IPOにおける業務管理体制の整備
はじめに
会社の事業活動を支える仕組みの業務管理体制は、IPOのあるなしに関わらず、早急に整備する必要があります。
業務管理体制が十分整っていないと、企業が成長していても、管理体制の不備が業務上のミスを誘発して会社の信用を毀損したり、業務の非効率につながったりして、最終的に収益を失う原因ともなります。
ましてIPOの審査では、業務管理体制の整備は重要な審査項目のひとつなので、早期に整備して準備する必要があります。
今回の記事では、IPOにおける業務管理体制の整備について詳しく解説します。
IPOの内部統制面で業務管理体制の整備の意義とは
内部統制とは、IPOの重要な審査項目のひとつであり、業務の有効性や効率性、財務報告の信頼性、コンプライアンス(法令遵守)、会社資産の保全等の目的達成のために、会社内に整備された規程、ルール、仕組みなどのことを指します。
これらは全社的な内部統制の項目ですが、このうち主に業務の有効性や効率性に関わってくるのが業務管理体制の整備です。
株式上場を目指しているような会社では、売上拡大に重点を置いている企業も多く、スタッフ不足から社員が重要業務を兼務しているケースや、業務管理の仕組みが整備されておらず、ダブルチェックや承認手続が適切に行われていない場合が散見されます。
またそのような会社では、販売や購買という会社の背骨に当る重要業務でも規程やマニュアルが整備されていないことも多いです。
そのため企業が、管理面でのずさんな実態を放置したまま売上拡大を目指しても、社内体制の不備からやがて成長に陰りが出て、せっかく伸びていた成長軌道が鈍化してしまうリスクもあります。
その点IPOは成長企業にとって、まさに会社の弱点でもある業務管理体制の見直しを行い、次の成長に向けた整備を行うチャンスでもあるのです。
IPOに向けた業務管理体制の文書化の実施
IPOに向けて業務管理体制の整備を行う場合、文書化を実施します。
文書化で業務管理体制等の整備を行う場合、まずは社内に専任のプロジェクトチームを組成します。
そしてプロジェクトチーム中心に、各業務部門の協力を得て、業務管理の現状分析、業務管理方法の見直し、規程・マニュアル・フローチャート等の作成および見直しなどを行います。
またこのプロセスでは、一般的にフローチャート、業務記述書、リスク・コントロール・マトリックス(RCM)等の文書、いわゆる3点セットを作成します。
上場審査では、主要な業務処理手続について、このフローチャート類や主要業務に使用した実際の帳票のコピー等をもとに審査するので、3点セットが欠かせないツールとなっています。
ここで各ツールの内容と使用目的を簡単に説明します。
フローチャートは、業務のプロセスを「部門ごとに業務の流れを図式し可視化」した書類です。
使用目的として、会社全体の業務の流れ、業務過程の把握等に利用します。
業務記述書とは、業務内容、実施者、利用システム、作成証憑等、業務の内容や手順について文章で可視化した書類です。
リスク・コントロールの把握や作業内容の理解などを目的に作成します。
RCM は業務上のリスクとそのリスクに対応するコントロールについて対応表にしたツールです。
RCM を作ることで業務上のリスクとコントロールの関係がより明確になります。
なお、上記3ツールについての作成事例は以下のサイトで閲覧できます。
参照先:財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準/金融庁/p92~94
・業務の流れ図(フローチャート)
・業務記述書
・リスクと統制の対応(リスク・コントロール・マトリックス)
https://www.fsa.go.jp/news/r1/sonota/20191213_naib...
