スタートアップが活用できる支援制度とは?(後編)
はじめに
スタートアップが活用できる支援制度について、前回(中編)では厚生労働省が運営・支給している助成金、及び地方自治体(東京都)が運営・支給している補助金に焦点をあてて解説しました。
そこで、本記事(後編)では、引き続き、スタートアップが活用できる融資制度及び支援策・支援機関等について詳しく紹介します。
スタートアップが活用できる融資制度(政府系金融機関)
創業前、あるいは起業直後のスタートアップは、事業実績も信用力も乏しく、差し出す担保もあまりないので、資金調達や資金繰りの確保で活用できる融資制度は多くありません。
近年、銀行や信用金庫等、民間金融機関でスタートアップが利用できる融資制度も数は増えていますが、実態は融資を受けるまで様々なハードルがあります。
しかし、政府系金融機関の日本政策金融公庫が取扱いしている創業関連融資は、創業前、あるいは起業直後のスタートアップが様々な場面で活用できる利便性の高い融資制度です。
以下で日本政策金融公庫が取扱いしている創業関連の融資制度から3つ、創業支援を利率の面からサポートしている制度について詳しく紹介します。
スタートアップ支援資金(日本政策金融公庫)
「スタートアップ支援資金」は、日本の経済成長及び社会課題の解決を先導することが見込まれるスタートアップの成長を支援するため用意された融資制度です。
スタートアップ支援資金は日本政策金融公庫が取扱いしています。
本融資は以下の2つの条件に全て当てはまる方が利用できます。
1.事業計画書を策定し、事業の成長を図ること
2.次のいずれかに該当すること
・一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会の会員(賛助会員を除く)等または独立行政法人中小企業基盤整備機構もしくは株式会社産業革新投資機構が出資する投資事業有限責任組合から出資(転換社債、新株引受権付社債、新株予約権及び新株予約権付社債等の取得を含む)を受けている方
・JーStartupプログラムまたはJーStartup地域版プログラムに選定された方
本融資における融資限度額は14億4千万円です。
その他の詳しい概要については、以下の公式サイトをご確認下さい。
参照先:スタートアップ支援資金
新規開業資金(日本政策金融公庫)
日本政策金融公庫では、以下の3つに分類される方に対して、幅広く創業・スタートアップを「新規開業資金」にて支援しております。
・女性、若者、シニアの方で創業する方
・廃業等歴があり、創業に再チャレンジする方
・中小会計を適用して創業する方
新規開業資金を利用できる方は、上記の条件を満たし、新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方になります。。
本融資における融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)です。
その他の概要については、以下の公式サイトをご確認下さい。
参照先:新規開業資金|日本政策金融公庫 (jfc.go.jp)
新創業融資制度(日本政策金融公庫)
日本政策金融公庫では、創業・スタートアップを支援するため、無担保・無保証人で利用できる「新創業融資制度」を取り扱っています。
ただし、利用に当っては、本制度は他の融資制度との併用が基本になります。
新創業融資制度を利用できるのは以下の2つの全ての要件に該当する方のみです。
・対象者要件
新たに事業を始める方または事業開始後税務申告を2期終えていない方
・自己資金の要件
新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を1期終えていない方は、創業時において創業資金総額の10分の1以上の自己資金(事業に使用される予定の資金をいいます)を確認できる方
ただし、「お勤めの経験がある企業と同じ業種の事業を始める方」、「創業塾や創業セミナーなど(産業競争力強化法に規定される認定特定創業支援等事業)を受けて事業を始める方」などに該当する場合は、本要件を満たすものとします
本融資における融資限度額は3,000万円(うち運転資金1,500万円)です。
その他の概要については、以下の公式サイトをご確認下さい。
