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連載:IPO市場の健全な拡大に向けて (13) スクリーニング3軸の参、到達度

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「技術系ベンチャーの“技術のマネタイズ評価”を、(1) 実需度、(2) 貢献度、(3) 到達度の3軸で考えることを提案する」回の最終回は、到達度である。(作成:南青山FAS株式会社)

到達度とは

 ベンチャー企業が狙っている事業機会に、「想定顧客の実需が存在する」場合であって、さらにベンチャー企業が顧客の求めるスペックと価格を満たすことができれば(貢献度がある程度高ければ)、通常キャッシュフローは発生する。
 到達度とは、顧客のもとめるスペックと価格を、適当な時間内に達成できるか否かを表す尺度である。もちろん、生産のスケールアップが可能か、という判断もこの指標に含まれる。
 到達度が高ければ、新たな市場を開拓できる可能性が高いことになる。

スペック

 スペックというのは、具体的には、素材の強度(ビッカース硬さとかシャルピー衝撃値とか)、電気伝導度、光の透過性、測定のダイナミックレンジ等である。もちろん、チャンピオンデータで、スペックを満たすだけでは不適合である。量産化した場合でも、安定的に、スペックを満たさなければならない。もちろん、経済的に許容される程度の効率(歩留まり率)で生産できなければならない。
 以上の内容は製造業に寄り過ぎているように思えるかも知れない。しかし、実需度の回で述べた通り、投資スクリーニング3軸の適用対象は、B2BもしくはB2B2Cのベンチャーである。このため、スケールアップや歩留まり率以外の議論は、製造業以外にも当てはまる。法人向けソフトウェアや法人向けネットサービスを開発しているベンチャーを対象とすれば、スペックはセキュリティ(の高さ)やロバストネス、スケーラビリティ、メンテナンスの容易さといったことになる。
 これが、例えばB2Cのネットサービス系ベンチャーを対象としているのであれば、彼らの事業戦略・ビジネスモデルはスピード重視であり、サービスは基本的にβ版でリリースする。完成させることに注力して市場投入が遅れて、競合他社に先を越されたら、元も子もないからである。従って、スペックと価格を満たさなければ、立ち行かないというわけではない。代わりに、多くの場合PVやMAUといった指標を常に追求することになる。

価格

 価格は、以下のようなケースでは厳しい要求となる。
 往々にして、顧客のスペック(あるいは、市場からの要求)を満たすためには、当初想定していなかった「新しい何か」を付加しなければならない事態が発生することがある。このときは、その「新しい何か」の分だけ、コスト・アップにつながる。
 このコスト・アップ分を、アプリオリに予測することは、極めて困難である。研究開発を伴うベンチャーで、最も不確実性が高い部分でもある。
 この不確実性の評価は、人(技術者・エンジニア)次第である。技術を知り尽くした技術者がいるか否かに大きく依存する。つまり、

    ① 限界を試したことはあるか (原理的な限界ではなく、実用上の限界)
    ② 長時間の安定稼動を確認しているか
    ③ 様々な素材を使って実験データを採取したことがあるか
    ④ 実際に何かに応用した際に不都合が生じて、それを解決した経験はあるか
    ⑤ 実際の使用環境で様々な実験をした経験があるか
    ⑥ 量産化に関するノウハウをもっているか

 ベンチャー内に、このようなノウハウ(知的財産)を持った人材がいないと、製品開発を共同で行う(と共に顧客でもある)パートナー企業の要求する仕様を、要求された時間内に、ベンチャーが満たすことができる、との確信が持てない。つまり、投資が難しくなる。
 メディアあるいは専門外の有識者は安直に、「ベンチャーキャピタルは、技術系ベンチャーの(技術)評価ができないから、投資ができない。ベンチャーキャピタルはもっとスキルアップしなければダメだ」というトーンで主張される方が多い。しかし、こうやって詳細に見て行くと、投資判断が難しいことを理解して頂けると思う。
 法人向けソフトウェアや法人向けネットサービスを開発しているベンチャーであれば、スペックはセキュリティの高さやロバストネス、スケーラビリティ、メンテナンスの容易さと書いた。先に不確実性を議論したパートで、ソフトウェア開発、ソフトウェアを使ったネットサービスに当てはまる項目は、以下の通りであろう。③と⑥が除外される程度である。

    ① 限界を試したことはあるか (原理的な限界ではなく、実用上の限界)
    ② 長時間の安定稼動を確認しているか
    ④ 実際に何かに応用した際に不都合が生じて、それを解決した経験はあるか
    ⑤ 実際の使用環境で様々な実験(テスト)をした経験があるか

 ソフトウェアに関しては、ベンチャーで活躍したいと考えているエンジニアは多いし、若くても経験豊富な”ベテラン”が存在しうる。そういう意味でも、ソフトウェア系のベンチャーに対する投資のハードルは比較的低い傾向が見られる。

◇事業計画への落とし込み◇ 売上予測

 到達度が、ある程度確保されれば、売上予測は、ほぼ完成する。どの時点でどの程度の売上が計上できるかについて、ある程度の精度で予測できる。実際には、もう一つのマネタイズ調査の結果で、この予測は大きな修正をうける可能性が残されている。
 利益については、残念ながら、一般的に予測が困難である。

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