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連載:IPO市場の健全な拡大に向けて (8) M&A的な発想のサンプル

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 現在は、超大企業であっても、自前主義では立ちいかない時代である。ベンチャーが、他社と協業せずに自力でのみ成長することを選んだとしたら、それは無謀である。協業の巧拙がベンチャーの成功を左右するから、ベンチャーはイケてるパートナーを選ばなければダメと述べてきた。大企業にとってもベンチャリングは重要な経営施策であるから、イケてるパートナーになるため、マネタイズプラットフォームを整備しようと書いてきた。
 次のステップとして、スクリーニング手法に移り、事業パートナーの発掘にM&A的な発想が”使える"というのが前回の内容であった。頭の体操として、もう少し、ここで言うM&A的な発想について説明したい。(作成:南青山FAS株式会社)

プラットフォームを買いに行く

 M&Aは本来、"飛び道具"である。Sellerサイドのニーズを満たしてディールをクローズするためには、突飛な発想も時に必要である。
 例えば、マンション・デベロッパーを同業のデベロッパーに売却するというアイデアは、誰でも考えつくことである。価値を創造することに興味がないディールメーカー、あるいはマッチングサービスの提供者であれば、このレベルに留まる。戸建ての会社に売却するといっても、驚きはしない。
 しかし、セキュリティ会社に売却するとなると、普通は、なぜ? となる。M&Aの類型でいうと…垂直統合型、価値創造の手法で言うと…範囲の経済の追求あるいは、知的基盤のマネジメントになるであろう。
 M&Aアドバイザーが提示するbuyerへの訴求ポイントは、短期的には、buyerが提供するセキュリティの顧客が増えること。中期的には、顧客の新しいニーズをセキュリティに取り込んで、新しいサービスを開発できることであろう。[もちろん実務的に言えば、もともとM&Aマインドがある企業でなければディールは成立しない。さらに言えば、顧客のニーズを取り込んで新しいサービスを開発する意欲がある企業でなければ、buyer候補とすべきではない。]
 マンション・デベロッパーをセキュリティ会社に売却するというアイデアは、マンションがセキュリティサービスのプラットフォームになりうるという、発想がなければ思い浮かばない。

技術をプラットフォームに当てはめる

 次は、技術が絡む話にしよう(ただし、技術といっても、それほど現実的な話ではない)。
 "高い技術"を持ちながら、親会社(経営者)の都合で、売却されることになった製氷会社のM&Aアドバイザーになったとする。
 Sellerサイドのアドバイザーとして留意すべきことは、この製氷会社の潜在的な価値を最大限顕在化させて、高い値段でbuyerに売却することである。この場合、製氷会社の高い技術を適正に評価して、その技術をマネタイズできるような相手を選ぶことが肝要である。
 水は不思議な物質で、物性物理(固体物理)の言葉を使うと複雑液体である。水の結晶にはいくつかの多形が存在する[ちなみに、13個の結晶多形が確認されていて、今後も増える可能性がある。なお、水は"液相"にも多形が存在する]。雪と氷は、どちらも水の固相であるが、形は全く異なる。
 さて南極の氷は、特殊な結晶多形であると仮定しよう-水和水分子の構造が異なる、いわゆる擬似多形を仮定すべきかもしれない。南極砕氷船の性能試験を効率化するために、その特殊な多形を安定的に、しかも大量に作り出す技術が高い価値をもっているとしよう。そして、当該製氷会社が、その技術をもっていたとすると、このディールはクローズする。つまり、船舶建造会社に製氷会社が売れる。[実際、砕氷しやすい氷と砕氷しにくい氷が存在して、砕氷船の専門クルーは、それを判別して操船する。]

 あまり、ピンとこない話であろうが、上のような発想を、ベンチャーキャピタルに期待するのは難しい。ハンズオンを標榜するようなベンチャーキャピタルであっても、一般的には次のような発想しかしない:<悪いターゲティング・パターン>『ある古い技術を使った、既に一般的に使われている(成熟した)製品の古い技術を、新しい技術で置き換える。当該製品を製造している企業に、新しい技術を売り込む。』
 歴史的な経緯から、ハンズオフを旨とする日本のベンチャーキャピタルにしてみれば、止むをえないことであるが、これでは、余りに発想の幅が狭く、新しい価値を創造するには、不十分である。

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