参照先:新創業融資制度|日本政策金融公庫 (jfc.go.jp)
創業支援貸付利率特別制度(日本政策金融公庫)
創業支援関連融資に係り、日本政策金融公庫では、新たに事業を始める方または事業開始後税務申告を2期終えていない方に対して、「創業支援貸付利率特別制度」を利用して、貸付利率がより低金利となるよう便宜を図っています。
具体的には、本特別制度を活用すれば、貸付利率に関して、各融資制度に定める利率よりさらに0.65%低く借りられて、さらにその融資目的が「雇用の拡大を図る」場合には、各融資制度に定める利率よりさらに0.9%低く借りられる優遇措置があります。
詳しくは以下の公式サイトをご確認下さい。
参照先:創業支援貸付利率特例制度|日本政策金融公庫 (jfc.go.jp)
スタートアップが活用できる支援策・支援機関
次にスタートアップが活用できる他の支援策・支援機関等について解説します。
スタートアップが企業として成長すれば、経済が活発化して雇用機会も増加します。
それは日本社会の隆盛にもつながるので、国・地方自治体、金融機関等も協力して積極的にスタートアップを支援していくことになります。
とりわけ、国が行う各種の支援策や支援機関の存在は、経営基盤の弱いスタートアップの成長には欠かせない要件といえるでしょう。
本章では、そのような支援策・支援機関等について、5つ取り上げ詳しく紹介します。
スタートアップ創出促進保証制度
「スタートアップ創出促進保証」とは、これまで起業・創業の阻害要因のひとつであった経営者の個人保証を、経営者が本制度を活用することで、創業時の経営者保証を不要とし、創業機運の醸成、ひいては起業・創業の促進につながることを目的とした制度です。
本制度の主管先は中小企業庁で、本件に係る相談窓口は金融機関または保証協会となります。
本制度の主な概要は以下の通りです。
【補償対象者】
・創業予定者(これから法人を設立し、事業を開始する具体的な計画がある者)
・分社化予定者(中小企業にあたる会社で事業を継続しつつ、新たに会社を設立する具体的な計画がある者)
・創業後5年未満の法人
・分社化後5年未満の法人
・創業後5年未満の法人成り企業
【保証限度額】
・3,500万円
【保証期間】
・10年以内
本制度に関して、詳しくは以下の公式サイトをご確認下さい。
参照先:中小企業庁:経営者の個人保証を不要とする創業時の新しい保証制度(スタートアップ創出促進保証)を開始します。 (meti.go.jp)
ストックオプション税制
スタートアップが成功するには革新的な製品・サービスや有能な人材が必要です。
また、スタートアップが有能な人材を採用して、その能力を十分発揮して長期間会社の業績向上に貢献してもらうため、会社が使える重要なインセンティブ施策としてストックオプション(SO)があります。
ストックオプションは企業が運用する施策ですが、それが有効に機能するよう税制面から支援しているのが国の行う「ストックオプション税制」です。
ストックオプション税制とは、権利行使時の取得株式の時価と権利行使価額との差額に対する給与所得課税を株式売却時まで繰り延べ、株式売却時に売却価額と権利行使価額との差額を譲渡益課税とする制度です。
通常、無償ストックオプションを行使すると、現金としての利益を得ていない時期に給与所得課税が発生します。
しかし、本税制の要件を満たすストックオプション(税制適格ストックオプション)を活用すれば、ストックオプションの行使時の給与所得課税は行われず、株式売却時のみの譲渡益課税となります。
この税制による支援によってストックオプション制度がさらに使われやすくなりました。
ストックオプション税制に係る税制適格ストックオプションの主な要件(付与の対象、発行価格、権利行使期間等)について詳しくは以下の公式サイトをご確認下さい。
エンジェル税制
「エンジェル税制」とは、スタートアップ企業への投資を促進するため、スタートアップへ投資を行った個人投資家(エンジェル)に対して税制上の優遇措置を行う制度です。
スタートアップ企業に対して、個人投資家が投資を行った場合、投資時点と売却時点のいずれの時点でも税制上の優遇措置を受けることができます。
