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IPOにおける社内規程の整備

camera_alt 寄稿者 Shutterstock_TaTa Ideaさん

はじめに

会社においては、企業の従業員が増加し組織が拡大するにつれて相応の統治機構が必要になってきます。

すなわち、その成長企業の構成員が守るべき全社的な社内ルールと各部門・構成員別に責任と権限がきちんと明示される必要が生じます。

会社の規模が大きくなるということは、実態に合わせた社内のルールの制定が必要ということであり、それを文書化・明確化したのが社内規程です。

今回の記事では、成長企業がIPOする際に必要な社内規程の整備について詳しく解説します。

IPOにおける社内規程の整備の意義

IPOの審査において、どうして社内規程の整備が重要視されるのでしょうか?

IPO前の未上場企業においては、通常会社オーナーに権限が集中したり、組織内で長く在籍している社員に多くの業務が集中したりしているなど、極めて属人的業務運営がなされていることが多々あります。

しかしそれでは当人が病気や事故、退職等で業務から離れなければならなくなったとき、業務運営に支障が出て、社内外の多くの関係者に迷惑を掛けてしまいます。

そんな事態が起こると会社として困るので、IPOで上場を目指すような会社には、特殊事情で事業中断や業務停止に至らないような仕組み作り、個人的属性に拠らない組織的な企業運営を行なうことが求められます。

ここで組織的な企業運営とは、社内での指揮命令系統、部門ごとの業務範囲、業務手続等が明確にルール化されており、合議体としての審議、決裁権限が明確化された役職者による判断等できちんと業務が遂行されることをいいます。

そして社内でそれらをルール化、明確化したものが「社内規程」であり、IPO審査でも、審査上の重要項目として取り扱っているのです。

また社内規程の整備は、会社法及び金融商品取引法においても明確に義務づけられており、内部統制の整備の重要要素として十分対応していく必要があります。

IPOにおいて整備すべき主要な社内規程の種類

IPOにおいて上場予定会社が整備すべき社内規程の種類は多々あります。

たとえば社内規程のうち、重要かつ代表的なものとして以下のような規程があります。

▪組織運営関係規程(取締役会規程、監査役会規程、組織規程、職務分掌規程、職務権限規程など)

▪人事労務関係規程(就業規則、給与規程、退職金規程など)

▪業務管理関係規程(株式取扱規程、関係会社管理規程、販売管理規程、購買管理規程、固定資産管理規程、個人情報管理規程など)

▪経理関係規程(経理規程、原価計算規程、予算管理規程など)

ここに列挙した規程以外でも、総務関連規程やシステム関連規程などあり、さらに会社の規模や業種・業態及び成長ステージ等に応じて整備が必要なものまであります。

一方、会社の業務を全て社内規程でしばると、たとえば今般の新型コロナウィルス感染拡大というような局面で会社対応がうまくいかない場面も現れてきます。

そのため、通常にない特殊な場合には、社内規程から格付けを落とした社内通達のような弾力的機動的ルールを作って対応する必要もあるでしょう。

また上記のような各規程は、その会社における遵守すべき法律といえるものですので、改廃には慎重な対応が求められます。

通常、諸規程の改廃には取締役会の決議が必要となり、都度変更することは難しいため、頻繁に変更が想定される事項については、別途、細則やマニュアル等で定めておいて、取締役会の決議なしにでも改訂できるよう準備しておく必要があります。

社内規程の作成手順

社内規程の整備では、社内規程の作成手順も把握しておくことも大切です。

以下の流れが社内規程の標準的な作成フローになります。

社内規程の作成上の注意点

IPOにおいて社内規程を整備する際の注意点は主に以下の5つです。

社内業務を全て諸規程で網羅できているか

社内規程を整備する際、全ての社内業務は諸規程で網羅できており、かつ管理可能な状態にしておく必要があります。

もし完全に網羅できておらず漏れがあると、IPO審査でその箇所を指摘され、さらに整備に時間が要して予定日に上場できないリスクが発生します。

また諸規程の作成では、原則、基本方針を記載するに留めておいて、詳細な手続においては別途運用細則やマニュアル等を作っておけば、弾力的かつ機動的な業務運営が可能になります。

