資金調達ラウンドの概要と留意点について(前編)
はじめに
「資金調達ラウンド」一般的には耳慣れない言葉です。
しかしこれは「投資ラウンド」ともよばれ、スタートアップ、ベンチャーの経営者や投資家の間ではよく知られた経済用語です。
スタートアップなどの経営者が起業していく過程、すなわち会社の起業前から起業後の成長過程において、企業活動の展開に必要な資金調達手段、資金使途などを、段階ごとに分類し整理しておけば経営者も投資家もお互い理解しやすくなります。
この分類のことを経営者側からは「資金調達ラウンド」、投資家の側からは「投資ラウンド」と呼んでいるのです。
今回の記事では、資金調達ラウンドの概要と留意点について、(前編)(後編)の2編に分けて詳しく解説します。
資金調達ラウンドの種類と事業段階
資金調達ラウンドを会社の成長過程に沿って分類して図式すると以下のようになります。
各ラウンドをひとことで表現すると以下のように定義できます。
①プレシード(エンジェルとも)/起業前でビジネスアイデアを模索中の段階
②シード/ 起業前で商品・サービスをリリース前の段階
③プレシリーズA(アーリーとも)/起業して商品・サービスをリリースした直後の段階
④シリーズA/事業が本格的にスタートして顧客が増え始めている段階
⑤シリーズB/顧客の獲得にめどが付き、商品・サービスの拡充を進めている段階
⑥シリーズC~(状況に応じてシリーズがD・E・Fと続く場合あり)/経営が安定して黒字化が定着、新規事業や海外展開、新しい商品・サービスの開発・展開を実施していく段階
ラウンド1.プレシード(エンジェル)
プレシード(エンジェル)とは、起業前でビジネスアイデアを模索中の段階のことです。
以下、プレシードで必要な資金調達額や調達までに必要な期間、主な資金調達先と留意点、主な資金使途など解説します。
必要な調達金額と調達期間
プレシードでは、プロジェクトチームも組織されてなくプロダクトも何もありません。
あっても商品・サービスのアイデアがあるという程度です。
法人化もされてないのでその資金も必要ありません。
つまりビジネスとして動いていないので必要資金も最少で済み、相場としては100万円から1,000万円、中心で500万円程度です。
資金調達までの必要日数としては、1週間から長くて2ヶ月程度です。
資金の主な調達先と留意点
この段階で資金調達に協力してくれる先としては、エンジェル投資家、インキュベーター、などがあります。
エンジェル投資家とは個人ベースの投資家で、多くが自ら会社を創業した経験を持っています。
そのためエンジェルラウンドの投資にも協力的で、さらに投資家の人脈の提供や経営アドバイスも受けられます。
インキュベーターとは、創業前あるいは創業直後に必要なサポートを行う団体組織です。VC(ベンチャーキャピタル)や地方自治体がそれに該当します。
エンジェル投資家と違い、インキュベーターは組織力を発揮して必要資金、設備、人脈、経営ノウハウまで提供が可能です。
この段階での資金調達の問題点は、まだ事業開始前で一切事業実績がなく、頼りは事業計画書と経営者の個人的信用だけであるという点です。
それだけに資金調達できるかどうかの見込みも定かでありません。
入念なビジネスアイデアの練り込みと経営者個人の熱意が資金調達先を説得できるかどうかの鍵となります。
主な資金使途
プレシードでの資金使途としては以下のようなものがあります。
・ビジネス稼働に必要な調査研究費及び交通費
・それに伴う人件費など
ラウンド2.シード
シードとは、起業前で商品・サービスリリース前の状態のことです。
以下、シードで必要な資金調達額や調達までに必要な期間、主な資金調達先と留意点、主な資金使途など解説します。
必要な調達金額と調達期間
シードになると、ビジネスモデルも定まり、法人も設立され、実際にビジネスを開始前の状態になります。
自社ビジネスについて需要があるか市場調査するほか、商品・サービスの開発として事前にプロトタイプを作り始めます。
この段階での必要な資金額としては1,000万円から5,000万円が相場です。
また資金調達までに必要な期間として1ヶ月~数ヶ月程度必要です。
資金の主な調達先と留意点
