IPOにおける内部監査とは(その1)
はじめに
IPOにおいて会社の経営状態をチェックする監査には、その対象に対して外部(公認会計士または監査法人)が行う外部監査と組織内の人員による内部監査があります。
そのうち内部監査は、法令上実施を定められたものではありませんが、経営状態のチェックや不正の未然防止及び経営リスクの管理上、上場企業には不可欠であり、IPO審査でもとても重要視されています。
本記事ではIPOにおける内部監査のうち、(その1)として、内部監査の定義やIPOにおける内部監査の役割、内部監査の流れ(準備編)について詳しく解説します。
内部監査とは?
内部監査とは、自社の経営について、組織内部の人員が自らチェックすることをいいます。
また内部監査を通じて主に以下の2つの点が確認されます。
・経営が事前に定めた規則やルールに基づききちんと業務が行われているか
・経営上の様々なリスクを把握して、不正や事故等が発生しないよう未然防止を図ったり都度対策を打ったりしているか
内部監査は上記2つの事項を確認しつつ、同時に内部監査自体が会社の利益に寄与することや、改善が必要な点について対象の部門に対して助言や指導を行うことが求められています。
なお内部監査の必要性や目的に関しては、一般社団法人日本内部監査協会が出している「内部監査基準(2014年改訂)」が参考になります。
https://www.iiajapan.com/pdf/guide/20140601_2.pdf
IPOにおける内部監査の役割
では企業がIPOする際、内部監査にはどんな役割があるのでしょうか?
一般的に会社が上場すると、株式発行を通じて投資家や個人株主など利害関係人が増加するため、外部から会社の経営体制について、適切な管理がより強く求められるようになります。
さらに上場企業では、不祥事の発生が投資家等、多くの利害関係者に悪影響を及ぼすため、コーポレートガバナンスの強化が求められます。
そこで上場予定企業に対しては、コーポレートガバナンス強化の一翼を担う内部監査部門の設置が必要になってくるのです。
IPOを契機に企業内に設置された内部監査部門に対しては、社内に十分な管理組織が整備運用されているかどうか、業務上の不正や事故を未然防止して適切な対応が取れているか、など厳しくチェックする役割が求められています。
IPO プロセスにおける内部監査の流れ
次にIPOにおける内部監査の流れを解説します。
IPOに係る内部監査の設置及び運用については、内部監査の準備期間に相当する「直前々期以前(N-3期)~直前々期(N-2期)」と本格的な運用期間となる「直前期(N-1期)~申請期(N期)」に分けて説明します。
直前々期以前(N-3期)~直前々期(N-2期)
内部監査の準備期間に当る「直前々期以前(N-3期)~直前々期(N-2期)」では、主に以下の項目を実施して内部監査の本格的運用に備えます。
・内部監査の方針及び実施計画策定
・内部監査規程の策定
・内部監査部門の設置
・内部監査人の選任
・予備調査の実施
内部監査の方針及び実施計画策定
IPOにおいて内部監査に着手するには、まず内部監査方針の策定、実施計画の策定が必要です。
監査方針の策定では、会社の経営目標の達成を念頭に置いて、監査の方向性、対応する人員、必要な予算などを決定します。
またこれは会社の重要決定事項のひとつなので、代表取締役や取締役会が責任を持って決めます。
監査方針が決まると、次はその監査方針に基づき実施計画を立てていきます。
監査計画の策定では、監査の対象部署、監査項目、監査日程などを決め、最終的に年度計画書(監査計画書)にまとめます。
また監査計画書では、基本的に自社の全ての業務を網羅しておくことが肝心です。
もちろん監査実施計画も策定できれば代表取締役や取締役会の承認が必要になります。
内部監査規程の策定
次に内部監査規程を策定します。
内部監査の実施には、その設置根拠である「内部監査規程」が必要であり、取締役会の承認を得て正式な規程にします。
内部監査規程では、監査の対象、監査方法、監査時期及び監査実施者など、内部監査に係るルールを詳しく定めておきます。
内部監査部門の設置
内部監査規程の策定と併行して内部監査部門(室)を設置します。
また新規部門の設置となるので、ケースによっては組織規定や業務分掌規定等の変更も必要になります。
内部監査部門の設置では、実施者が監査をしやすくなるよう、社内の他の部門から完全に独立していることが必要で、また専任の内部監査担当(内部監査人)を配置することが不可欠です。
内部監査人の選任
内部監査人の専任については、大きく分けて3つの方法があります。
社内からの登用、外部から招請、そしてアウトソーシングです。
まず内部監査人を社内の人員から登用するのは、やり方として最も簡便な方法です。
しかしIPOを目指すような会社では、通常成長に欠かせない営業部門等に人員を配置することが多く、内部監査のような管理部門に人員を割ける会社は少ないですし、また社内監査の経験者が少ないのが普通なので社内登用も困難を伴います。
また社内登用の場合、他部門の責任者を内部監査室の責任者として兼任させることも可能ですが、その場合でも自部門の監査を監査者本人はできないので、最低限2名の監査人を選んで交互に監査するという対応が必要になります。
会社の事情で社内登用が難しい場合、社外から中途採用で内部監査の経験者を採用して内部監査人とする方法が考えられます。
外部にうまく候補者が見つかれば本人にすでに内部監査の経験があるので会社としても効率的ですが、一方で日本では上場企業の数自体が少ないので、内部監査経験者の絶対数も少ないという現実があります。
IPOのタイミングで都合良く内部監査の経験者が見つかるということにはなりません。
そこで最後の方法として、アウトソーシングで内部監査を依頼するという方法が考えられます。
現在は管理部門を中心に様々な業務代行サービスを提供している外部業者がいるので、内部監査に係るアウトソーシング業者と契約して一定レベルの監査品質の監査を受けることで、社内の人材不足をカバーできます。
また社内にも内部監査人を置き、外部業者と共同で監査業務をさせることで、その監査手法や監査技術を学ばせるコソーシングというやり方も可能です。
予備調査の実施
IPOの準備期間内では、本格的な内部監査の前に予備調査の実施も必要です。
当初に決めた監査計画に基づき、監査対象となる部門に対して本監査の1~2ヶ月前に予備調査を実施します。
内部監査を有効かつ円滑に実施するためにも事前準備は必要で、予備調査では被監査部門に対して、内部監査の趣旨や実施内容を説明するとともに、監査で必要な資料の事前準備や環境整備も依頼しておきます。
おわりに
IPOにおける内部監査について、内部監査の定義や役割、内部監査の流れ(準備編)について詳しく解説しました。
次回記事、IPOにおける内部監査(その2)においては、続けて内部監査の流れ(実施編)及びIPOにおける内部監査の留意点について解説します。
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