「クールジャパンの旗手」で発生したコンプライアンス違反を防止する手立て

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 日本のIPOマーケットは、ライブドア・ショックやリーマンショックの後遺症を払拭し、回復基調にある。その一方で、新興市場にIPOした後、コンプライアンス違反を起こす企業が後を絶たない。
 クールジャパンの旗手とも目された株式会社DLEの不正会計事例をベースに、不正会計(コンプライアンス違反)防止策を提案したい。

【事件の概要】

 「秘密結社 鷹の爪」で有名になった株式会社DLEは、前身会社が2001年に設立された(商号変更は2003年)。2005年にFlashによるアニメ制作を開始し、「秘密結社 鷹の爪」のTV放送は2006年4月に開始である。その後、「TOKYO GIRLS COLLECTION」の商標権を取得、音楽プロデュース事業に参入、と事業領域を拡大して、総合エンターテインメント企業になっていった。同社は、米国Nasdaqへの上場を目標に掲げており、東証マザーズから東証1部へのステップアップは、そのマイルストーンと社内で位置付けられていた。マイルストーン実現には、事業計画達成は絶対であるとの思いから、意図的にコンプライアンス違反(不正会計)を行っていた。
 2018年11月27日、第三者委員会が調査報告書【開示版】を公表した(以下、単に、調査報告書と呼ぶ)。以下は、調査報告書に記載されている内容を基に作成した。

【不正会計の手口1】

 不正会計(粉飾)の多くは、架空売上の計上である。DLE社の不正会計も、架空売上の計上が主である。業界の特殊性や独特の商慣習を根拠に、会計上、解釈の余地がある部分をついて、架空売上を計上している。

(1)企画売上

 会計基準から言うと、企画売上を売上に計上可能な条件は、「企画業務の提供後に対価を請求できる」ことであり、それを第三者にも納得させるような書面(契約書や合意書)等の存在が要求される。
 しかし映像制作事業は、商慣習上・実務上、合意書や契約書が存在しなくともビジネスが回っており、さらに会計慣行も統一されていない、という状況にあった。その点を根拠にDLE社は、書面等がなくても「DLEの過去の実績に照らすと、支払義務の成立は認められる」と主張した。第三者委員会は、案件それぞれについて、会計上正しいか?を判断して、多くの案件で会計上不適切であるとの結論を下した。
 なお、企画内容についてのメールのやり取りがあるのみで、企画書等が存在しないにも関わらず、企画売上を計上している案件も存在したようである。

(2)システム改ざん

 スーパーバイザー権限を使って、会計処理を担う基幹システムのデータの改ざんを行っていた。具体的には、外注費の付け替え等が行われた。

(3)帳合取引

 DLEはA社から業務を受託し、A社の子会社に当該業務を委託していた。この取引において、DLEは、どのような役務も提供しないが、案件の企画制作費の20%を企画売上として計上し、残り80%を制作売上として計上していた。この帳合取引において、企画売上と制作売上の計上時期をずらせば、先行する会計年度では利益を認識し、1期後の会計年度で損失を認識することになる。

【不正会計の手口2】

 加ト吉、ライブドア、オリンパスや東芝、近年で言えばRIZAPを始め、残念ながらM&Aも、不正会計の苗床になりうる。DLEもM&Aにおいて、不正会計を画策していた。
 「東京ガールズコレクション(TGC)」の商標権を取得していたDLEは子会社を通じて、TGCのイベント企画、制作、運営を手掛ける株式会社W Mediaを買収(株式取得)した。DLEは当該子会社の減損処理を避けるため本来、費用計上すべき勘定科目を資産計上することを画策した。具体的には、広告費を創立費として資産計上した。さらに、ECサイト構築費用をコンサルティング報酬として資産(ソフトウェア勘定)に計上していた。

【再発防止策の提案】

 第三者委員会の調査報告書でも、「コンプライアンス委員会の復活」、「内部統制体制の強化」、「客観的で検証可能な売上計上基準の設定」、「監査役監査及び内部監査の充実」、「内部通報制度の仕組みの改善」といった再発防止策の提言がなされている。基本的な主張は同じであるが、もう一歩踏み込んだ防止策を提案したい。

(1)業界特有の取引慣行

 DLE社は、有価証券報告書の2.【事業等のリスク】(2)当社グループ事業に関するリスク⑧取引慣行等について、において「広告業界においては、知的財産権に関する事項を除き、取引の柔軟性や機動性を重視する取引慣行から、契約書の取り交しや発注書等の発行が行われないことが一般的であります。現在大手広告代理店等を中心に取引慣行の改善や取引の明確化が進められており、当社グループも取引先との間で事前に文書を取り交すように努め、取引の明確化を図っております。しかし上記のような取引慣行の理由から不測の事故又は紛争が生じた場合、当社グループの事業及び業績に影響を与える可能性があります。」と記載している。
 DLE社が属する業界には、“企画売上”という特殊な勘定科目が存在するし、売上計上基準が曖昧な取引も存在している。投資家に対し、投資に必要十分で適切な情報を伝えることは、上場会社の責務である。したがって、当該業界では、より一歩踏み込んで、その特殊性を具体的に記述した上で、