この段階で資金調達に協力してくれる先としては、エンジェル投資家、VC、さらに融資先として日本政策金融公庫があります。
ここでVC(ベンチャーキャピタル)とは、将来高い成長が見込まれるスタートアップやベンチャー等の未上場会社に対して投資を行う会社のことです。
出資の見返りにその企業の株式の一部を取得して、将来その会社が上場したり、大企業に買収されたり、株価が上がったタイミングで株式を売って利益を得ようとします。
さらにシードでの新しい資金調達先には日本政策金融公庫があります。
日本政策金融公庫は政府系の金融機関で、国の経済発展や地域活性化を目的に法人個人に金融支援しており、もちろん銀行等の民間金融機関では対応していないリスクが高い事業(含むスタートアップ)にも積極的に融資しています。
ただしこの段階では、法人は設立されていても事業実績はほぼありません。
そのため資金調達を成功させるには、緻密な事業計画書の作成や成功を期待させる魅力的なプロトタイプの実現が鍵であり、調達先が「リスクが大きすぎる」と判断すれば資金調達できない可能性が高いです。
そのため資金相談の際、複数の出資先・融資先に相談することで資金調達の確率を上げることが重要になります。
主な資金使途
シードでの資金使途としては以下のようなものがあります。
・法人の設立費用
・自社ビジネスに関する調査費
・プロトタイプの研究開発費
・人件費など
ラウンド3.プレシリーズA(アーリー)
プレシリーズA(アーリー)とは、起業して商品・サービスをリリースした直後の段階のことです。
以下、プレシリーズAで必要な資金調達額や調達までに必要な期間、主な資金調達先と留意点、主な資金使途など解説します。
必要な調達金額と調達期間
プレシリーズAでは、シードでスタートしたビジネスを、プロトタイプを使って実際に市場に投入、その顧客からの反応(フィードバック)を確認しつつ、商品・サービスを改善していく段階になります。
このシリーズではすでにビジネスを開始しているので、市場の反応に応じて臨機応変に商品・サービスを改善していく必要があり、同時に自社ビジネスを世間に広く認知させていく努力が求められます。
そのため前2段階より、さらに多くの資金がかかるようになります。
必要な資金調達額の相場は5,000万円~1億円程度です。
また調達期間は最低数ヶ月程度かかるので、時間的余裕を見て準備する必要があります。
資金の主な調達先と留意点
プレシリーズAでの主たる資金調達先はVC及び日本政策金融公庫などです。
またこの段階からは、株式型クラウドファンディングという、未上場株式の発行でネットを通じて多くの人から少額で資金を集める新しい仕組みを使って資金調達する先も出てきます。
しかし未だ新しい資金調達方法なので、企業に浸透するにはしばらく時間がかかりそうです。
プレシリーズAでの投資家や政府系金融機関が審査で重視するポイントは、そのスタートアップが作ったプロトタイプ{(α/β版(※)}がいかに実際ユーザーに使われているか、という点です。
それがビジネスの今後を決め会社や事業の存続を担うからです。
α/β版の商品・サービスをユーザーに実際使用や利用してもらって、その登録率、継続率、満足度、解約率等を定量的に測り、投資家や金融機関は出資や融資するかを決めます。
したがって満足いく結果が出なければ、企業は出資や融資を受けられないし、ビジネスはプレシリーズAの段階で頓挫することになります。
(※)α/β版とは、全体的に製品としての機能が足りない試作品のことで、α/β版を経た最終完成品を「正式版」と呼ぶ
主な資金使途
プレシリーズAでの主な資金使途は以下のようなものがあります。
・商品・サービスの研究開発費及び改善費用(含む設備費用)
・マーケティング費(含むα/β版のデータ収集・分析費)
・上記に伴う人件費(含むスタッフ増員費)
終わりに
本記事では、資金調達ラウンドのうち、前段階であるプレシード(エンジェル)~プレシリーズA(アーリー)について詳しく解説しました。
次回の記事では、後編として、資金調達ラウンドの後半部分に当るシリーズA、シリーズB、シリーズC~について詳しく解説します。
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