分散投資、ハンズオフ、スクリーニングコストをかけない、一般のベンチャーキャピタル)からの投資は受けているが、作成者から見て投資不可の案件を取り上げ、これまで議論してきたスクリーニング基準でどのように判断されるのかを示す。
 さらに、どのような条件が整えば、成功確率(将来利益をもたらす確率)が高まると判断できるのか、についてもコメントを付け加えた。(作成:南青山FAS株式会社)

測定装置の開発を行っているベンチャーA社

◇概要 ◇

 A社は、ある測定装置(測定装置のコアパーツ)の開発を行っている、研究開発型のベンチャー企業である。創業者は、大企業で測定装置の研究に携わっていた研究者である。
 その時点でのA社の主要業務というのは、いわゆるコンサルティング業務であった。A社の技術水準の高さを聞きつけた企業が相談に訪れ、その企業に対して、解決策を提供することで日々のキャッシュを稼いでいた。
 既存顧客へのヒアリングで、A社の技術水準が極めて優れていることは確かめられた。ヒアリングの内容は、次のようなものであった:

『ある企業が、ある問題に対する解決策を提案して欲しいと複数の企業に依頼した。コンペが行われ、解決策の優劣を決めたが、A社の提案は極めて斬新なものであった。それは、数年後に学会で発表されたが、その時点でさえ、"こんな手があったのか"という驚きの声が上がった程である。』

 A社の提案した内容というのは、大企業の解決したい課題―誤差を最小にして測定する―に対して、対象物を直接測定するのではなく、間接的な測定=測定対象の性質を別の性質に置き換えて、それを測定する=というものであった。この話からも”技術水準及びソリューション提供能力が高い”ということは、よく理解できた。
 A社は、コンサルティングだけでは、大きな売上を見込めないし、経営が不安定であることから、自社の技術・ノウハウを集結させた測定装置(コアパーツ)を、自ら製造することで、事業の拡大を図ったのである。さらに、A社の扱う技術は、日々進歩するというより、あるタイミングで、次の世代にジャンプするという性質のものであり、A社は今が、次の世代への移行期であると考えていた。
 なお、最終製品に仕上げるには、A社のパーツに加えて、いくつかの周辺装置、制御ソフトウェアや解析ソフトウェアなどが、必要であった。
販売のパートナーは、既に決まっていて、同パートナーが、最終製品を作り上げるために必要な他パーツ・ソフトウェアを製造できるプレイヤーを探してくることになっていた。

◇ 標準的なベンチャーキャピタルの見方 ◇

 ベンチャーキャピタル(複数)は、

   ① 技術の高さ
   ② 現在の市場は大きくないが潜在的には大きな市場が期待されており、A社の技術が市場に導入されると市場拡大が見込まれる
   ③ 技術レベルの高さから、高い市場シェアを獲得する可能性がある
   ④ 販売パートナーが確保されている

という理由から、A社に投資を行なっていた。
 なお、このベンチャーは、誰もが知っている某シンクタンクの事業性評価を受けており、この評価を根拠に投資を決定した(金融系)ベンチャーキャピタルも存在した。しかし、このシンクタンクの評価は、大雑把に言うと「技術力が高い」こと、及び「販売パートナーが存在する」こと、にのみ注目していて、"どういうアプリケーションを開発すべきか"、"顧客のニーズはどこにあるのか?"といった事項には、全く触れていなかった。この程度の評価では、ハイテクベンチャーの評価とは言えないし、ハイテクベンチャーの支援はできない。

◇ 評価 ◇

(1) 実需度 ★

(2) 貢献度 ★★

(3) 到達度 ★

◇ 投資判断 ◇

 サマリー的に言うと、実需度が低かった。
 市場が求めている商品(装置)は、A社がアピールしたかった測定精度に優れた装置よりも、大量のトランザクションを高速に処理できる機能を持った装置であった。少なくとも、高速処理できる装置を、先に市場投入すべきであった。そのこと自体は、A社の高い技術力をもってすれば、全く問題がなかった。
 さらに、操作性の問題があった。操作性の評判が悪いことはA社も認識していたが、開発・商品化における優先順位は低かった。A社が競合する装置の購入を検討していた技術者に、A社の話をすると、興味は持つ。ところが、「使い勝手があまりよくないです」と言うと、即座に興味を失ってしまった。
 A社創業者は、精度を落とすことに関しては、特に強く抵抗した。それでは、ベンチャーをやっている意味がない、当社は、世界最高にこだわるのだと。自分の意図するところの、現在のビジネスプランで、十分とは言えないまでも、それなりに資金が集まっているのに、投資もしていない(例え投資をしても、マイナー出資に過ぎない株主の)ベンチャーキャピタルからの小言に耳を貸す経営者は、まずいない。そういう意味では、一部のベンチャーキャピタルが、ベンチャーの大きな将来性を潰しているという見方も可能であろう。

