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新興企業向け市場の種類とその形式基準について(後編)

camera_alt 寄稿者 Shutterstock_VideoFlowさん

はじめに

新興企業向け市場とは、主にベンチャーなど成長が期待される企業が上場している市場のことを言います。

新興市場では、証券取引所の本則市場と比べ、上場するための形式基準が緩和されているため、企業としての規模が大きくなくても、あるいは業績が赤字の状態であっても上場できる場合があり、様々な状態の新興企業が上場して株式公開しています。

日本にある新興市場は、東証グロース市場・名証ネクスト市場・福証Q-Board・札証アンビシャスの4つです。(呼び方については、各証券取引所での名称を踏襲)

また新興市場でも、本則市場同様、ひとつの市場に単独上場している企業や、2つの市場にダブル上場しているケースもあります。

この記事では、前編に続き、新興企業向け4市場について、各々の概要や形式基準について詳しく解説するとともに、新興市場で投資家が投資する上での注意点など説明します。

各新興市場の概要、形式基準の概要と比較

この章では各新興企業向け市場の概要や形式基準について解説します。

まずは各新興市場で上場のため企業が満たすべき形式基準について、数字中心に比較できる項目を一覧表にしてみたので、ご覧になって下さい。

東証グロース市場・名証ネクスト市場・福証Q-Board・札証アンビシャス、各新興市場の上場審査に係る形式基準一覧表

東証グロース市場

名証ネクスト市場

福証Q-Board

札証アンビシャス

対象企業

九州周辺に本店を有する企業または九州周辺における事業実績・計画を有する企業

北海道に関連のある企業

株主等(上場時見込み)

150人以上

150人以上

200人以上

100人以上

流通株式(上場時見込み)

a.流通株式数1,000単位以上

b.流通株式時価総額5億円以上

c.流通株式比率25%以上

流通株式時価総額3億円以上

流通株式時価総額3億円以上

a.流通株式数(基準なし)

b. 流通株式時価総額(基準なし/要件としない)

公募の実施

500単位以上の新規上場申請に係る株券等の公募を行うこと

同左

同左

同左

事業継続年数

1か年以前から取締役会を設置して継続的に事業活動をしていること

同左

同左

同左

単元株式数

単元株式数が100株となる見込みのあること

同左

同左

同左

純資産の額

連結・単体純資産の額「正」

1億円以上(最近2年間の営業利益が連続して50百万円以上の場合は「正」)

利益の額

最近1年間の営業利益が「正」。営業利益が「正」出ない場合において収益の向上が期待できる場合を含む。

売上高

成長可能事業の売上高が計上されていること

※新興市場の形式基準においては、以下の各項目も4市場全て同じです。(詳細省略、審査基準項目名のみ)

・虚偽記載または不適正意見等

・上場会社監査事務所による監査

・株式事務代行機関の設置

・株式の譲渡制限

・指定振替期間における取扱い

参照先:東証/グロース市場上場審査形式基準

https://www.jpx.co.jp/equities/listing/criteria/li...

参照先:名証/ネクスト市場上場審査形式基準

https://www.nse.or.jp/listed/next/criteria.html

参照先:福証/Q-Board上場審査形式基準

https://www.fse.or.jp/stock/criteria.php

参照先:札証/アンビシャス上場審査形式基準

https://www.sse.or.jp/targetcompany/kijun

東証グロース市場の概要

東証グロース市場は東京証券取引所における新興企業向け市場です。

その前身は「マザーズ及びJASDAQ」で、それまでの市場区分ではコンセプトがあいまいで投資家にとって利便性が低い、あるいは上場時の持続的な企業価値の向上の動機付けが不十分等の意見があり、課題解決のため市場区分の見直しが行われました。

そして2022年4月3日から新たに3つの区分に再編された証券市場がスタートし、そのうち新興市場としてグロース市場が誕生しました。

グロース市場のある東京証券取引所は、東京都中央区兜町にある証券取引所で、日本国内の株式売買高の99%以上を占めます。

また上場企業数も3,869社(うちグロース市場516社)と日本の上場企業数の大部分を占めています。(参照先:JPX/2022年12月末現在)

JPXによると東証グロース市場のコンセプトは以下の通りです。

※高い成長可能性を実現するための事業計画及びその進捗の適時・適切な開示が行われ一定の市場評価が得られる一方、事業実績の観点から相対的にリスクが高い企業向けの市場

東証では、グロース市場をスタンダード市場、さらに上位のプライム市場へのステップアップのための新興企業向け市場として位置づけており、これからグロース市場への上場をめざす新興企業に対しては積極的な市場開放、投資家に対しても迅速かつ透明度の高い投資情報の提供を行っています。

名証ネクスト市場の概要

名証ネクスト市場は名古屋証券取引所における新興企業向け市場です。

その前身は1999年に創設されたセントレックスで、東証同様、名証でも市場区分の見直しが行われ、2022年4月4日より本則市場であるプレミア市場・メイン市場と新興企業向け市場であるネクスト市場がスタートしました。

名証における上場企業数は、2022年12月末現在275社(うちネクスト市場16社)で、新興市場に属する企業も相対的に少なく、また名証に単独上場している企業も58社と全体の2割に過ぎず、多くの企業は東京証券取引所等と重複上場しています。

