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IPOの労務管理その3

camera_alt 寄稿者 Shutterstock_Hadayeva Sviatlanaさん

はじめに

IPOの労務管理に関して、これまでシリーズその1及び2において、「就業規則・規定の整備及び適正運用」「サービス残業の排除」「社会保険の適正加入・法改正による適用拡大」など解説してきました。

もちろんこれらは企業の労務管理の核となる重要項目ですが、時代の変遷や経営環境の変化の中、新しく企業の労務管理に必須項目として加えられてきたものも少なくありません。

それが「パワーハラスメント対策」「働き方改革関連対策」「テレワーク勤務対策」などです。

本記事では、IPOの労務管理シリーズその3として、上記項目に関して詳しく解説します。

労務審査4 パワーハラスメント対策

IPOの労務管理に係り、IPO準備企業が対策しておかねばならない項目にパワーハラスメントがあります。

パワーハラスメントとは、2020年6月に制定された「労働施策総合推進法」第30条の2で以下のように定義されています。

「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、その雇用する労働者の就業環境が害されること」

この法律は、パワーハラスメントに関して、当該労働者から会社に相談があった場合、会社は相談に前向きに応じるとともに、必要な体制の整備、その他雇用管理上必要な措置を講じなければならないことを求めています。

現在はインターネット環境が発達しており、実際に社内でパワハラが起きると、その内容がツイッター等のSNS手段を通じて世間に瞬く間に広がるリスクがあります。

いったん事実が世間に広まると、憶測も入ってその会社の評価が下がり、企業として受けるダメージは甚大です。

それがさらにIPO準備中の会社だと、審査やIPOスケジュールに影響を受けかねないので、パワハラに関して絶対起こらないようしっかりした対策が必要です。

またハラスメント(人を困らせること、嫌がらせ)には様々な種類があり、会社内で起こるハラスメントはパワーハラスメントだけではありません。

性別差別に起因するセクシャルハラスメント、育児や介護に関するマタニティ(パタニティ)ハラスメント、ケアハラスメントなどもまた企業として対策しておくべき項目です。

ハラスメントに関し、それぞれ男女雇用機会均等法(第9条、第11条)や育児介護休業法(第10条、第16条)で労働者は保護されているので、もしマタハラやケアハラが社内で発生すれば罰せられるのは会社そのものです。

会社にはそういうハラスメントを全て防止しなければならない義務が課されています。

そこで会社が取れる対策として、就業規則の中で企業の方針としてハラスメント防止を明記して、全社員に周知徹底するという方法があります。

またハラスメントに関する研修を定期的に社員に対して行い、ハラスメント防止の方策を講じることも有効です。

ハラスメントは起こってから対策するのでは遅く、事前の防止が重要なのです。

参照先: 労働施策総合推進法

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=341AC0000...

参照先: 男女雇用機会均等法

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=347AC0000...

参照先: 育児介護休業法

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=403AC0000...

労務審査5 働き方改革関連対策

働き方改革関連に対する事項も、労務管理面でIPO準備企業が対策しておかねばならない項目です。

2018年6月「働き方改革法案」が成立して、2019年4月には大企業が、2020年4月には中小企業に残業時間の上限規制が施行されたため、働き方改革がIPO審査における労務関連分野のトレンドになっています。

今後IPO準備企業には、時間外労働や休日労働管理に関する事項への対応が厳しく求められることは明らかです。

働き方改革法案の残業上限規制の骨子は以下のようになります。

時間外労働の上限規制は原則月45時間、年間360時間まで、ただし上限は繁忙期等に配慮して、6カ月までは45時間を越えることができ、かつ年間で720時間以内まで労働可能です。

ただし休日労働を含めた場合、単月で100時間未満、複数月平均で月80時間以下と定められました。

もちろん企業がこれに違反して従業員を労働させると、罰則として6カ月以下の懲役か30万円以下の罰金に処せられます。

またIPO準備企業の場合、この動きにはこれまで以上にセンシティブな対応が求められます。

「働き方改革法案」の成立で労働時間管理のハードルが上がったので、IPO審査でも厳しくチェックされることは必須です。

IPO準備企業において、従業員の実際の労働時間と自己申告による労働時間に相当の乖離があった場合、ましてや過重労働による過労死事件などが発生した場合には、いくら他の分野できめ細かく対策していても、上場審査が延期されるどころか、上場を断念せざるを得なくなる可能性さえあります。

IPO準備企業には、労務審査でこのような指摘を受けないよう、事前の計画的かつ入念な労務対策が必要です。

参照先:中小企業庁 働き方改革関連法の概要と時間外労働の上限規制

https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/kanko...

