IPOに係わる関係者と、その選定方法とは?(前編)
はじめに
会社がIPO(株式上場)する際には、上場申請までのスケジュールを踏まえて、円滑に準備行為を進めるためにも社内に専門のプロジェクトチームを組成する必要があります。
一方で上場申請までの長いプロセスでは、上場手続きに係る多くの専門的な事項を処理しなければならず、社内のプロジェクトチームだけでは対応できません。
そのため、各々業務に特化した外部関係者(専門家)と適宜連携しつつIPOの手続きを進める必要があります。
そこでこの記事では、シリーズとして、IPOに係わる関係者のうち、まず(前編)で監査法人の役割や選定方法を解説し、続けて(中編)で証券会社について、そして最後に(後編)として証券印刷会社、証券代行機関、その他の関係者を詳しく解説します。
IPOに係わる関係者の種類
IPOに係る関係者(外部専門家)として、その業務の役割やIPO会社に対する関与度等において大きく5つの関係者に分けることができます。
それは以下の5つです。
①監査法人
②証券会社
③証券印刷会社
④証券代行機関
⑤その他(IPOコンサルタント、顧問弁護士、税理士、社会保険労務士など)
IPO(株式上場)や株式公開に係る手続きは、専門的でかつ準備期間も3年以上掛かるので、その間、様々な業務分野の専門家のサポートが必要です。
適宜適切に外部関係者の支援を受けてIPOを進めれば、途中で発生する様々なリスクも最小限に留めつつ、スムーズに効率よく手続きを進められます。
一方で関係者をどのような基準で選ぶかというその選択方法も重要です。
関係者の選び方次第でIPOに対するパフォーマンスや成功確率も大きく変わってきます。
次章からはまず、IPOの様々なプロセスで専門家として重要な役割を果たす、監査法人の役割とその選択方法を詳しく解説します。
監査法人
監査法人とは
監査法人とは、公認会計士法に基づいて設立される法人です。
企業の財務報告に対して監査証明業務を組織的かつ定期的に行なうことをその目的としています。
IPOに際しては、証券取引所の規則で、上場申請書類に含まれる財務諸表等(申請直前々期及び直前期の2期)について、監査法人による金融商品取引法に準ずる監査を受けて、監査意見をもらう必要があります。
また上場後も監査法人による四半期レビューや期末監査が必要であり、そのためにも監査法人の選定はIPO会社にとって極めて重要な決定事項といえます。
また監査法人の選定の時期ですが、監査難民(監査法人が見つからない)の問題もあり、迅速にIPOを実現するためにも、準備期間の初期段階(申請期の3期前)には監査法人と関係を構築しておく必要があるでしょう。
監査法人の役割
監査法人の役割というと、会社の財務報告の監査証明業務が主目的なため、IPOにおいても申請企業の財務諸表監査にのみ携わるというイメージがあります。
しかし財務諸表の監査では、企業の財務状況や経営体制まで含めて監査するので、通常イメージされるよりかなり広範囲な業務を行なっています。
一方で監査法人はあくまで企業を監査する立場なので、これらの業務は企業から独立して行なわれる必要があります。
IPOに際して、監査法人が果たす業務として代表的なものは主に以下の4つです。
- ショートレビユー(短期調査)の実施…企業の課題抽出
- 内部管理体制の構築の指導…内部管理体制の整備に関する指導助言
- 財務諸表監査…申請直前2期の財務諸表監査及び監査報告書の発行
- 株式上場後の監査及び指導…有価証券報告書・四半期報告書等の開示書類の監査やレビュー実施
監査法人の選定方法
続けて監査法人の選定方法について解説します。
IPOに際しては、以下の4点を基準に自社に合った監査法人を決めるのが適切です。
監査法人が大手監査法人か中小監査法人か
監査法人を決めるとき、基準の1点目がその監査法人が大手監査法人か、中小監査法人かという決め方です。
大手監査法人といえば、日本ではビッグ4と呼ばれる4大監査法人があります。
これら監査法人は各々大きなグループで組織力も充実しており、海外展開も行なうなど、様々な監査サービスを行なっています。
一方中小監査法人は大手監査法人以外のカテゴリーになりますが、その経営規模はスタッフ数で数百名から数名までと様々です。
したがって中小監査法人といっても、大手監査法人に負けないだけの組織力や実力を備えている先もあるので、IPOするからといって真っ先に大手監査法人を選ぶ必要もありません。
選定で必要なことはあくまでIPOに係る自社のニーズを満たし、上場後のストラテジーにも前向きに支援してくれる監査法人を見つけることです。
監査法人の持つ特徴やメリットデメリットをよく見極めて適切な監査法人を見つけましょう。
監査法人としてのIPO取扱い実績は十分か
監査法人を選ぶ際の基準の2点目は、監査法人がIPOの取扱い実績が十分あるかという点です。
IPO申請会社にとって、監査法人はIPOの準備段階から申請後まで最も長く関わりを持つ関係者です。
そのためまずはIPOの全プロセスをきちんと理解して、かつ十分な取扱い実績を持った専門スタッフが在籍している監査法人である必要があります。
とりわけIPO監査では、監査法人内の品質管理レビューが極めて重要になるので、中小監査法人を選ぶ際には、実務をこなす実力がその監査法人にあるかどうか、きちんと見極める必要があるでしょう。
監査する会社の業務や業界に対する理解があるか
監査法人を選ぶ際の基準の3点目は、その監査法人が関わる会社の業務や業界に一定の知識や理解があるかどうかという点です。
監査法人が一般的なIPOに関して、知識があったり支援体制が整っていたりしても、監査法人に肝心の監査対象の会社の業務内容や業界動向に対して必要な知識や理解力が欠けていれば、いざIPOの段取りや話し合いを開始してもスムーズに行かないことが多いです。
それでは迅速なIPOの実現は難しいので、選定に当っては、監査法人が会社の業務や業界に一定の理解があるかどうか、しっかり見極めるようにしましょう。
監査法人とIPO会社は信頼関係を築けるか
監査法人を選ぶ際の基準の4点目、それは監査法人としっかりした信頼関係を築けるかどうかという点です。
IPOでは、準備開始から申請までに最低でも期間は3年程度掛かります。
その上、監査法人は、上場前から上場後も最も長く関わりを持つ外部関係者なので、最初に信頼関係を築けるかどうかは、今後の円滑な関係維持のためにも重要な条件になります。
さらに監査法人といっても、IPOで具体的に関わりを持つのは監査法人に所属するスタッフや公認会計士なので、その方々との相性もまた信頼関係構築のための重要な要素です。
これらが満たされて初めてIPOの手続きが迅速かつ効率的に進むので、監査法人選びでは、この信頼関係や相性という基準もしっかり頭に入れて選ぶようにしましょう。
おわりに
IPOに係わる関係者のうち、監査法人について、その役割や選定方法について詳しく解説しました。
次回記事では、(中編)として同じくIPOのプロセスで重要な役割を果たしている証券会社について詳しく紹介します。
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