連載:IPO市場の健全な拡大に向けて (7) スクリーニング手法

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 ここからは、大企業が(ベンチャーが有していると仮定している)有望な外部資源を見つけ出す手法を取り扱う。本稿では、顧客を起点にした、十分に機能的な「スクリーニング手法」の確立とその評価・フィードバックについて考える。(作成:南青山FAS株式会社)

パートナー発掘の前提条件

 外部(大企業、あるいは仲介者)から見た場合、ベンチャーとパートナーシップを構築(締結)するための前提は、対象ベンチャーが有する(あるいは、より一般的には、マネタイズの対象となる)技術の「コンセプトの証明」が終了していることである。
 この点については、多くの説明を要しないであろうが、学術的に意義が大きくても、単なる机上のアイデアは、(キャッシュがイメージできないため)、投資の対象とならない。
 ここでコンセプトの証明とは、(多くの場合は特許を出願しているであろう)独自技術の基本原理が、第三者の目に見える形で、実現していることを指している。もちろん再現性がなくてはならない。
 創薬ベンチャーの場合、「原理実証」が終了しているとは、動物実験(前臨床試験)で、
・ 重篤な副作用が認められず
・ 高い薬理活性が認められ
・ 薬物動態にも特に大きな問題が見られない

ことが確認された状況に相当する。このとき、既にアプリケーション―つまり、どの疾患を対象とするのか―は、決まっている。適用領域を拡張することはあっても、別の領域に適用することはない。当初、定めたターゲットで有効性が認められなければ、ドロップとなる。
 プロトタイプが完成していることは、必ずしも絶対条件ではないが、できれば完成していることが望ましい。
 プロトタイプの必要性は、パートナーの意向次第である。稀であるが、プロトタイプが既に完成していなくても、契約を締結してくれるパートナー企業も存在する。
 しかし、一般論から言えば、「あるアプリケーションが、ベンチャーの保有する特定の技術に従って、正常に動作しており、各種データが採取できる」状態にまで、ベンチャーの創業者グループが目途をつけている、ことが望ましい。
 このレベルにまで到達していれば、仲介者は、外部のパートナー企業の発掘・選定を通じて、技術のマネタイズ支援をスタートすることができる。この時点では、具体的なアプリケーションは特定されていない。
 そのような状態で、パートナー企業を発掘できるのかという疑問が湧くであろうが、それが一つのポイントとなっている。

逆の立場で適合性を評価するために、M&A的な発想を利用する

 パートナー発掘に当たっては、技術の適合性という判断基準で、M&A的発想に立脚して―――つまり、パートナー企業が、独自の事業戦略・技術戦略に基づいて製品開発を行うプラットフォームに補完的な技術を、ベンチャーから買い取る、というケースを“勝手に”想定し、パートナー企業の仮想的M&Aアドバイザーとして―――ベンチャーの技術を捉える、ということが鍵になってくる。
 プラットフォームに補完的な技術として、例えば製薬業であれば、プロドラッグ技術やDDS技術、製造業であれば、金型技術や、測定・計測や制御関連技術、あるいはロボット関連技術が上げられる。また、性能試験(あるいは試験設備)の提供やソフトウェア技術も含まれるであろう。
 大企業内部の担当者から見ると、業界他社のM&Aアドバイザーになったつもりで、ベンチャーをみると良い。コンペティタが3社あれば、3名が夫々の企業の仮想アドバイザーになればよい。M&Aアドバイザーの目線でみて、自社が本当に、当該ベンチャーにフィットするかを考えれば良いのである。
 やや複雑であるが、要するに、ベンチャー側から見てベストなパートナーを選ぶためには、『サプライサイドであるベンチャーがpushするのではなく、あたかもデマンドサイドのパートナーがpullしたように捉える』ことがポイントとなる。
 別の見方をすると、顧客であるパートナー企業の視点から、ベンチャーの技術を認識することで、スムーズなトランザクションを作り出そうということである。逆の立場で適合性を評価することによって、コラボレーション/アライアンスはうまく行くのである。
 『そんなの、机上の空論ではないか?』と疑問に思う方も多いと思うが、実際に機能することは証明済みである。
 やや古い文献であるが、米国のメーカーでR&Dの要職にあった著者による書籍(注)では、社内の研究開発における技術のマネタイズ・プロセスを3つのステージに分け、最初のステージ:コンセプト化ステージで解決しなければならないテーマの一つとして、当該技術(あるいはアイデア)が、「他のプロジェクトの“プラットフォーム”になりうるか」を上げている。この発想は、日本のメーカーにおいては、一般的でないように感じられる。大企業各社が、この認識をもってくれると、技術系ベンチャーとのアライアンスも、実りの多い活動になると思われる。
 仲介者は、パートナー(複数)が選定できたら、ベンチャーとのミーティングをセットする。そこで、具体的なアプリケーションを見出していく。
 アプリケーションがある程度見えてきたら、D:実需度、C:貢献度、R:到達度の3軸で、当該アプリケーションを評価する(内的調査)。この3項目は、後に詳述する。
 この3項目を通して、当該アプリケーションの、市場性を把握し、事業計画を作成する。ここでの、重要な主張は、技術系ベンチャーにとって、市場性分析は、直接の顧客であり、共同製品開発者でもあるパートナーを通してしか、できないということである。内的調査に加えて、さらに、外的調査を行う。ここでは、政府の規制や、流通の不備などによって、事業化が阻害される可能性を調査する。

まとめ

 本稿では主に、ベンチャー企業の技術(大企業が外部から導入しようとしている技術)の応用範囲が広く、アプリケーション候補はたくさんありうるが、どれを選択すべきか(どの市場を攻略すべきか、どこに事業機会が存在するか)が、まだ定まっていない状況を考えている。(応用できるアプリケーションが極めて限定的であれば、選択の悩みはないであろうが、そのような技術は、投資を検討している立場からみると、魅力的とは言えない。)
 単独で、大きく稼げるアプリケーションは、残念ながら、それ程多くない。ある程度の売上規模になるという確信がなければ、ベンチャーキャピタルは投資をしないし、単独のアプリケーションが成功する確率は決して高くない。そこで、必然的にベンチャーは、複数のアプリケーションを揃える必要が生じる。
 結局、シード期の技術系ベンチャーの評価は、当該技術をマネタイズして得られるキャッシュフローの価値を評価することに他ならないが、その評価は、どのような(複数の)アプリケーションを開発したか、並びに、誰を事業パートナーに選んだか、に依存する。
 投資評価はそれほど難しくないが、技術の評価が困難である創薬ベンチャーを考えてみよう。ベンチャーキャピタルが創薬ベンチャーへの投資判断をする場合、大手製薬企業が、当該ベンチャーと何らかの契約を締結していることが鍵となる。事業パートナーが存在しなければ、ベンチャーが成功するイメージは描きにくいことは、間違いない。アプリケーションの開発も良い事業パートナーを選択することで、加速される。良い事業パートナーは、顧客との接触も多く、市場ニーズを熟知しているため、アプリケーション開発においても貴重なアドバイスも与えてくれるのである。

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