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新興企業向け市場の種類とその形式基準について(前編)

camera_alt 寄稿者 Shutterstock_MaximPさん

はじめに

新興企業向け市場とは、新興企業(ベンチャー)が多く上場している東京証券取引所(東証)のグロース市場などの総称として使われている言葉です。

グロース市場以外にも他の新興企業向け市場として、名古屋証券取引所(名証)のネクスト市場、福岡証券取引所(福証)のQ-Board、札幌証券取引所(札証)のアンビシャスがあります。

各新興市場の共通点として、各証券取引所の一般市場(本則市場)より企業が上場に至る形式基準が緩いという特徴があります。

そのため、株主数や時価総額(上場見込み時)等の項目で当該企業が一定の条件を満たしていれば、設立後あまり実績のない企業や現状赤字の企業でも上場できる可能性があります。

一方新興市場に上場中の企業は、まだ発展途上にあるケースも多く、会社として今後の大きな成長が期待できる反面、業績面では不安定要素が強く、業績の低下や環境変化による影響から株価の変動が大きくなりやすい傾向があります。

そのため新興市場所属の企業銘柄への投資には、本則市場への投資以上の小刻みな対応と注意が必要です。

今回の記事では、新興企業向け市場の種類とその形式基準について、前編と後編に分けてその内容を詳しく解説します。

まず前編では、主に証券市場の持つ役割、証券取引所と証券市場の関係、本則市場と新興市場の違いなど解説して、後編では新興市場の種類とその形式基準について詳述します。

証券市場の役割

証券市場を一言で簡単に定義すると、株を売りたい投資家、株を買いたい投資家の取引をマッチングしてくれる場所と言えます。

証券市場を通じて、企業や個人等の投資家は株を売りに出したり買いの注文を入れたりすることで取引が成立します。

ただし証券市場は売り手買い手のマッチングは行っていますが、個人から直接注文を受けているわけではありません。

株の注文に関しては証券会社がその役割を引き受けています。

たとえば個人が証券市場で株式を注文したい場合、まずは近くの証券会社に証券口座を開設する必要があります。

そして証券口座が開けたら、次は証券会社に対して売買したい株式銘柄を指定して注文し、注文を受けた証券会社は証券市場に売買の条件を出して取引の成立を待ちます。

このように証券会社は投資家等と証券市場の間の仲介役を担っています。

では証券市場を通じて取引するメリットとはなんでしょうか?

メリットは主に2つあります。

1つ目のメリットは投資家が安心して株式を売買できる点です。

証券市場に上場している会社の株式銘柄は全て、事前に厳しい審査を通った銘柄ばかりです。

そのため未上場の株と比べて証券市場に登録されている株は誰でも安心して売買取引ができます。

もちろん株ですから会社業績の悪化等が原因で株価が値下がりするリスクはあります。

しかし市場でその会社の株を売りたい・買いたいと考えている法人や個人の投資家がいる限り、株を好きなタイミングで取引できるのは大きな魅力です。

また証券市場では、各々上場銘柄に関して、当該企業の業績推移、配当情報等、重要な投資情報が公開されているので、投資家は開示情報をもとに適宜適切に株を売買する判断ができます。

2つ目のメリットは、会社は自社株を売れる機会を作れる点です。

企業が証券市場に上場できれば、会社は市場を通じて投資家に自社株を自由に売買してもらえるようになります。

特に事業での資金調達等を目的として新しく株式を発行する場合、証券市場を通じてその事実を広く周知してもらえるので、自社株を売りやすくなります。

企業にとって、銀行融資以外に資金調達手段が増えることは資金繰りの安定という点からも大きなメリットです。

このように証券市場の活用は、投資家・企業双方にとってメリットが多く、大変重要な場所と言えるでしょう。

証券取引所と証券市場の関係

次に証券取引所と証券市場の関係について見ていきましょう。

この両者の関係を簡単に言うと、証券市場は証券取引所の中にあります。

すなわち「証券市場」<「証券取引所」の関係になります。

別のコンセプトでイメージしてもらうと、ショッピングモールが証券取引所で、ショッピングモールに入っている各業種テナント(店舗)が証券市場という感じです。

証券取引所は規模的には東京証券取引所が最も大きく、他に証券取引所が名古屋、福岡、札幌の3ケ所にあります。

日本全国には株式会社等の法人数が約280万社(会社標本調査結果/国税庁令和2年度調べ)

