連載:IPO市場の健全な拡大に向けて (14) スクリーニング基準のシミュレーション

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 これまで説明してきたスクリーニング基準には、かなりの一般性がある。“マーケティング”の必要性が少ないと考えられている、創薬関連技術やソフトウェアの(開発)技術にも適用できる。ただし、若干の修正を施すと、より有用である。
 なお、ここで述べているマーケティングとは、「顧客が誰かを探し出して、商品の効果・効能を納得してもらい、購買」にまで持っていく一連の行為を指している。
 医薬品とソフトウェアを対象に、スクリーニング基準を当てはめてみよう。(作成:南青山FAS株式会社)

医薬品

 念の為、創薬ベンチャーの収益について簡単に触れたい。創薬ベンチャーの場合、販売まで担当することはない。医薬品を販売するにはMRと呼ばれるマーケターが不可欠であり、彼等の努力次第で、売上が増大する。全国をカバーするには、数百人規模のMRが必要であり、販売網を新たに構築することは非効率であるからだ。
 また、極めて単純化して言うと、薬効を確かめるための臨床試験である第二相試験は、2つの部分に分かれる。その後半部分である、フェーズ2bと呼ばれる試験では、その対象となる被験者の数が多くなるため、費用が莫大になる。
 このため、創薬ベンチャーは、フェーズ2aまで、自社で治験を行い、2bの段階では、大手製薬企業に導出(ライセンスアウト)することが多い。そこで、創薬ベンチャーの収入は、導出に伴うキャッシュと、導出した薬品候補物質が、医薬品として承認・上市された暁に、売上に応じて得られるロイヤリティということになる(これらは、契約マターであり、その水準も様々であるが、一般的に言うと、医薬品開発のリスクに見合うだけの水準である)。

具体的な分析

 さて、医薬品の場合に、上の定義を普通に適用すると、実需度は、ほとんど100%になる。例えば、
  実需度:薬剤設計の段階で、特定疾患の特定の症状の改善を計画しているから、必ず実需が存在する
となるであろう。こんな薬があったら、売れるかもしれない、という開発アプローチはあり得ない。
 また貢献度については、
  貢献度:医薬品を製品化する場合、薬剤候補の化合物を医薬品として完成させる(低い副作用、高い薬理活性、優れた薬物動態等)以外
      に、障害となる要素は少ない。また、一般に利益率も高い。
となる。
 DDS(薬物伝達システム)の場合には、実需度の代わりに『作用機序の新規性・斬新性』、貢献度の代わりに『重篤な副作用がないこと』を検討することが望ましいかもしれない。到達度は、これはまさに、如何に治験をパスしていくかによる。

 以上をまとめると、
  ・ 「実需度」は、満たされている(医薬品として承認されれば、ほぼ確実な需要が存在)
  ・ 「貢献度」は、ほぼ100% (故に利益率も高い)
  ・ 「到達度」は、治験をクリアすることに他ならない
  ・ (外的商業化調査)技術の革新は、ほぼ確実に新しい市場を開拓するが、薬価はコントロールできない。
となる。
 投資判断をする立場からみると、創薬ベンチャーの場合、「到達度」つまり、臨床試験をすばやくクリアできるか、というところに、技術投資リスクは集中していると考えていい。もちろん、最終的な投資判断は、経営者の力量やパートナーとの契約関係等に依存する。
 なお、創薬ベンチャーの場合、大手製薬企業による買収というexitも少なくないため、資金回収手段は多様である。

ソフトウェア

 ソフトウェアは、一括りにするのは難しいので、まずは、機能分類してみたい。
   ① ハードウェアをコントロールするソフトウェア
   ② 人間の作業を効率化するソフトウェア
   ③ シミュレーション用ソフトウェア
   ④エンターテインメント用ソフトウェア
   ⑤その他
 ①は、端的に言うとOSということになると思う。パソコンのみならず、ネットワーク機器、携帯電話、(情報)家電、自動車及び自動車関連製品、産業用デバイス等幅広い分野で用いられている。
 ②は、個人向けの表計算ソフトや文書作成ソフト、企業向けのデータベース、CRMソフトなどが相当する。
 ③は、文字通り、構造解析、流体解析あるいは暗号解析などを可能にするソフトウェアである。
 ④(及び⑤)については、特に説明の必要はないと思う。