上場審査で整備すべき主な業務の管理内容とポイント
IPOで業務管理体制の整備を進めるため、主要業務の流れをフローチャート、業務記述書を作り可視化するとともに、財務報告の信頼性に係るリスク識別のためRCMを作成する必要性を解説しました。
この章ではより個別詳細に、管理が必要な業務の種類と内容、整備ポイントを説明します。
なお以降解説する各管理業務において、IPO審査で共通して確認される項目は主に以下の5つです。
・経営資源の配置や意思決定権限の委譲等が社内規程・マニュアル等に基づき適正に運用されているか
・組織間、担当者間相互で牽制機能が有効に機能して、不正や誤謬の発生を未然防止できているか
・業務上の諸取引が基本約定書や関連規程等の文書に基づき適切に行われているか
・業務面で組織の分業体制がきちんと構築され実質的に機能しているか
・主業務で作成される帳票類が時系列で整理保管されており、かつ事後的にいつでも把握可能か
販売管理業務(含む与信・債権管理)
販売管理は営業に係る業務管理体制を整備するものです。
仮に社内に営業部門がなくてもいくつかの項目で整備が必要になります。
管理が必要な業務の種類と整備ポイントは以下の通りです。
・取引管理…取引先管理台帳の適切な整備
・受注管理…どのような条件なら受注を満たし、受注確定となるのか、現状ステータスの把握など
・販売管理…売上計上基準のルール化(どのような状態だと売上と判断されるか)、売上があがったときの証憑の明確化
・回収管理…入金確認業務と会計記帳業務の分離、売掛金が発生したときの原因把握や入金なったときの消込管理
・与信債権管理…取引先別の与信設定(信用調査、取引条件や与信限度額の設定、見直手続)、売掛債権の回収状況を管理部門と連携して把握管理、貸倒債権の把握と対応など
・契約管理…販売先との契約締結管理
購買管理・外注管理業務
購買外注管理は購買及び外注に係る業務管理体制を整備するものです。
管理が必要な業務の種類と整備ポイントは以下の通りです。
・取引管理…取引先管理台帳の適切な整備
・発注管理…どのような条件なら発注を満たし、発注確定となるのか、現状ステータスの把握、購買先選定基準の明確化、適正在庫水準の設定、納期管理や発注残管理など
・購買管理…発注内容通りに商品、製品、システム等が納品されているか、品質確保のチェック
・支払管理…支払確認業務と会計記帳業務の分離、買掛金発生時の要因把握や解消なったときの消込管理
・契約管理…購買先や外注先との契約締結管理
在庫(棚卸資産)管理業務
在庫管理は棚卸資産に係る業務管理体制を整備するものです。
管理が必要な業務の種類と整備ポイントは以下の通りです。
・適正在庫管理…過去の販売実績から適正在庫額を推定して、適正な在庫水準を維持管理
・在庫移動管理…在庫の返品及び在庫移動の管理
・長期滞留在庫管理…滞留在庫の廃棄処分方法・評価方法の確立及び廃棄の実施
・実地棚卸実施…実地棚卸手続の明確化(定期的棚卸の実施、棚卸差額発生時の原因分析など)
稟議制度
稟議制度とは、会社の事業規模が大きくなると経営陣だけでは都度承認を行うことが困難になってくるので、承認権限を下位の適切な権限者に委譲して、スピーディに意思決定しつつ、かつ意思決定の証拠が書面で追跡できるようにしたものです。
また稟議制度は、販売・購買・在庫等の各業務管理体制とも密接に関連しています。
さらに稟議制度もIPOの準備過程で整備していけばよりよいものが期待できます。
稟議制度に係り整備が必要な項目と整備ポイントは以下の通りです。
・決裁権限規程の策定…規程にて稟議決裁が必要な事項を明記しておく
・稟議書回覧の順番…稟議書回覧順のルール化、厳格運用で例外を作らない
・事後稟議不可の原則…事後稟議案件は原則発生させない
・稟議台帳管理…稟議台帳に案件発生ごと番号を付与し、日時、稟議内容、ステータス等を記載して厳格に管理する
・再稟議発生のケース…稟議承認後に決裁内容に変更があれば、再度稟議を行って承認権限者の承認を得る
おわりに
IPOの重要な審査項目のひとつである業務管理体制の整備について詳しく解説しました。
業務管理体制の整備では、社内外で多くの関係者を巻き込みつつ、相応の時間と労力を掛けて作業に取り組む必要があります。
一方で業務管理体制がきちんと構築・整備されれば、業務の効率性や有効性が高まり、ひいては内部統制における他の側面、コンプライアンス(法令遵守)や財務報告の信頼性確保、資産の保全などにも好影響が及びます。
そのためにも、上場予定企業には、IPOを目指し業務管理体制の整備にさらに前向きに取り組むことが望まれます。
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