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​IPOにおける会計制度の整備(その1)

camera_alt 寄稿者 Shutterstock_Drozd Irinaさん

はじめに

会計制度とは、株主や取引先、金融機関等、企業のステークホルダーに対して、会社の会計情報の提供を目的として、法律・制度の枠組みの中で行われる会計のことをいいます。

また会計制度には大きく分けて財務会計(企業会計)と税務会計の2種類あり、日本の企業はどちらかに基づき会計処理しているのが実態です。

IPOをめざす前の段階において多くの企業は税務会計に基づき決算書を作成していますが、IPOをめざす場合、準備企業は財務会計(企業会計)に基づき決算書類(財務諸表)を作成する必要があります。

企業内部だけなら会計基準や勘定科目等を関係者が理解しやすいよう独自にアレンジすることは可能ですが、自社株式の売出しやIPOの際には、株主や投資家等、外部のステークホルダーにとって有用な情報を提供するため、現行の法律や制度に基づく会計処理が必要です。

今回の記事では、「その1」、「その2」に分けて、IPOにおける会計制度の整備について解説します。

「その1」では、会計制度の種類や違い、現状の会計制度の実態、IPO準備企業が整備すべき会計制度など説明して、「その2」では、会計制度の整備で留意する項目、整備スケジュール等について詳しく解説します。

会計制度の種類と違い

2022年11月現在、日本の企業の会計情報は主として2つの会計制度に基づき処理されています。

財務会計(企業会計)と税務会計です。

そのうち、既存の上場企業や会社法で定められている大企業(※)等は財務会計(企業会計)に基づき会計処理を行い、日本の株式会社の99%を占める中小企業は主に税務会計で会計処理を行っています。

この章では、財務会計(企業会計)と税務会計について説明し、次に両会計制度の違いについて解説します。

(※)会社法で定義する大会社とは、「資本金5億円以上または負債総額200億円以上の株式会社」

財務会計(企業会計)

財務会計(企業会計)とは、会社法(2006年施行)、金融商品取引法(2007年施行)に基づき決算書(会社法では計算書類、金融商品取引法では財務諸表)を作成するための会計制度です。

いずれも株主、投資家等、外部のステークホルダーに対して会社の財務情報を提供する基礎となる会計ですが、法律施行前は商法、証券取引法の枠組みの中で制度会計が確立されていて両者に相違がありました。

しかし施行後はそれぞれの制度で作られる財務諸表に相違が少なくなったので、現在両者はキャッシュフロー計算書の有無などを除きほぼ同じ財務情報として取扱いされています。

企業は企業会計原則含む各種会計基準に基づき、会社法に沿い計算書類(貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書)を作成して株主や国・地方自治体等の関係諸機関に報告する一方、金融商品取引法に沿い財務諸表(貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、キャッシュフロー計算書)を作成して、証券取引所を通じて投資家等のステークホルダーに定期的に情報提供しています。

税務会計

税務会計とは、法人税等の税法に基づき、税務申告を主目的として、税法へ準拠することを最優先とする会計制度のことです。

税務会計では、全ての営利法人の課税の公平を目標に、法人の課税所得の算定の仕方を規定しています。

上記を背景として、税務会計は主に企業に課税される所得の額を算出するために使われ、その結果は国や地方公共団体等に報告され活用されています。

そのため税法に沿って処理される税務会計には、財務会計的には認められない項目も多くあり、会社として決算書を作成する際には、手順としてまず財務会計に沿って書類を作成して、その後、税務会計に基づき修正作業して税務申告書を作成します。

しかしこの作業を法律や制度に則り杓子定規的にやると煩雑な手続きになることも多く、そのため決算処理で必ずしも会社法、金融商品取引法に厳密に従う必要のない会社においては、最初から税法を最優先して決算書の作成を行うのが一般的です。

財務会計(企業会計)と税務会計の主な違い

上記で説明してきたように、2022年11月現在、日本の会計制度は立法趣旨の異なる会社法、金融商品取引法、そして法人税法から成り立っています。

このうち、会社法、金融商品取引法に基づくのが財務会計で、債権者、株主、投資家などの保護を制度の趣旨にしています。

一方法人税法に基づくのが税務会計で、企業の法人税額をきちんと計算することが制度趣旨です。

この二つの会計制度は主に費用(税務会計では損金)の取扱いに大きな違いがあります。

上場企業や会社法上の大会社に適用される財務会計では、投資家保護が前提にあるため、業務上で発生する不測の費用や損失などのリスクは早めに織り込むという考え方で会計処理されます。

