連載:IPO市場の健全な拡大に向けて (9) パートナーと適用分野の発掘法
事業企画でも、コンテンツ企画でも、ライトパーソンにプレゼンできるか否かで、結果は180度変わる。今では、ライトパーソンを探すためのビジネスSNSが存在する。B2Bでもそうなると、コーポレートベンチャリングも大きく変わるだろう。
本稿ではまず、ベンチャーサイドから見た、パートナー発掘に関する、とても地味なアプローチを開陳している。次に、ベンチャーが商品・サービスを展開する分野の選定に関して、コメントしている。(作成:南青山FAS株式会社)
凄く地味なパートナーの発掘法-技報の活用
M&Aの例え話から始めよう。Seller側のアドバイザーとしてM&Aのディールをクローズさせるために、鍵となるのは、buyerの選定(ターゲティング)である。M&Aマインドがあって、キャッシュリッチで、適合性が高そうな良い相手を見つけないと、ディールをクローズさせることは難しくなる。
ターゲティングにおいて王道はない。地道に作業を繰り返す。技術のマネタイズにおいても、ターゲティングは地味な作業になる。
事業会社が、“どのような要素技術を既に持っているか”を簡単に知るためには、企業が定期的に刊行している技報(technical review)が、便利である。技報は、公立の図書館などで閲覧が可能である。
実は、“どのような技術を重視しているのか”も、丹念に技報を読んだり、同業他社の技報と読み比べたりすると、何となくわかってくる。もちろん、該当する技術の理論的なバックグラウンドを勉強する必要もある。
しかし、“どのような技術で新製品を開発しようと考えているのか”を、外から正確に読み取ることはできない。これは、ミーティングの中で詰めていくしかない。
技術や技術的適合性に加えて、パートナーとして選択する場合、その企業の技術者にビジネス・マインドがあることは、実務上、重要なポイントである。会社の技報は学会が発行する学術論文誌ではなく、顧客に向けてメッセージを発する媒体である。本来ならば、ビジネスマインドが満載されていなければならない(現実的には、そうとは限らないが)。
ビジネスマインドがあるとは、単純に言うと、顧客の立場に立脚した文言がペーパー中にあるということである。ここでも重要なことは、“顧客の視点”である。ビジネス・マインド溢れる文言を見つけることができたら、その企業はパートナー候補として、ひとまず合格である(ショートリストに残る)。
コア分野を攻めることが正解ではない
技術の適合性とは、つまり、パートナー企業の新しい戦略商品の開発にベンチャー企業の技術が大きく貢献できるか、である。これは、アプリオリに理解できるものではない。これも、訪問するしかない。
ほとんどの企業には、明らかに主力あるいは本流と見なされる分野(コア分野)がある。しかし、コア分野での商品開発に絡むことは、必ずしも、ベンチャーにとって、朗報ではない。なぜかというと、次のような陥穽のためである。
a) フリーライドの可能性
最近は変わってきたが、そうは言っても日本の大企業は、そもそもベンチャーと対等な契約を結ぶという気持ちが弱い。ある程度の短い期間(3ヶ月あるいは半年)だけ、共同開発契約を締結して、ベンチャーの技術やノウハウを吸収する。それで契約終了、というパターンが少なくない。
コア分野の商品を開発している技術者・開発者はプライドが高い。ベンチャー如きに、負ける筈はないと思っている。守秘義務契約を締結していても、ベンチャーと共同で得られた知見は、パートナーにも権利がある。ベンチャーが開示した情報を下に、パートナーが「独自に、技術を開発」してしまうこともある。まさにただ乗り(フリーライド)である。
分野が本流でも傍流でも、同じだという考え方もあろうが、自分達は優秀であるという考え方が、結果としてフリーライドを生んでいるのであれば、やはり傍流に比べて本流の危険度が高いということになるだろう。
b) ライバルが多い
コア分野であれば、誰もがそこを攻めたいというのは人情である。必然的に、ライバルも多くなる。パートナー企業にしても、多くの提携候補を見比べて、意思決定したいと考えるであろう。
そもそも、本心としては、コア分野に、ベンチャーを参加させてくれないかもしれない。
c) 時間がかかる
コア分野である以上、間違いなく売上及び利益は大きい。全社から優秀なエンジニア選りすぐって貼りうけるし、当然、組織も大きくなる。また、利害関係者もたくさんいるため、意思決定に時間がかかる。
ベンチャーは、スピードが命である以上、このような事態は、あまり好ましくない。
では、どうすれば良いか?
では、どんなオプションがあるかというと、企業の中には、表には出てこないけれども、不可欠な技術というものがある。他の技術や製品分野をサポートするような技術である。生産技術などが最も分かり易いが、設計技術、金型技術であるとか、切削・研削、測定などの分野も相当する。顧客のニーズに迅速かつ、きめ細かく応える必要がある最終製品を製造しているメーカーにとっては、例えば、画像検査装置関連の技術、あるいは、ロボット関連技術が死命を制することもある。
ベンチャーから見ると、このような、サポート技術の分野にアライアンスの的を絞る方が望ましい。パートナー企業の技術プラットフォームに対する補完技術でのシナジーは、コア分野でのシナジーと比較しても、引けをとらない。
一見、このような分野では、大きな売上が得られないように思われ、ベンチャー経営者は躊躇してしまうかもしれないが、実際はそんなことはない。生産サポート技術の分野で大きくなった高収益企業のイメージとしては、キーエンスなどがある。
最も大切なことは、パートナーと信頼関係を築くことである。信頼関係を築いたあとであれば、ビジネスも大きくなるであろう。