◇A社の成功確率をアップするには何をすれば良かったか ◇

 A社の成功確率がアップさせる条件は、まず顧客ニーズに応えること。つまり、大量のトランザクションを処理することが可能で、使い勝手の良い装置の開発に経営者がコミットすることであった。そのコミットがあれば、コストも顧客の要求水準に抑えられるであろうし、周辺装置の遅れといったリスクは、十分カバーできると考えられる。

電子機器のパーツを製造しているベンチャーB社

◇ 背景 ◇

 あるパーツの製造を行うベンチャー企業。実験室レベルでの、製造は完了していたが、量産化レベルでの製造にはいくつかの問題が残っていた。事業構造としては、B社のパーツ(製品)が使われる中間製品があって、さらにその中間製品を使用する最終製品(群)が存在する。この中間製品は、エレクトロニクス分野で様々に用いられるものであった。その意味で、アプリケーションは、数多く存在した(悪く言えば、器用貧乏)。
 大企業の研究者(理学博士)が、より良い製品を作るために独立して起業した。B社製品が使われる最終製品「市場」(複数)への期待と、B社の技術の高さを評価して、それまで数回の資金調達が実行されており、株価はかなりの水準に達していた。
 技術的には、非常に優れていた。創業者が新しい製造方法・技術(特許取得済)を考案しており、同技術で製造されたパーツを用いると、中間製品及び最終製品ともに、従来品よりも小型化することが可能であった。また、創業者は、長年、該当する技術の研究を行ってきているため、各種ノウハウを保有していると考えられた。これがB社の強み(拠り所)となっていた。
 B社が製造するパーツのメーカーは数社存在する。創業者が、以前在籍していた大企業も製造していた。中間製品の製造業者も多数存在する。複数ある最終製品(群)の販売好調を受けて、中間製品も好調であり、B社製品の販売環境は良好であった。この状況は、しばらく続くと見込まれていた。
 販売パートナーも決定していた(B社から独占的な販売権を獲得していた)。このパートナーは、B社の製造するパーツと同じ種類の製品を製造しているが、特性(得意分野)が異なり、パートナーは商品ラインアップの拡充のため、販売パートナーとなった。同パートナーの市場におけるポジションは強力で、国内外で多くの顧客を抱えていた。
 同パートナーはメーカーでもあるため、B社製品のスペックを評価する能力を持っていた。パートナーのテストをパスすれば、販売はすぐにでも開始されるという状況にあった。

◇ 標準的なベンチャーキャピタルの見方 ◇

B社に投資したベンチャーキャピタルは、

   ① 「市場」への期待(複数の最終製品は、どれも市場規模が大きい)
   ② 技術水準の高さ並びに創業者のノウハウを評価
   ③ しっかりした販売パートナーの存在

を評価して投資していた。

◇ 評価 ◇

(1) 実需度 ★★

(2) 貢献度 ★

(3) 到達度 ★

◇ 投資判断 ◇

 サマリー的に言うと、実需度は低くない。しかし到達度に問題があった。貢献度は高くない、という結果であった。
 (B社がおこなった)パートナーの選択には問題があった。量産化の問題を、製造パートナーと解決すべきで、販売パートナーを見つけることは、時期尚早であった。
 事業戦略的には、もっと早い段階で、ユーザー(中間製品のメーカー)と共同開発を進めるべきであった。販売パートナーは、B社製品の品質を評価することはできるが、最終製品メーカーのニーズを汲んで中間製品をつくることはできないから、B社は販売パートナーに全て頼るよりも、ユーザーと直接ビジネスを行えば良かったと考えられる。
 商売はパートナーに任せて、その間B社は研究室レベルで、いろんなアプリケーションへの適用を可能にするため、あれこれと製品をいじっていた。これは、技術系の企業で散見される悪しきパターンである。アプリケーションも多数あるため、コア製品が絞りこめず、販売パートナーと分業体制をしいたが、これが車の両輪(つまり、研究開発と販売)としてうまく機能しなかったと結論づけられる。

