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IPOにおける予算管理制度の整備(その1)

camera_alt 寄稿者 Shutterstock_VideoFlowさん

はじめに

予算管理とは、予算と実績の数値を比較して、数値に差異があった場合、その差が生じた理由を分析して原因を探り改善を図っていく一連の作業のことをいいます。

IPOの審査では、上場予定企業に対して「形式要件」「実質要件」の2種類の基準に基づく審査が行われており、申請会社はIPO実現のため、上場市場ごとに決められた各要件を満たして審査をクリアしなければなりません。

このうち新しく上場する企業の登竜門ともなるグロース市場においては、「実質要件」の中に「事業計画の合理性」という項目があり、その審査基準をクリアするためには「予算管理」が必要不可欠になっています。

またプライム・スタンダード等他の市場で上場する場合でも、同様の観点から審査が行われます。

さらに予算管理は内部統制面からも大事な審査ポイントです。

今回はIPOの審査上、また経営管理上も欠かせない予算管理制度の整備につき、(その1)として、IPOにおける予算管理制度の概要、予算の体系、予算管理制度導入の目的など、詳しく解説します。

IPOにおける予算管理制度とは

東京証券取引所にある3つの市場の一つ、グロース市場では、形式要件(有価証券上場規程第217条)に適合する申請会社を対象として、実質審査基準に基づくIPOの上場審査を行っています。

実質審査基準(実質要件)は、上場会社として必要とされる5つの適格要件で構成されており、具体的には以下の5つの項目です。


参照先:JPX日本取引所グループ 2022新規上場ガイドブック(グロース市場編) 4.上場審査の内容

https://www.jpx.co.jp/equities/listing-on-tse/new/...

実質審査基準に基づく上場審査では、この5項目のどれを欠いても申請企業はIPO審査をクリアできませんが、項目4の「事業計画の合理性(業績予想の精度が高いこと)」を担保しているのが「予算管理」です。

上場申請企業は、上場後の予算統制(※)や開示業務を想定して、現状の予算管理の整備を図ることで事業計画の合理性を高めていくことができます。

(※)予算統制とは、策定した予算と実績の差異を縮めていくための取組のこと

予算の体系について

ここで予算管理制度の体系についてあらましを説明します。

予算の体系の一例を示したのが以下の図表になります。

※総合予算は、貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書(いずれも見積ベース)で構成される

予算はIPO審査でも重要視される会社の中期経営計画の一部を構成する単年度計画の一部です。

そのため単年度計画における予算の設定も、中期経営計画の策定と同様な方法により、同様のプロセスを経て行われなければなりません。

すなわち中期経営計画との整合性を取りながら、中期経営計画の策定時期も考慮に入れて、企業目的を達成するための事業計画及び数値計画を作成することになります。

また予算作成作業は、経営陣からのトップダウンと社員側からのボトムアップの折衷方式を採って行われることが望ましいです。

予算管理制度導入の5つの目的

IPOでは以下の観点から予算管理制度の導入が必要です。

予算管理制度の主な導入目的を5つ紹介します。

1.会社の長期経営計画の実現を保証するため

上場申請会社の予算管理は、IPOで審査される中期経営計画の実現可能性を高めるためにも必要ですが、同時に長期経営計画の実現を保証するためにも不可欠です。

一般的に中期経営計画は期間が3~5年で設定され、長期経営計画は5~10年のスパンで策定されます。

経営計画は長期になればなるほど実現のための不確実性が増していくので、その分、計画の土台となる月次予算、年次予算等の計数管理がきちんと行われている必要があります。

2.予算と実績の差異分析から改善策を考え、業績を向上させるため

予算管理では、当初に立てた予算と実績の間に乖離があった場合、その原因を探り、改善策を立てて次期以降の経営にフィードバックします。

予算管理自体、自律的にその乖離を縮める機能を持っているので、効率的に予算管理を行うことで会社の業績向上にも貢献します。

この機能はIPO審査の重要項目でもある中期経営計画を確実に実現させるためにも必要です。

3.各事業部門の責任と功績を明らかにして、業績評価の参考とするため

予算管理は会社の各事業部門の責任と功績を明らかにして、業績評価の参考にするためにも必要です。

IPO審査では、申請会社の各事業部門が立てた予算と実績をモニタリングして、申請会社のビジネスモデルが事業環境に合ったものか、各事業部門の経営に対する貢献度や安定性・成長性、経営上の問題点やリスクなど、様々な点をチェックします。

一方IPO審査を受ける会社側としては、予算統制で各事業部門の責任と功績が数字で可視化されてくるので、達成数値に予算との乖離があれば、その原因を作った事業部門中心に早めに対策を打つことで、本審査前に差異を埋める作業が可能になります。

4.次期以降の予算設定の参考資料とするため

上場予定企業にとって、予算管理制度はIPO時だけでなく、上場後も引き続き予算を設定する際に役立つので導入が不可欠です。

会社においては、当初に立てた予算と実績の数字に差異が出た場合、その差異分析の過程で予実差が発生した原因や経営上の課題及び問題点が浮き彫りになってきます。

原因や課題が可視化されれば、それらに対する対策も可能になり、対応の結果を参考にして次年度以降はより合理的な予算設定ができるようになるでしょう。

5.株主に対する適切な情報開示を行うため

予算管理制度の整備は、会社の株主に対する適切な情報開示のためにも必要です。

上場審査では事業計画の合理性を担保するため、予算が合理的な根拠の基に策定されたものであること、緻密な差異分析と見直しで極力予算と実績が乖離しないことが求められます。

しかし上場すれば、予算計画と実績数値に売上額で上下10%、経常利益または当期純利益で上下30%の差異の発生が見込まれた場合には、直ちに決算短信等の適時開示の業績予想の修正が求められるようになります。

株主が適時適切な投資判断を行うためにも、会社によるタイムリーな情報開示が必要であり、それを担保する迅速かつ精度の高い予算管理が重要なのです。

おわりに

IPOにおける予算管理制度の整備として、予算管理制度の概要や予算の体系、予算管理の導入目的など、詳しく解説しました。

次回IPOにおける予算管理制度の整備(その2)では、引き続き後半部として、予算管理制度のサイクル、予算管理制度の整備の留意点など、詳しく解説します。

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