連載:IPO市場の健全な拡大に向けて (10) どこに惚れたのか?

02452a57 7074 4a8a ab6c 228e50cad246 camera_alt Judah Grubb/Shutterstock.com

 わざわざ明記するまでもないが、サービス系のベンチャーへの投資資スクリーニングに関しては、既にナレッジが蓄積されている。(作成:南青山FAS株式会社)

投資スクリーニングの標準化・ビジュアル化

 概ね、(1)交叉比率(粗利率×在庫回転率)×売上構成比率、(2)市況や季節変動の影響度合い、(3)物流センターやセントラルキッチンといった”インフラ”の整備状況及びそのインパクト、(4)多店舗化パッケージ、ということになる。多店舗化パッケージは、(a) 商品、(b) プライス (客層と価格のバランス)、(c) 店舗デザイン (商品、立地とのバランス含む)、(d)オペレーション (店長、従業員教育含む)、(e) 立地・店舗戦略 (FCee募集、ロイヤルティ設定含む)、(f) 仕入れ政策含むロジスティクス、(g) 管理システム、等である。
 技術系ベンチャーへの投資スクリーニングは確立されていないが、標準化・ビジュアル化は可能と考えられる。(トヨタ生産方式TPSの本質は、“働く人の意識”を変えてoutperformすることにあるが)標準化・ビジュアル化は、TPSの重要な要素である。標準化・ビジュアル化することで、

  ■共有することが可能
  ■伝承することが可能 (ポータビリティを持たせることが可能)
  ■ 周りの意識をそこに集中させることが可能
  ■ アクションの引き起こすことが可能 (改善の呼び水になる)

といったメリットが生まれるであろう。
 ベンチャーキャピタルが投資スクリーニングを標準化・ビジュアル化すれば、 ①スクリーニングの効率化、② 投資委員会での議論活発化、③投資プロセスの透明化、④知識や投資プロセスの共有化に加えて、⑤本質を見る目を養える、という利点があると考えられる。
 どんな分野でも、定量的な手法を採用しなければ、改善や進歩は、ありえない。また定量化することによって初めて、どのリスクならtakeする(できる)のか、どんなリスクはtakeしないのか。そして、どのリスク/どの程度のリスクに対して、どの程度のリターンを要求するのか、を組織内で定式化できる。これは貴重な知財である。少数(最大3つまで)の本質的な要素に絞って、目的にフォーカスされた詳細な調査を行うことが重要である。このような作業によって、ナレッジが蓄積され、組織力が増す。一見何の変哲もなく見える、小さな積み重ねが、最終的には大きな差になる。

 投資ビジネスで重要なことは、リスクを出来る限り精確に把握し、そのリスクとリターンを鑑みて、投資の実行を判断することである。
 ところが、シード~アーリー期の技術系ベンチャーへの投資は、あまりに不確実性が大きすぎるため投資を行わないという結論が下されることが多い。それを乗り越えて、投資を行うためには、シンプルでパワフルな評価ツールが必要である。
 その評価ツールは、複雑さの中に埋没することなく、本質的なリスクを抽出することが可能なツールであることが望ましい。パワフルとは、本質をつかめるという意味である。シンプルとは、単純化して誰にでもわかるような形で表現できる(例えばビジュアル化できる)という意味である。 
 そのような評価ツールで投資可と判断された案件には、積極的に投資をすることが望ましい。

どこに惚れたのか?

 パワフルさが必要であることは言うまでもないが、シンプルであることも重要な特徴である。
 投資担当者として、ベンチャーへの投資可否を投資委員会に上程する場合、(特に、シード~アーリー期の技術系ベンチャーの場合)、周りから、「この会社のどこに惚れたのか?」という質問を受けることが少なくない。
 これは一言で、つまりシンプルに、当該企業の魅力を表せ!という意味である。雑多な不確定要素を飲み込めるだけの魅力、しかも、大多数のキャピタリストの直感に響くような魅力がなければ、なかなか投資には至らないのであるが、そういった魅力と言うのは、シンプルに表現できるものである。
 本当に良い案件というのは、稚拙なスクリーニングでも投資可と判断される。現時点で、本当に良い案件の数は少ない。残念ながらほとんどの技術系ベンチャーの技術はevolutionalであってrevolutionalではない。
 例外は、やはり創薬の分野である。思わず唸るような作用機序をもった薬剤の開発を行っているベンチャーであれば、前臨床の前でも投資をしたくなる。余談であるが、スイスには、はっ、とするようなバイオベンチャーがいくつも存在する。しかし、日本のベンチャーキャピタルで欧州のベンチャーに直接投資をするベンチャーキャピタルはない。グローバルに事業を展開している商社のVC子会社でも難しい。米国に投資できてスイスに投資できない理由はないと思うのだが…。

 しかし、魅力溢れる案件が少ないからといって、悲観する必要は全くない。研究開発は、世界の至る所で常に行われている。その活動が衰えることはないだろう。良い評価ツールを用いて有望な技術を見つけ出し、適切なタイミングで事業資金を提供できれば、魅力的な案件は、いつでも見つかるはずだ。
 次回から、シンプルでパワフルな評価ツールに話を移そう。技術系ベンチャーの“技術のマネタイズ評価”を、(1) 実需度、(2) 貢献度、(3) 到達度の3軸で考えることを提案する。


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