防災拠点としての期待高まる民間マンション
関西地方での地震に台風、中国・四国地方の水害、北海道での地震と、この夏は日本列島で多くの自然災害が発生した。災害はもはや他人事ではなく、常に身近にとらえて対策を練っておく必要がある。今回は、防災拠点として注目されつつある都市部の民間マンションについて見ていこう。
自治体が独自に防災力の高いマンションを認定
近年のマンションは、耐震性に優れた構造によって倒壊の危険性は低いといえる。
大阪府では、防災性の向上と災害に強い良質なマンション整備を推進するため「大阪府防災力強化マンション認定制度」を設けている。認定を受けるには、耐震性や耐火性など建物の安全性に関する基準に適合することに加えて、被災時の生活維持に必要とされる設備や施設を整備することが求められる。認定を受けたマンションは、防災力が高いマンションとして購入者にアピールできるほか、住宅ローンの金利優遇が受けられるのだ。
2017年(平成29年)1月11日時点では、6件のマンション(計604戸)が認定されている。
マンション管理組合の防災への備えは不十分
国土交通省がマンション管理組合や地域の町内会を対象に実施したアンケート調査によると、マンションの管理組合で、自主防災組織や独自の防災組織があるのは約2割に留まる。マンションの防災マニュアル等に発災時の意思決定のルールが定められているのは 25.1%、定められていないが 73.8%となっており、大部分のマンションでは災害時のルール作りが進められていない。
一方で町内会においては、 77.3%が「(自主防災組織が)ある」と回答している。また、食料や水、ラジオ、医薬品といった災害時の備蓄品についても、マンション管理組合の52.7%が用意していない。「備品を用意していない」町内会はわずか1.1%にとどまるのと対照的だ。
一般的に、マンション住民の町内会加入率は一戸建て世帯よりも低いとみられることから、マンション内での自主的な防災組織作りが必要になってくるだろう。ただ、マンションは入居世帯数も多く、必ずしも全員の防災意識が高いとも言えず、住民同士の温度差があるのが現状だ。
また、災害時の協力に向けてマンション住民と町内会など地域住民の交流も必要だ。実際、東日本大震災時にも、マンションに逃げ込んだことで命が助かったという事例や、地域マンションが避難者や帰宅困難者の受け入れ場所となったという事例があったという。
地域防災力強化に向けたマンションと地域との連携については、一次避難地としての敷地内の開放がまず期待される。「避難通路として敷地の開放をする」「集会室・会議室、キッズスペースなどの共用スペースを救援物資の一時保管場所、配給場所として活用する」「情報拠点として管理室やマンション内の掲示板等を活用する」といった方法が挙げられる。
また、地方自治体の中には、災害時の避難場所として地域のマンションと協定を結んでいる例もある。
防災力を高める地域コミュニティづくり
マンションの防災力を高めるには、建物自体の耐震性や安全性を強化することに加えて、地域コミュニティづくりが重要となる。
災害時にもパニックや暴動を起こさず、辛抱強く物資配給の行列に並ぶ日本人の姿が世界中で報道され、驚きを呼んだ。大規模な自然災害の発生時には、地域コミュニティによる共助が減災に大きく貢献することが研究によって指摘されている。
大規模災害時は、ライフラインや交通網が遮断される可能性が高く、居住地以外からの支援を受けるには数日かかると想定したほうが良いだろう。地域の中で被害をできるだけ抑えながら、最初の数日を生き延びるには、個人の努力だけでは限界があり、地域住民同士の協力が必要不可欠だ。
耐震性に優れ、ハード面での防災力が高い民間マンションは、地域の防災拠点としてポテンシャルが高い。マンション住民の防災意識の向上とともに、マンション外の地域コミュニティとの交流や協力体制といったソフト面の防災力向上が必要になるだろう。(提供:百計オンライン)