一方税務会計は、課税対象額である所得をきちんと計算する会計制度のため、費用(損金)は実際に発生したものに限定されており、将来発生する可能性のある費用までは含まれていません。

その結果、費用(損金)は少なく計上され、税務会計で計算された所得は財務会計で計算された所得より大きくなる傾向にあり、さらに納税額も増えるということになります。

同様な取扱いは収益(税務会計では益金)の計上方法でもあり、費用(損金)を含めた計上方法の差が、財務会計上の利益と税務会計上の所得に差が出てくる違いとなっています。

日本企業における会計制度の実態

前章では、財務会計と税務会計の主な違いを見てきましたが、では現在の日本企業、特に株式会社において、利用している会計制度の実態はどのようになっているでしょうか?

現状において財務会計への対応が必要なのは、会社法で公認会計士による財務諸表監査が義務となっている会社、具体的には既存の上場企業や会社法に定める大会社、あるいはこれからIPOをめざす準備企業などです。

しかしその数は日本の会社総数から比べると極めて少数です。

日本では現在200万社を超える数の株式会社がありますが、その会社のおよそ99%以上が上記のような公認会計士による財務諸表監査を必要としない中小企業であり、会計制度も税務会計に基づき会計処理している企業群です。

もちろん会社法は法人税法より上位概念なので、会社が本来実施すべきは会社法に基づく制度会計(税務会計)への対応です。

しかしほとんどの営利法人が税務会計に基づき会計処理を行っても問題になることはありません。

なぜでしょうか?

それには主に2つの理由があります。

ひとつは税務会計に基づき会社が作成した財務諸表のチェックが必要なのは主に管轄内の税務署のみであり、税務当局が問題視しない限り、その財務諸表は有効とみなされること。

そしてもうひとつの理由は、税務会計に基づき会計処理している株式会社の株主・出資者は大半が経営者本人または同族限定なので、関係者がその決算を容認すれば特に社内で問題が起こらないことなどです。

以上から現在の日本企業において会計制度は2極化の状態にあります。

しかしこれから会社がIPOをめざすようなら、たとえ現状その企業が税務会計に基づき会計処理していても話は大きく変わってきます。

IPOをめざす準備企業では会計制度の大きな変更が必要となります。

その理由を次章において解説します。

IPO準備企業が整備すべき会計制度とは?

日本国内において企業がIPOをめざさない限り、仮にその会社が法人税法に基づく税務会計で決算書を作成していても、当面問題になることはありません。

しかし会社が成長して事業規模も大きくなり企業がIPOをめざすようになると、その動きに合わせて会計制度も変更と整備が必要になってきます。

IPO準備企業にとって、IPOが実現すれば上場後に自社株式の売り出しも可能となり、その結果、多くの利害関係者を有することとなります。

その利害関係者・ステークホルダーに対して、会社法・金融商品取引法という法律に沿って財務会計に基づき正確かつタイムリーな財務情報を提供することは、当然会社の義務となります。

もちろん財務会計で作成された財務諸表を有効に機能させるために毎年の公認会計士による財務諸表監査も欠かせなくなります。

しかしIPO準備企業が、それまで決算処理で準拠してきた税務会計を急に財務会計に変更しようとしても簡単にはいきません。

社内での体制作りも含めて多くの準備期間が必要になります。

財務会計には、法人税法(税務会計)では容認していない費用項目、例えば減損会計、資産除去債務、各種引当金などあり、財務会計への変更と共にこれらの項目への対応が必要です。

さらに最近では2021年4月から適用されている新会計基準(収益認識基準等)への対応も考えねばなりません。

このようにIPOをめざす企業は、準備段階で税務会計から財務会計へと会計制度を変更する際、監査法人やIPOコンサルティング会社等の外部専門家の支援を得て、時間をかけて整備しなければならない項目が多々あるのです。

終わりに

「その1」では、会計制度の種類や違い、現状の会計制度の実態、IPO準備企業が整備すべき会計制度など、詳しく説明しました。

次回「その2」では、IPO準備企業が会計制度の整備で留意する項目、整備スケジュール等について解説します。

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