富裕層向け商品?ラップ口座のメリット・デメリット
日々の会社運営に追われる中小企業経営者にとって、自身の資産運用は後回しになりがちだ。しかし、経営者たる者、自分の資産もしっかりと管理・運用をしておきたいところだ。
貯蓄から投資へと叫ばれて久しいが、会社経営の経験とは対照的に、個人の資産運用は経験が浅いというケースも多いだろう。そのような中小企業経営者の一助ともなりうるのが、ラップ口座での資産運用だ。今回はこのラップ口座について解説する。
資産の運用から管理まで包括的サービス
ラップ口座は、包むという意味の「wrap(ラップ)」に由来している。証券会社などが投資家から預かった資金で運用方針のコンサルティングから投資判断、売買、運用の見直しなど資産の運用・管理を包括的にカバーするため、その名が付いた。日本投資顧問業協会によると、2016年12月末のラップ口座の資産残高は6兆4,148億円で、契約件数は53万9,274件にのぼる。
証券各社は、さまざまなタイプのラップ口座のサービスを提供している。
例えば、大手証券会社が提供しているのは運用資産が5,000万円からの富裕層向けのサービスだ。まず、カウンセリングで顧客の投資方針を確認し、それに基づいた投資提案書の作成を通して目標を共有したうえで、プロが資産の運用・管理を担う。3,000万円以上の資産でラップ口座を提供している証券会社も存在する。
さらに証券各社は、こうした富裕層向けのサービスに加え、運用資産が数百万円単位から利用できるラップ口座のサービスも充実してさせている。
ラップ口座のメリット・デメリットは?
ラップ口座は数百万円から数千万円まで幅広くカバーされており、自分の資産残高に合わせたサービスを利用することが可能だが、そのメリット・デメリットも確認しておきたいところだろう。
まず、メリットとしてあげられるのは、何から資産運用を始めてよいのかわからない場合、プロがしっかりとサポートしてくれる点だ。
カウンセリングの実施により、自身の投資方針が反映されたポートフォリオをプロが作り上げてくれる。そして、組入資産の騰落状況に合わせて、組入資産の入れ替えをしてくれるのだ。忙しい中小企業経営者にとっては、投資する銘柄(資産)選びとそのポートフォリオ管理をプロに任せて、時間を節約できるのは大きな利点だ。
また、通常の投資では、市況に合わせたポートフォリオの手直しは必要だが、投資信託などを売買すれば、その都度手数料も発生してしまう。しかし、ラップ口座では、手数料は資産残高に対してかかるため、株式や投資信託の売買では発生せず、ポートフォリオを入れ替える際に手数料を気にする必要がない。
これまで証券会社などは、顧客が新しい投資信託に乗り換えることで、手数料を稼ぐ回転売買を促進してきた経緯があるが、ラップ口座ではこうした回転売買に巻き込まれる心配もない。証券会社にとっては、顧客の資産残高が増えれば手数料もアップするので、運用で成果を上げるインセンティブが働き、より安心して運用を一任することができる。
一方、この手数料に関してはデメリットともなりうる。証券会社によって差はあるものの、ラップ口座の手数料は資産残高の1〜2%かかることが多い。ここから、さらに投資信託の運用管理費用(信託報酬)などがかかる。
若手の中小企業経営者ならば、長期的な資産運用のスタンスで、ある程度のリスクが許容できる。リスク選好のポートフォリオを組み、上昇相場にうまく乗れれば手数料を差し引いても十分な利益が上げられるかもしれない。
しかし、年齢を考慮してビジネスの一線から身を引くことを検討している経営者ならば、投資の期間も限定され、投資スタンスは必然的に株式より債券を中心とした安定志向のポートフォリオになりがちだ。安定志向のポートフォリオだと上昇相場に乗り切れず、パフォーマンスが手数料を上回らない可能性があることには注意したい。
メリットとデメリットを吟味して投資を
ラップ口座は手つかずの資産運用・管理のスタートとして、多忙な中小企業経営者の一助となる可能性は秘めている。サービスの利用にあたっては、そのメリット・デメリットを熟考したうえで、自身の投資スタンスに適合するか見極めたいところだ。