諸規程が関係法令に違反していないか

社内規程を整備する際、諸規程が関係法令に違反していないか、きちんと留意しておく必要があります。

各社内規程の作成にはそれぞれ準拠しておかなければならない法律があります。

例えば、基本規程や組織関係規程なら民法、会社法、独占禁止法等、人事関係諸規程なら民法、会社法、労働基準法等、経理関係諸規程なら会社法、法人税法、金融商品取引法等、という次第です。

さらに作成された諸規程が関係法令に違反していないか、顧問弁護士からリーガルチェックを受けておけば、その精度はさらに高くなり、IPO審査で指摘を受ける確率がより低くなるでしょう。

複数の規程の作成で、規程間に矛盾が生じていないか

社内規程を整備する際、複数の規程間で相互に矛盾が生じていないか注意して作成する必要があります。

規程間で内容に矛盾があると、実際の業務で各部門に不協和音が発生して、業務の遂行が困難になるケースが発生します。

さらに諸規程の作成過程で特定部門の意見をあまりに取り入れると、他部門の業務遂行に支障をきたすケースも発生して、その結果、運用面で規程が形骸化してしまうリスクもあります。

社内規程の整備時には、あくまで全社的な視点から、規程間でバランスを取って、かつ運用可能性にも配慮した規程作りを心がけましょう。

作成した社内規程が会社業務に実態として適合しているか

社内規程を整備する際、作成した規程が会社業務に実態として適合しているか、しっかり意識して作業しましょう。

社内規程作成のやり方には、自社と類似した企業の社内規程を活用する方法があります。

しかし類似企業だからといって何ら検討なしに規程を導入するには一定の注意が必要です。

類似企業の規程を採用すれば、もちろん作成面で作業効率は上がるものの、他社の規程をそのまま採用すると、自社の実情からずれた社内規程となるリスクがあり、逆に会社業務に悪影響を及ぼすことにもなりかねません。

社内規程は自社の実情に即して初めて有効に機能するので、類似企業の社内規程を採用する際には、自社の実情への適合性はいうに及ばず、さらに運用可能性の観点からも慎重に検討する必要があります。

IPO審査では、最低、社内規程は1年以上の運用実績が必要となる

社内規程の整備では、IPO審査で、最低、社内規程は1年以上の運用実績が必要となる点を失念しないよう注意しましょう。

IPO審査で、社内規程に1年以上の運用実績が必要ということは、具体的には申請期の直前期の1年間、その諸規程が社内で運用されていなければならないということを示しています。

つまり直前期の1年間を実際に運用するためには、最低でも申請期の3事業年度前から諸規程の整備に着手しておかねばならないということになります。

また直前々期には、諸規程を社内で仮運用して、規程内容の不備を発見したり、実情との食い違いを見直ししたりする期間も必要になります。

そして最後に直前期の1年間は、相互矛盾のない実情に沿った社内規程の運用期間に充てることが可能になるのです。

その他社内規程の整備の注意点

IPOで社内規程を整備する際、配慮すべき主な注意点は上記5点ですが、それ以外にも下記のような注意点があります。

・諸規程の運用実績は会社保管の帳票や証憑等で確認できるか

・各規程の管理担当部門が明確化されているか

・諸規程の改廃の手続は、取締役会などで機関決定されるようになっているか

・社内の従業員に周知徹底され、必要な規程はいつでも誰でも閲覧できるようになっているか

おわりに

IPOにおける社内規程の整備について、整備の意義、規程の種類、作成手順、整備・運用の際の注意点など、詳しく解説しました。

IPO審査時の社内規程の重要なポイントは、単に審査上必要だから作成したということだけでなく、上場予定企業に業務遂行上、必要で十分な規程が備えられており、かつ諸規程が実際に有機的に機能しているかどうかという点に尽きます。

社内規程に関しては、常に上記の2つのポイントを意識して作成・整備していくことが肝心です。

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