実需度の分析

 まず、実需度であるが、①の場合、一般的には、ハードウェアの実需度が高ければ、ソフトウェアの実需度も高くなる。ただし、両者の技術進歩のスピードやタイミングがずれると、短期的に見た場合、ハードウェアの実需度が高くても、ソフトウェアの実需度もオートマティックに高い、ということにはならない。
 また、顧客の購買を喚起する真の要因が、ハードウェアなのかソフトウェアなのかによっても、実需度は変わってくるであろう。例えば、今後、自動車の安全・安心が、搭載されるOSに依存するようになるのであれば、一般消費者が購買を決定するのにOSは大きな意味合いを持ってくるであろう。その場合、当該ソフトウェア(OS)の実需度は、極めて高くなる。ソフトウェアの優劣が、自動車の選択に大きな影響を及ぼす時代が、遠くない将来に訪れるかも知れない[実は、この原稿は元々2006年頃に書いている]。
 ②の場合、企業向けソフトウェアは、そのときの経済環境(キャッシュ・予算に余裕があるか)やトレンド(ニューエコノミーの時代!)といったものに大きく依存することは事実であろう。
 「実需」度が流行に左右されるのは奇妙であるが、日本に限らず流行に左右される部分もあると思われる。業界で導入が進むと、横並び意識もあり、一気に普及・スタンダード化するというシナリオは、しばしば観察される。もっとも、そういったケースでは、必ず反動が生じるので注意が必要であろう。
 従って、②の実需度の測定には、産業分析やトレンド分析といった大掛かりな作業が必要になるであろう。
 ③及び④の場合は、実需度の測定は、かなり困難だと思われる。③のマーケットは小さいし、④は実需という測定は難しい。
 しかし、どの場合(①~④)であっても、複数の顧客(ただし、購買の意思決定者)からの極めて良好な反応があった場合は、実需度は高いと見なすべきと思われる。常に、顧客中心の視点を忘れないことが、最も大切である。

貢献度の分析

 次に貢献度であるが、コントローラビリティという観点から見ると、①と④の場合は、厳密に言えば、主にハードウェアの技術革新スピードと市場投入のタイミングに依存する。
 ②の場合も、主にOSの技術革新スピードと市場投入のタイミングに依存する。しかし、ハードウェアにしても、OSにしても市場投入のタイミングが遅れるだけで、開発に全く失敗してしまう、という事態は想定しにくい。完成品の一部分に関わる技術をベンチャーが提供するというようなケースと比べると、状況は全く異なる。
 同じ基準でとらえるならば、「貢献度(コントローラビリティ)」は、比較的高いといえる。③のケースも貢献度は高いであろう。
 なお、収益性(貢献度)は製品を投入するタイミングと深い関係があると考えられるが、さらに競合の激しさとも関連する。性能アップの開発競争が激しい分野では、投入するタイミングが遅れると、収益性は著しく低下するであろう。
 計画通りに開発スケジュールを消化していくため(コストを予算内に納め、利益率を高めるため)には、プロジェクト・マネジメントの巧拙、プロジェクト・マネジャーの力量が大きな鍵を握る。

到達度の分析

 最後に、到達度であるが、これも人の評価に帰着する。もちろん、期日にあわせてソフトウェアを開発するために、ソフトウェアを部品化(カプセル化)して、使い回しできるようにしたり、プロジェクト管理にITを導入して開発の効率化を図ったり、という施策も行っているが、やはり人の要素が一番大きい。

まとめ

 以上まとめると、全ての場合で(実需度は除く)
 a) 「実需度」は、①では、ハードウェアの実需度に依存。②では、(経済)環境に依存。ただし、完全に一致するわけではない。③と④の実需度は測定困難。
 b) 「貢献度」は、高いが、プロジェクトマネジャーの力量に依存する。
 c) 「到達度」は、プロジェクトマネジャーの力量に依存する。
 d) (外的商業化調査)技術の革新は、必ずしも需要を喚起するとは限らない
となるだろう。
 投資判断をする者にとっては、まず実需度の測定が(容易に)できるソフトウェア(の種類)なのかを考えるべきであろう。判断できるのであれば、例えば、ハードウェアの技術革新を睨みながら、最終的な「実需度」を判定すればよいと思われる。
 実需度が計れないソフトウェアに対して、担当者のカンで投資することは好ましくない。実務的に言うと、この場合のカンとは、ソフトウェア開発者and/or社長の業界内での評判をベースにした判断である。
 また貢献度並びに到達度は、プログラマーやプロジェクトマネジャーの力量に依存するところが大きい。結論として、ソフトウェアへの投資判断は、人の判断という部分が大きすぎるように思える。
 人の判断は、技術の判断に比べても難しい。

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