労務審査6 テレワーク勤務対策

テレワーク勤務もまた、IPO準備企業が労務管理上、対策しておかねばならない項目のひとつです

近年働き方の多様化やコロナウィルス対策で注目され、企業によって活用されるようになってきた働き方が在宅勤務です。

またテレワーク、あるいはリモート(遠隔)ワークという勤務形態もありますが、在宅勤務はこのテレワークの1つの形態で、テレワークの概念が在宅勤務の概念よりより広いといえるでしょう。

テレワークは働く場所や勤務時間等にとらわれない柔軟な働き方が特徴で、社員の自宅で働く在宅勤務、取引先オフィスや移動中のバス飛行機等の中で業務を行うモバイルワーク、専門業者が提供するシェア・レンタルオフィスを利用して働くサードプレイスワークなど、その態様は色々です。

テレワークのメリットとして、利用する従業員側には、電車通勤から解放され移動時間が削減できる、労働時間に自由度が増し空いた時間を育児や介護、家事等に利用できる、労働生産性の向上、個人生活の質の向上につながるなどがあります。

一方会社側にとっても、少子化等から有能な社員の確保が難しくなっている現状で、リモートワークを活用することで、専業主婦(夫)やシニア層の潜在的労働力を再活用できるというメリットがあります。

一方在宅勤務含むリモートワークは、会社側にとって「労働時間の管理が難しい」「労働時間の管理を全て社員に任せると、管理外の長時間労働から意図せずして労務問題に発展する」「会社の機密情報が社外に漏れる」など、各種のデメリットも存在します。

さてIPOをめざす企業にはベンチャー企業も多く、このようなリモートワークを使って社員に多様な働き方を認めている会社もあるでしょう。

しかしリモートワークでも、法定上、社員が一定の労働時間を過ぎて働けば残業代を支払う義務があり、未払い残業代に関する項目がIPO審査の重要ポイントであることを考えれば、テレワーク採用企業でも会社がいかにきちんとワーカーの労働時間の把握をしておくことが大事か分かります。

テレワークそのものが、会社側が社員の働いている時間を把握しにくいという働き方なので、労働及び残業時間の管理や把握についても、会社は通常以上に注意しなければなりません。

そのため会社としては、正確な労働時間の把握のため、テレワーク中の社員に対して、深夜及び休日等の就業を禁止したり、する場合には事前許可制を取り入れたりするなどの対策も有効です。

またテレワークの特徴として会社が、社員が就業時間中に別の目的で中抜けする時間を認める、休憩時間をずらすことを認めるなど、柔軟な対応をとるケースもありますが、これにも注意点があります。

安易に中抜け時間や休憩時間の変更を認めることで、終業時間が遅れることになり、結果として法定上の就業禁止時間に抵触して、後で未払い残業時間が発生してしまうという可能性も出てきます。

このように、テレワークにも様々な注意点が存在するので、IPOをめざす企業としては、労務監査の機会に、あるいはその都度、テレワークを行う社員の労働及び残業時間や会社の把握方法に問題がないか、きちんとチェックしておきましょう。

終わりに

IPOの労務管理その3として、「パワーハラスメント」「働き方改革」「テレワーク勤務」に対する会社の取るべき対策を詳しく解説しました。

IPOの審査では「労務管理」は極めて重要なチェック対象になります。

労働に関する法令を遵守していない会社は、企業としての継続性や健全性に安定を欠いており、上場会社としてふさわしくないと審査で判定されるリスクが高いです。

一方でIPO審査を無事に通過して上場できれば、会社としての知名度が高まると同時に、会社の労務管理体制や社員の福利厚生が適切に構築されていることが公に認められて、優秀な人材からの応募や会社の人材力強化につながります。

その点からもIPOの労務管理に関して、IPO準備企業は全力で対策に取り組む必要があると考えています。

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