◇B社の成功確率をアップするには何をすれば良かったか ◇

 分業体制を敷くよりも、一つのアプリケーションを決め、パートナー(顧客)と共に、大量生産まで視野に入れた共同開発に注力すべきであった。B社が特定のアプリケーションを、パートナー企業と共同で開発し、その状況を把握しつつ事業を組み立てていくというアプローチを採用すべきであった。

製造装置の開発を行っているベンチャーC社

◇ 背景 ◇

 将来大きな市場に成長すると期待される製品Xを製造する装置Yのコアとなる技術をもつ企業で、大企業の技術者が独立して起業した。技術水準は高く、コア技術に関連する特許も数多く保有している。技術コンサルティングで日々の糧を得ていたが、C社が保有する、コア技術に関連するある技術は、市場規模が大きな製品への応用 (製造装置Yへのコア技術供与) が可能であることから、当該分野に大きく経営資源を振り分けることにした。
 当初は、既存プレイヤーである製造装置Yのメーカー(複数)に、技術をライセンスしようと考えたが、うまくいかなかった。C社の言い分では、既存の装置メーカーは、自社技術にこだわっており、強い興味を示さないのであった。
 一方、(C社の言い分では)製品Xのメーカーは、Xの性能を向上させるためには、C社技術が有用である可能性が高いと考えており、C社技術に対して、強い興味を持っていた。このためC社は、自社技術を世に出すため(マネタイズするため)、製造装置Yを自社で作ろうと考えた。
 C社単独では、製造装置Yの開発はできないので、ベンチャーキャピタルが、製造担当企業P、販売担当企業Qなどを見つけてきた。P社は、幅広い製造技術を有する企業であり、製造装置Yを作った実績はないが、装置Yの製造に必要な要素技術と類似の技術を使用する、製造装置Zを作った実績はあった。またQ社には、装置Zの販売実績があった。

◇ 標準的なベンチャーキャピタルの見方 ◇

 市場調査によると、最終製品Xの需要が今後急速に成長することが予想されていたため、製造装置Yの需要も、今後急速に立ち上がると予想されていた。また、C社の技術(特許取得済)は明らかな優位性があると考えられた。また製造及び販売パートナーが存在していたこともあって、投資が行われていた。

◇ 評価 ◇

(1) 実需度 ★

(2) 貢献度 ★★

(3) 到達度 ★

◇ 投資判断 ◇

 サマリー的に言えば、実需度が低かった。またパートナーのポジション(業界での存在感)にも問題があった。既存の装置Yのメーカーと組めなかった時点で、戦いは厳しいものとなった。
 この案件に特有な点として、投資判断をする上で、exitの設計は重要なポイントであった。具体的に言うと、C社はexitとしてM&Aを想定すべきであった。本当に(他の技術要素はそのままで)C社の技術を使うだけで、製品Xの性能が向上するのであれば、装置Yのメーカーにとって、C社技術は垂涎である。装置Yのメーカーの技術評価の結果が良好であれば、M&Aという結末になると考えるのが合理的であろう。既存の装置Yのメーカーを市場からほぼ駆逐できるなら話は別であるが、そうでなければIPOというexitはフィットしない。
 M&Aというexitを指向するとして、装置Yのメーカーと直接交渉することが戦略的に好ましくない場合は、一階層飛び越えて製品Xのメーカーに話を持ち込むというアプローチも考えられる。装置Yのメーカーに買収されるのではなく、製品Xのメーカーに買収というパターンである。

◇C社の成功確率をアップするには何をすれば良かったか ◇

 ExitとしてM&Aを想定すること。M&Aというexitを想定するとは、積極的に特定の色を付ける、ということである。経営者としては、胆力が要求される。
 合わせて、C社がパートナー(業界のメジャープレイヤーであることが望ましい)、と共同開発契約を結び、そのパートナーから高い評価を受けることをマイルストーンとして業務執行することである。

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