ネクスト市場の市場コンセプトは名証によると以下の通りです。

※事業実績の観点からリスクを有するものの、将来のプレミア市場又はメイン市場への市場区分の変更を見据えた事業計画及びその進捗の適時・適切な開示が行われ、一定の市場評価を得ながら成長を目指す企業向けの市場

名証では、「全国のIPO準備企業」に対して門戸を開き、近い将来、プレミア及びメイン市場へのステップアップが期待できる次世代の企業にネクスト市場を開設しています。

福証Q-Boardの概要

福証Q-Boardは福岡証券取引所における新興企業向け市場です。

福証Q-Boardは2000年5月に創設され、九州周辺を拠点にしている企業または九州周辺において事業実績や計画を有する企業を対象にした市場として運営されています。

福証における上場企業数は、2022年12月末現在107社(うちQ-Board17社)であり、全体の約16%が新興市場Q-Boardで上場中です。

最近の福岡証券取引所の傾向として、企業が福証等の地方証券取引所で積極的に上場を図っていない動きがあります。

株式取引が電子化されたことなども影響して、近年東証に重複上場している企業から福証での上場廃止申請が増加しており、それはここ数年の福証における上場企業数の動きでも分かります。(2019年12月末111社→2022年12月末107社)

そのため福証における株式取引は、本則市場よりむしろQ-Boardにこれから上場する新規公開株の取引に注目が集まっていると言えるでしょう。

札証アンビシャスの概要

札証アンビシャスは札幌証券取引所における新興企業向け市場です。

札証アンビシャスは2000年4月創設、近い将来、本則市場への上場をめざす企業を育成するための市場という位置付けで、北海道と何らかのつながりのある企業を対象としているのが特徴です。(実際札証に上場している企業の大半が北海道の企業です)

また札証における上場企業数は、2022年12月末現在60社(うちアンビシャス10社)で、新興市場の上場登録数が全体の約17%を占めています。

さらにそのアンビシャスでも突出して株式の取引売買額が多いのが美容・ヘルスケア業界で著名度の高いRIZAPグループ株式会社です。

具体的にはRIZAPグループ1社でアンビシャス総売買高のじつに株数ベースで約9割、金額ベースで約7割を占めています。(2022年実績)

ただし福証同様、札証も地方証券取引所としての地位は地盤沈下しており、1997年のピーク時には札証全体で194社が市場に上場していましたが、現在ではおよそ3分の1以下の60社にまで激減しています。

今後も北海道経済を下支えする地方証券取引所としての位置づけは変わらないと考えていますが、一方で新興企業向け市場としてのアンビシャスをどう盛り立てて北海道から新しいベンチャー企業を発掘育成していくか、それが大きな課題と言えます。

各新興企業向け市場の形式基準の比較と投資上の注意点

新興市場の概要を確認していただいたので、最後に各新興市場の形式基準を概略で比較します。

また投資家等が新興企業市場へ投資するときの注意点を2点解説します。

各新興企業向け市場の形式基準の比較

新興企業向け市場の形式基準を本則市場の形式基準と比べて大きく異なる点は、その上場基準が易しく設定されているということです。

理由は、新興企業向け市場の審査では、その会社の歴史や安定性より、あくまでも企業としての成長性を重視しているからといえます。

そのため上場に必要とされる株式数、時価総額なども本則市場と比べて緩やかで、札証アンビシャスのように上場時の時価総額を審査要件としていない先もあります。

また利益の額も上場要件としていない新興市場が大半で、他の複数の上場基準を満たしていれば、現状赤字でも上場が可能な場合もあります。

一方で東証のグロース市場は、他市場に比べて流通株式時価総額が高く設定されていたり、流通株式数、流通株式比率に下限があったりなど、形式基準が高く設定されており、同じベンチャーでも上場をめざす際にはやや敷居が高い新興企業向け市場と言えるでしょう。

新興企業向け市場へ投資する際の注意点

これまで説明してきたように東証、名証、福証、札証、各々に新興企業向け市場があるので、投資家の中にはその地域のベンチャーに投資しようと考える方もいるでしょう。

しかしこれらの新興企業向け市場の株式銘柄に投資する際には注意が必要です。

なぜかというと、新興市場の企業銘柄は発行済株式数が本則市場の企業銘柄と比べてかなり少なく、かつ株式としての流動性も低いので、株価の値動きが非常に激しいからです。

そのため成長性の高いベンチャー企業への投資は、株価の上昇局面では大きく儲けることも可能ですが、いったん株価の下落局面に入ると思いがけない大きな損失につながります。

そこで新興市場への投資で大失敗をしたくないなら、途中で思い切って損切りを決断する場面も必要になってくるでしょう。

いずれにしても新興企業市場への投資の際には、その企業の特徴をしっかり押さえた上で、1つの銘柄に集中投資するのでなく、他業種の銘柄に分散して投資するとか、本則市場の安定銘柄も併せて投資するとかで、リスクを分散させておくことが肝心です。

終わりに

新興企業向け市場の種類とその形式基準について、前編と後編に分けて、詳しく解説しました。

IPO準備企業にとって新興企業向け市場は、まずは上場をめざす際の第一目標となる市場です。

また新興市場にはすでに将来の成長が見込まれるベンチャー企業が多く上場しています。

その新興企業向け市場の種類や市場ごとの概要、形式基準を知ることは、準備企業の経営者にとって最低限、身につけるべき必須の知識です。

正しい知識と的確な判断の下、自社に適した新興企業向け市場を選んで新規上場をめざしましょう。

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