 ① 当社にはそのような勘定科目は存在しないand/or曖昧な売上は計上していない
あるいは、
 ② 監査法人と話し合って適切に処理している
という、詳細な情報開示を行うことは、防止策になると考えられる。

(2) システム改ざんの防止

 DLE社は、財務データを管理している基幹システムのスーパーユーザー権限を本来の目的とは異なる事由で使用することで、会計不正を行っていた。第三者委員会も、スーパーユーザー権限の行使に際して、ルールやプロセスの明確化を提言しているが、より踏み込んで、以下のようなステップを規定すべきと考える。
 ① まずシステム上、基幹システムのアクセス・ログが消せない仕様であることを、
   監査法人が確認する。
 ② スーパーユーザーの権限行使が財務データの修正であった全てのケースについて、
   監査法人と内部監査室が共有する。
 ③ ②のケースについて、内部監査室が詳細を把握し、監査法人に報告する。
 ④ ③について監査法人が重大な疑義を感じた場合、担当者にヒアリングを行い、
   経営トップ(代表権を持った経営者)に報告する。

(3) コンプライアンス委員会

 調査報告書によると、コンプライアンス委員会の運営担当者が退職した際に、後任に業務が引き継がれなかったため、2015年6月以降開催されていない。
 DLE社の2018年6月期有価証券報告書において、コンプライアンス委員会は、6.【コーポレートガバナンスの状況等】にて、「経営上の意思決定、執行及び監督に関する機関」として、取締役会や経営会議とともに列挙されている。さらに、リスク管理体制の整備の状況において、適正な運用を行っている、と明記している。
 金融商品取引法上、「重要な事項につき虚偽の記載のあるもの」を提出した者に対しては、刑事罰が科される。現行、コンプライアンス委員会の開催につき虚偽の報告をしても、金融商品取引法違反とはならないであろう。しかし、日産自動車元CEOカルロス・ゴーン氏が逮捕された事件では、同氏への報酬額について誤りがあったとして、有価証券報告書虚偽記載罪を適用している。コンプライアンス委員会の開催についても、解釈の拡大の余地は検討に値すると思われる。
 DLE社のように「企画売上の計上」といった会計不正を行う余地が存在する業種によっては、日時、場所と参加者を併記してコンプライアンス委員会を実際に開催したことを有価証券報告書に記載する義務を課せば、帳合取引やM&Aに絡むコンプライアンス違反の防止策にもなると考えられる。

(4) 司法取引の活用

 2018年6月に導入された司法取引制度は、前述したカルロス・ゴーン氏の逮捕でも用いられたことで、一気に知名度が上がったと言われている。司法取引の対象となる犯罪は限定されているが、仮に、有価証券報告書におけるコンプライアンス委員会開催の記載が虚偽であることを金融商品取引法違反に問えるならば、司法取引が適用可能と考えられる。
 司法取引の活用は、コンプライアンス違反の“コスト”を増加させることで、コンプライアンス違反の防止策になると考えられる。

【提案した再発防止策の意図】

(1)特殊性や独自性の排除

 事業の特殊性や商慣習の独自性を利用したコンプライアンス違反を可能な限り排除するために、有価証券報告書に「特殊性や独自性」を詳細に記述し、企業の対応方針を明記することを提案している。
 なお、内部統制報告書に記述するという選択肢もあろうが、有価証券報告書が望ましいと考えられる。

(2)逃げ道の排除

 調査報告書には、幹部社員の「記憶にない」、「認識はない」等の文言が並んでいる。コンプライアンス委員会等の機関が形骸化している証左であろう。同委員会を実戦力とするために、有価証券報告書に虚偽記載した場合は、重大な違反であり、金融商品取引法違反を問えるようにすることを提案している。

(3)コンプライアンス違反防止策実践の担保

 会計士が監査対象企業の全ての取引をチェックすることは不可能である。会計士に虚偽の書類が提出された場合は、当然、コンプライアンス違反・不正に気付くことは困難である。実践力を担保するには、社内の監査役や内部監査室との連携が必須である。連携の一例として、基幹システムの改ざんを防ぐことで、コンプライアンス違反を防ぐ方法を提案している。

 以上の提案が、IPOマーケットの健全な拡大の一助となれば望外の喜びである。
(南青山リーダーズ株式会社)


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