また個人投資家がエンジェル税制の適用を受けるためには、事前に投資を受けたスタートアップが本社所在地の都道府県に対してエンジェル税制の要件を満たすことを証明する確認書の交付申請が必要です。
そしてスタートアップが確認書を手に入れたら、それを個人投資家に交付します。
なお、確認書の交付申請手続きは通年で申請可能です。
エンジェル税制について詳しくは以下の公式サイトをご確認下さい。
参照先:中小企業庁:エンジェル税制のご案内(令和2年4月1日から令和5年3月31日までの出資について) (meti.go.jp)
アクセラレーション事業FASTER
「アクセラレーション事業FASTER」は、中小企業基盤整備機構(中小機構)が進めるシード段階のスタートアップ企業に対する支援事業です。
FASTERは、事業課題に悩むシードスタートアップへ、本当にスタートアップが求める支援を提供すべく、中小機構専任パートナーと自社内ではそろえきれない外部メンターによる専門家が伴走しつつ、事業成長をめざすプログラムになります。
FASTERでは、ビジネスチャンスの拡大を促進するアクセラレーション事業(成長加速化支援)を実施して、成長戦略に向けて規模拡大・将来のIPOやM&Aをめざします。
【アクセラレーション事業FASTERの対象及び要件】
・グローバル規模での社会課題解決や、成長産業の変革をめざしており、事業課題を抱えているスタートアップ等
・創業から5年以内の事業ステージがシードからアーリーまでのスタートアップ、または起業予定の個人
アクセラレーション事業FASTERについて詳しくは以下の公式サイトをご確認下さい。
参照先:FASTAR 中小機構のアクセラレーション事業|中小機構 (smrj.go.jp)
スタートアップ支援機関プラットフォーム(Plus)
「スタートアップ支援機関プラットフォーム(Plus※)」は、スタートアップ支援を行う政府系16機関が、それぞれの特性を活かしつつ、質の高いスタートアップを一気通貫して支援することを目的として創設されたプラットフォームです。
※Plusは、”Platform for unified support for startups”の略。
その支援活動の一環として、ワンストップ相談窓口”Plus One(プラスワン)”をNEDOにて運用しています。(NEDOは持続可能な社会の実現に必要な技術開発の推進を通じて、イノベーションを創出する国立研究開発法人)
政府系16機関は、技術シーズを活かして事業化などに取り組むスタートアップ及び創業をめざす研究者・アントレプレナーなどの人材を継続的に連携して支援し、新産業の創出を促進することなどにより、日本のスタートアップ・エコシステム形成及び海外を含む経済・社会課題の解決に寄与することをめざします。
また、Plusを通じ、これまでは独自に実施していた各協力機関の既存の取り組みを、他機関の支援メニューと連携することで支援の幅を広げていく予定です。
スタートアップ支援機関プラットフォーム(Plus)について、詳しくは以下の公式サイトをご確認下さい。
参照先:Plus One|StarTips(nedo.go.jp)
おわりに
スタートアップが活用できる支援制度について、後編では主にスタートアップが活用できる融資制度を日本政策金融公庫中心に、また税制等の支援策・支援機関について詳しく解説してきました。
スタートアップが活用できる支援制度(前編・中編・後編)では、スタートアップが活用すべき補助金・助成金、融資制度、知っておくべき支援策や支援機関等を紹介しました。
補助金に関しては、期間限定の補助金や業種限定の補助金、利用条件がかなり限定的な補助金など、様々なタイプがあります。
しかし、各々の企業の特性に合った補助金を探して、申請・受給してみれば、資金調達の幅が広がり、資金繰りも楽になることでしょう。
同様に助成金も条件を満たして申請して審査を受ければ必ず支給されます。
さらに信用力や資金力の乏しいスタートアップにとって、日本政策金融公庫の創業関連融資はきっと役に立つ融資となるでしょう。
スタートアップが活用できる支援策も内容・数ともにかなり充実してきています。
この記事が、スタートアップが支援策を検討する際の判断材料になることを大いに期待しています。
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