ありますが、その全ての会社の株式が証券取引所で売買されているわけではありません。

証券取引所に登録されている上場法人の数は全体数からすれば極少数です。

しかし一方で日本経済に与える影響度では、上場企業の貢献度はかなり大きいと言えます。

さて証券取引所で売買されている株式のことを上場株式と言い、株式を証券取引所に上場している会社のことを上場会社とよびます。

このうち東京証券取引所では、現在3,869社が上場しており、東証の各証券市場を通じて日々活発に上場株式の売買が行われています。

参照先:JPX/上場会社数・上場株式数(2022/12/29現在)

https://www.jpx.co.jp/listing/co/index.html

東証の証券市場は2022年4月現在3つあり、それぞれ市場コンセプト毎に、各々の形式基準を満たした企業が上場して自社株式の売買を行っています。

以下が東証における3つの証券市場の名称及び市場コンセプトです。

参照先:JPX/新規上場基本情報

https://www.jpx.co.jp/equities/listing-on-tse/new/...

前段で証券取引所と証券市場の関係を、ショッピングモールと店舗(テナント)の関係でイメージしていただきましたが、一点だけ注意点があります。

それは証券市場で全ての株が買えるわけではないということです。

たとえば顧客がある買いたい商品があって、ショッピングモール内のあるお店に行ったとしましょう。

しかしそのお店には目的の商品がなく、お客さんは当初の目的を果たせませんでした。

なぜでしょうか?

それは顧客が買いたかった商品が、店舗側からすると売り場に置くだけの基準を満たしていなかったからです。

じつはこれは証券市場においても同じ原理が当てはまります。

証券市場では、市場に参入してくる誰にでも安心して簡単に株が売買できるよう、証券市場毎に取扱い株について厳しい審査をしています。

これを上場審査と言い、上場審査に通らない株式はその証券市場では売買できません。

まさにこれが、いくつ証券市場があっても全ての株が売買できない理由なのです。

本則市場と新興企業向け市場の違い

最後に本則市場と新興企業向け市場の違いについて解説します。

証券市場にはそれぞれ株式上場するため、企業がクリアしなければならない個別の上場審査基準が定められています。

また日本の証券取引所は東証以外に名古屋、福岡、札幌に証券取引所がありますが、各々の証券取引所でまた複数の証券市場に分かれています。

このうち、その証券取引所においてメインとなる市場のことを「本則市場」または「一般市場」と呼び、新興企業向けに作られた市場(新興市場)と区分して運用されています。

2022年12月末現在、各証券取引所における本則市場と新興企業向け市場の名称及び区分は以下の通りです。

※市場の名称については、各証券取引所の呼び方を踏襲しています

例えば東証本則市場(スタンダード市場)においては、企業が上場を満たすための形式基準として、株主数が400人以上、流通株式数2,000単位、流通株式時価総額10億円以上、流通株式比率25%以上など、様々な規則があります。

またコーポレート・ガバナンスや企業としての継続性・収益性等にも厳しい審査基準があり、これらを全て満たして初めてスタンダード市場に相応しい会社として上場が可能です。

さらに企業がプライム市場に上場する場合、より高い審査基準が設定されているので上場は容易ではありません。※

一方、東証にも新興企業向け市場(グロース市場)が開設されており、こちらはプライム及びスタンダード市場ほど審査基準は厳しくありません。

ただし新興企業が上場する際に必ず必要とされる形式基準が別途設定されています。

参照先:JPX(日本取引所グループ)/上場審査基準

https://www.jpx.co.jp/equities/listing/criteria/li...

同様に名古屋、福岡、札幌の各証券取引所においても本則市場と新興企業向け市場があり、それぞれ個別に形式基準が定められています。

なお、各新興企業向け市場の概要や形式基準の詳細については「後編」にて解説予定です。

※東証においては、過去の上場審査や現状の上場実態の反省を踏まえ、2022年4月から証券市場の再編(市場区分の見直し)が行われました。その際、従来形式基準が緩いとされていた指定替え(上場する市場が替わること)や市場変更(たとえば新興市場に上場している企業が上位市場に変更すること)の基準も新規上場の際の形式基準が踏襲されることになり、実質な審査基準の強化がなされました。

終わりに

新興企業向け市場の種類と形式基準に関して、前編では、主に証券市場の持つ役割、証券取引所と証券市場の関係、本則市場と新興市場の違いなど詳しく解説してきました。

これからIPOをめざす準備企業としては、ひとまず本則市場へのアプローチは置いて、まずは新興企業向け市場に上場することが当面の目標となります。

そのためにもまずは上場をめざす当該新興市場の形式基準を全て満たすことが肝心です。

次回後編の記事においては、各新興企業向け証券市場の種類とその形式基準についてさらに掘り下げて解説します。

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